昨年3月、広く精神文化をテーマとした論文や評論を募って優秀な作品を表彰する、第11回「涙骨賞」(主催:中外日報社)の最優秀賞に選ばれた森島豊氏(青山学院大学准教授、元日本基督教団長崎平和記念教会牧師)の論文「日本におけるキリスト教人権思想の影響と課題」が書籍化される。加筆・増補を経て『人権思想とキリスト教―日本の教会の使命と課題―』と題を改め、22日、教文館から刊行される。
本論文は、人権思想の歴史的展開をたどり、人権の理念が法制化していく過程にキリスト教信仰の影響があったことを再確認。欧米だけでなく、日本国憲法においても、プロテスタント思想が人権の概念を推進する動力となっていたことを明らかにし、キリスト教界のみならず、仏教超宗派の新聞社主催の涙骨賞においても各委員から一致した高い評価を受けた。同賞でキリスト教関係の論文が受賞したのは初めてで、さらに3年ぶりの最優秀賞受賞であったことから、広く注目を集めた。
今回書籍化されるに当たっては、同賞受賞をきかっけに、新たに神道や仏教にも視野を広げて加筆がなされた。日本の宗教政策の仕組み、「信教の自由」をめぐる問題についても分かりやすく解説され、さらに、現代日本におけるプロテスタント伝道の課題克服の道が提示される。
人権とキリスト教を主題として執筆された本論文がベースになっているが、本書は、キリスト教会の使命に焦点を当て、教会の牧師・信徒向けにあらためて執筆された、非常に分かりやすい内容となっている。刊行に当たって森島氏から本紙に、読者に向けてのメッセージが寄せられている。
来る11月3日に日本国憲法公布70年を迎えようとしている今、この憲法を改正しようとする動きが加速しています。国民もこの動きをどうとらえればよいのか分からずにいます。この問題について様々な立場からの研究がありますが、キリスト教会の信仰の立場からこの主題を扱ったものはごくわずかです。この記念の節目の年に、人権の法制化過程と日本国憲法の成立過程にあるキリスト教の影響を紹介する書物を送ることができ、感謝しております。
憲法第97条では「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」であるとうたわれています。本書では、その背景に福音伝道の影響があることを明らかにしています。しかも、それが日本国憲法の成立にまで影響しているのです。しかし、日本では福音伝道も人権をまもることもうまく行きません。今回、その日本の不思議な現象を、日本の宗教政策から紐解(ひもと)いていきました。内容に驚愕(きょうがく)されると思いますが、合点がいくことが多々あると思います。
最後には、その中で教会の使命を明らかにしています。神を礼拝することが、福音伝道の働きが、この社会で大きな意味があることを明らかにしています。是非ご一読ください。
26日には、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会(東京都新宿区)で行われる第25回ホーリネス弾圧記念聖会で、森島氏が講演する。本書の内容に関連し、キリスト教信仰を貫徹すると弾圧を受ける日本の仕組みについて紹介するという。
森島豊著『人権思想とキリスト教―日本の教会の使命と課題―』、6月22日、教文館、本体1500円(税別)