今月後半にギリシャのクレタ正教アカデミーで全世界正教会会議が開催されるのを前に、一部の国の正教会が不参加や延期の提案を表明している。
英クリスチャントゥデイは2日、「テーマや組織に関する変更」がなされるまで同会議を延期すべきであるなどとしていたブルガリア正教会が、結果的に同会議からの撤退を表明したと伝えた。それによると、ブルガリア正教会は、この会議のために準備されてきた文書の草案に対する六つの抗議を列挙し、これらの抗議が受け入れられなければ、ブルガリア正教会は「参加しない決意である」と述べているという。そして、7日には「全世界正教会会議、ブルガリア正教会が出席を取りやめても予定通り開催へ」という見出しの記事を掲載した。
ブルガリア正教会による抗議には、「今日的な関連性を持ち時宜にかなった全世界正教会会議の決議を必要とする」重要な諸問題の欠如に対する曖昧な言及が含まれているが、これらの問題が何であるのかは特定していない。
ブルガリア正教会はまた、「独立正教会の首座主教たちの平等という原則に違反している」として、同会議における各国正教会の首座主教たちのための座席の配列に対しても抗議しているという。
これに加え、シリアのアンティオキア総主教庁聖シノドも、6日に発表した声明の中で、「全世界正教会会議の間における聖体礼儀への参加を妨げている理由が消えてなくなるまで、アンティオキア正教会は会議に参加しない」ことを全会一致で決定したと表明した。
アンティオキア総主教庁聖シノドが2013年3月13日に発表した声明によると、同総主教庁は、カタールがアンティオキアの地理的な管轄に含まれるにもかかわらず、エルサレム総主教庁の修道司祭、マカリオス掌院(しょういん)を「カタール大主教」に選出したことをきっかけに、エルサレム総主教庁と対立。マカリオス掌院はその後、主教として成聖され、「カタール府主教」という称号を持つ府主教にまで昇進したという。
その後、エルサレム総主教庁は、アンティオキア総主教庁との間でいわゆる「カタール大主教区」の廃止を命じる協定に署名したものの、その実施を拒否したため、アンティオキア総主教庁は14年4月、エルサレム総主教庁と領聖(プロテスタントでは「聖餐」または「陪餐」、カトリックでは「聖体拝領」)を共にする関係を断つことを決めていた。
「二つの使徒的教会の間における領聖が断たれている間は、この会議が持つ領聖的な性格からして、全世界正教会会議を開催してはいけない」などと、アンティオキア総主教庁聖シノドは主張している。
一方、セルビア正教会も9日、英文公式サイトに、各国の正教会の首座主教や聖シノドに宛てて、「私たちの教会は、召集を受けている全世界正教会会議に参加するのは困難であると感じており、一定の間、それを延期することを提案する」とするメッセージを掲載した。
さらに、ジョージア(旧グルジア)正教会も13日、コンスタンディヌーポリ全地総主教バルソロメオス1世と各国全ての正教会に宛てたカトリコス総主教の書簡の中で、ジョージア正教会は10日に開いた聖シノドの通常会合で、同会議に参加しないことを決定したと、公式サイトで発表した。
ロシア正教会が英文公式サイトで伝えたジョージア正教会の事務局代表であるアンドレイ府主教からの報告によると、同府主教は、同会議が持つ将来の目標は「正教の一致を世界共同体の前に示し、今日における焦眉の諸問題について正教会の共通の立場を表すことである」と述べた上で、次の内容などを記したという。
「しかしながら、アンティオキアとエルサレムの正教会の間で領聖を共にする関係が回復されていない。アンティオキアの正教会に加えて、ブルガリアとセルビアの正教会もこの会議への参加を拒否した。『正教会と他のキリスト教世界との関係』を含むいくつかの文書には、教義的、教会法的および用語的な不正確さが含まれており、重大な再検討が必要である。アンティオキアの正教会は、この文書を承認できるとは考えられないことから、全世界正教会会議を開催することを決定した2016年の正教会首座主教決議に署名しておらず、同会議の作業手続にも署名しなかった。設立された同会議の事務局には決定権が与えられていないことから、機能していない」
アンドレイ府主教からの報告によると、ジョージア正教会ではその後議論が行われ、「私たちは他の正教会と共に、全般的な一致が達成されるまで、この会議を延期することを提案する」ことを表明したという。その結果、ジョージア正教会聖シノドは、同正教会の代表団が同会議に参加しないことを全会一致で決定した。
これらを受けて、ロシア正教会聖シノドは13日、声明で次の6項目を決議したと公式サイトで明らかにした。
