「マザー・テレサ映画祭」(提供:女子パウロ会)が10日、東京都目黒区の恵比寿ガーデンプレイス内にある東京都写真美術館ホールで開幕した。初日には、映画監督の千葉茂樹氏がトークショーに参加し、参列した列聖式の様子や映画の撮影秘話などについて語った。
世界で最も貧しい場所といわれるインド・コルカタ(カルカッタ)を拠点に、宗教や人種を超えて貧しい人々への奉仕活動を行い、その姿を通して「愛」とは何かを世界中に示し続けたマザー・テレサ。3月にカトリック教会で最高位の崇敬対象となる「聖人」に認定され、9月4日にはバチカンのサンピエトロ広場で列聖式が執り行われた。
マザーの列聖を記念した同映画祭は、3週間にわたって開催され、マザーの愛に満ちた活動の軌跡を7本の映画で紹介する。オープニングでは、いずれも千葉氏が監督した「マザー・テレサとその世界」(1979年)、「マザー・テレサの祈り 生命それは愛」(1981年)、マザーの生誕100年を記念して撮った「マザー・テレサと生きる」(2009年)の3本が上映された。
千葉氏は、日本人として初めてマザーの取材を許可され、その後30年にわたりマザーを撮り続けてきた。「マザー・テレサとその世界」は、マザーを撮った最初の作品で、コルカタの「神の愛の宣教者会」でのマザーとその仲間たちの清貧の日々や、多岐にわたる活動の記録。「マザー・テレサの祈り 生命それは愛」は、1981年に初めて日本に訪れたマザーの7日間を追ったもので、日本でのマザーの姿を見ることができる貴重な映像となっている。
「マザー・テレサと生きる」は、当時のマザーの後継者シスター・ニルマラ総長の特別許可のもと、初めて「神の愛の宣教者会」日本支部の取材が許された唯一の作品だ。マザーが帰天して12年、マザーの精神がどのように受け継がれ、活動が続いているかについて、コルカタの「死を待つ人の家」で働く日本人医学生、東京都台東区にある山谷で、孤独な老人やホームレスの人たちの仲間として共に生きるシスターやブラザー、市民ボランティアの姿を通して語られていく。
この映画で印象深いのは、「愛はどれだけ与えるかではなく、どれだけ心を込めて愛するかなのです。皆さんの未来、それは神が望まれるように皆さんが築く未来なのです。どのように?それは純粋な愛をもって」というマザーの言葉。マザーはたくさんの言葉を残しているが、その言葉は色あせることなく多くの人々の心に刻まれ、生きる指標となっていることを映画は教えてくれる。
上映後に続いて登壇した千葉氏は、ローマ・バチカンで行われた4日の列聖式に参列し、この日の朝、日本に帰国。空港から直接会場に駆けつけた。
千葉氏がマザーの映画を撮ろうと思ったのは、妻から「マザー・テレサにどうしても会いたい」と言われたのがきっかけだ。当時マザーは日本では特に知られておらず、千葉氏もよく知らなかったという。「初めから映画を撮ろうと思ったわけではなく、妻に誘われて会いに行った」ことを明かし、「マザーがカルカッタで何をしているのか知りたいという一方で、世界最悪の環境の貧困の街であるカルカッタに行ってみたいという、そんな考えで出掛けていった」のだという。
今回の列聖式には、日本人で初めてマザーを撮影したということで参列した。「時差ぼけで曖昧なことを言うかもしれませんが」との前置きに会場から笑いが起きる中、千葉氏は、自身が実際にローマで体験したマザーの列聖式について、その様子をスライドに写しながら語った。
列聖式は、3日から5日の3日間にかけて行われた。晴天に恵まれつつも、気温が35度まで上がる猛暑の中、さまざまな行事が行われた。3日には、翌日の列聖式の準備のため、マザーに関係する700人ほどの司祭たちが集まった。ここで千葉氏は、今から30年以上も前にマザーを撮影するときに出会った人たちと再会した。撮影当時、2人の日本人がマザーのもとで働き始めており、「日本からシスターが2人来てくれた。今度は20人来てほしい」とマザーが語ったエピソードなどを紹介した。
4日の列聖式当日、会場となったサンピエトロ広場には、開始1時間前からすでに半分以上の席が埋め尽くされ、正式発表では約15万人が集まったという。千葉氏は、「大勢の関係者に会いたい、そして、なぜ集まったかを皆さんに聞いてみたいという思いで私も駆けつけました」と語り、「約2時間の儀式でしたが、教皇フランシスコの司式は、厳かで感動的だった。大きな仕事に立ち会ったと感じました」と感想を述べた。
また、「一番圧倒されたのは、式が終わって教皇が参加者の周りをぐるっと回ったこと」だったと、その時の貴重な映像をスクリーンに映し出しながら話した。多くの人が集まった会場の映像を見ながら千葉氏は、「マザーは、この時代に必要な人だったのだと強く感じた」と語った。
千葉氏は、マザーが「貧しい人」について書いた文章を紹介した。物質的・精神的に困窮している人や、社会に見捨てられている人などを「貧しい人」として挙げていくが、最後にマザーは、「貧しい」のは「私たち自身」だと指摘する。千葉氏は、「これはマザーでないと書けないものだと思う。私は今日の映画の中で、山谷で働いて山谷で生涯を終わる人たちに、私たち自身の姿を見る」と話した。
千葉氏は、「私たちがマザーに出会うということは、 マザーの愛の働きを私たちが請け負っていくことではないでしょうか」と問い掛け、「一人一人いろいろなやり方でいいと思うのですが、私たちが生きているこの時代に、マザーがこれだけの業績を残し、聖人にもなって、私たちの目の前にいるということを、あらためて私たち自身どう受け止めるか。覚悟を決めて家に持ち帰ってもらいたい」と力を込めた。
会場からは、撮影にはどのくらいの時間を要したのかなどの質問があった。千葉氏は、最初に撮った「マザー・テレサとその世界」は、企画の段階で会社から全く相手にされなかったため、女子パウロ会とお金を半分ずつ出し合って一緒に作ったことを明かした。撮影自体は12月の1カ月間で終わったが、撮影までに、マザーの許可をもらうのに1年、インド政府の許可を取るのに4カ月かかったという。
また、許可が下りてからもハプニングの連続で、初めにニューデリーの空港に降り立ったとき、機材が行方不明になってしまった。マザーにそのことを告げると、あわてる様子もなく「祈りましょう」と言われ、祈ったところ、翌朝、空港から見つかったとの連絡があった。その時、教会にも行ったことのない2人のカメラマンから真剣な顔で「お祈りって本当に効くんですね」と言われたという楽しいエピソードも紹介した。
最後に千葉氏は、同映画祭を機会に「『マザー・テレサと一緒に生きるという姿』になってほしい」と呼び掛けた。
会場に訪れたカトリック信者の女性は、「映画を見て、一人一人に心を向けるマザーの姿に感動した。相手のことを祈り、相手の気持ちになって物事を進めることが大切だと思った」と感想を語った。
列聖記念「マザー・テレサ映画祭」は30日(金)まで。上映スケジュールなどの詳細は、公式ホームページまたは公式フェイスブックページ。なお、16日(金)は片柳弘史神父、24日(土)は音楽家のこいずみゆりさんのトークイベントも開かれる。
問い合わせは、東風(とうふう)(電話:03・5919・1542、ファックス:03・5919・1543、メール:[email protected]、担当:石川)まで。