- 全世界正教会の議論の結果として設定される必要がある時間の間、そして一般的に認められている各国の独立正教会の首座主教たちが同意するという不可欠な条件の下で、全世界正教会会議の開催を延期するというアンティオキア、ジョージア、セルビア、そしてブルガリアの正教会の提案を支持すること。
- 適切な提案を速やかにコンスタンディヌーポリのバルソロメオス総主教聖下と各国正教会の全ての首座主教たちへお送りすること。
- いくつかの国々の正教会による同意が欠如しているにもかかわらず、クレタでのこの会議がそれでも開催される一方で、万一この提案がコンスタンディヌーポリの最も聖なる教会によって受け入れられない場合は、ロシア正教会の代表団による会議への参加は、深い遺憾の意をもって、不可能とみなすこと。
- 将来の全世界正教会会議を準備する上で、全世界正教会の協力を統合する努力をあらゆる可能な手段で続けること。なぜなら、それは聖なる普遍的で使徒的な教会の一致を真に証しするものとなるよう招かれているからである。
- 問題のある争点についての決議のための提案を検証することができるようにする機関としての、全世界正教会会議事務局のより集中的な働きによって、この会議の準備を成功のうちに達成するよう推進すること。既存の違いを解決し、必要な文書を仕上げ、全世界正教会会議の開催と神に喜ばれる完了のために全ての障害を取り除くためである。
- 多くの各国正教会において表明された提案を考慮に入れれば、将来のこの会議は、神の聖なる教会の全ての高位聖職者が出席できることが望ましいとみなすこと。なぜなら、それはこの会議によってなされる決定が持つ権威を確実に増大させることになるからである。
ロシア正教会は3日、公式サイトで、「2016年6月18日から26日まで行われる、重大な問題が全世界正教会会議の準備の過程で起こってしまったが、それはとりわけ、ロシア正教会や他のいくつかの国の正教会における、この会議の準備やこの会議の草案文書に関する真剣な批判をめぐって、その日付が延期されない限り、ブルガリア正教会が同会議に出席するのを拒否するとしていることである」と説明していた。
ロシア正教会は同日、一部の国の正教会が同会議に参加するのを拒否していることから、その状況の中でどう進むべきかを決めようと、同正教会聖シノドが10日までに臨時会議を開くことを決議したと、公式サイトで伝えていた。
コンスタンディヌーポリ全地総主教庁は1月、同会議を6月16日から27日まで開くことなどを記した公式声明を発表していたが、同会議の公式サイトには、会議が18日から27日に開催すると最終的に決定したと記されている。しかし、コンスタンディヌーポリ全地総主教庁の公式サイトには、14日現在の時点では、「19日から26日まで」と記されている。一方、英クリスチャントゥデイは、上述した7日付の記事で、その期間を「16日から26日まで」と報じていた。
ソーシャルメディアや報道機関は、同会議開催を前に起きたこのような混乱を伝えている。これに対し、コンスタンディヌーポリ全地総主教庁は13日、「多くの疑問、簡単な答え」と題する動画をユーチューブに掲載。「出席について考えを変えた諸教会も含め、全ての諸教会にとって、全世界正教会会議の決定は有効であり、権威あるものだ」などと説明している。
コンスタンディヌーポリ全地総主教庁は8日、ウクライナ正教会(モスクワ総主教庁系)司祭のシリル・ホボルン博士による「全世界正教会会議が近づくにつれて、対立や不確実性が強まる」と題する英文記事を、公式サイトに掲載していた。
同会議の公式サイトには、会議の参加者として、アンティオキア総主教庁やセルビア正教会、ブルガリア正教会、ジョージア正教会、ロシア正教会を含む14の独立正教会とその指導者らの写真が依然として掲載されている。
同サイトには、議題となる項目の文書として、1)現代世界における正教会の使命(ミッション)、2)正教のディアスポラ、3)独立とその宣言の在り方、4)婚配の機密とそれを妨げるもの、5)今日における断食の重要性とその遵守、6)正教会と他のキリスト教世界との関係――という六つが挙げられている。
また、コンスタンディヌーポリ全地総主教庁は公式サイトにある「質問と答え」の欄で、「全世界正教会会議は全ての14の独立正教会の会議である」「全地総主教バルソロメオス聖下によって開かれる」「全地総主教バルソロメオス聖下が議長を務める」などと説明。また会議の目的は、「教会の不規則性を解決し、正教徒のハリスティアンたちに影響を与えている牧会的な問題について語り、そして地球社会の中における正教会の関連性や貢献を再確認すること」だとしている。
一方、コンスタンディヌーポリ全地総主教庁はフェイスブックで、全ての首座主教がこの会議のために祈るよう呼び掛けていると伝えている。