5・3憲法集会実行委員会は憲法記念日である3日、東京臨海広域防災公園(東京都江東区)で「平和といのちと人権を!5・3憲法集会 明日を決めるのは私たち THE FUTURE IS OURS」と題する大規模な集会を開催し、主催者発表で5万人が参加した。昨年の5・3憲法集会の3万7千人より増加した。同集会では、一部のキリスト教団体も参加している「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の「戦争法の廃止を求める2000万人統一署名」の署名者数が1200万人を突破したと発表された。
開会あいさつで、「解釈で憲法9条壊すな!実行委員会」の高田健さんは、4月に行われた北海道5区と京都3区の衆議院補欠選挙に言及し、「私たちは来る参議院議員選挙でも、これらの経験に学び、とりわけ一人区での野党候補者の一本化を実現し、憲法9条の改憲と国家緊急権・戦争緊急事態条項などの加憲による憲法改悪を企てる安倍政権と闘い、最低限でも自公与党とその補完勢力の3分の2議席の確保を阻止し、安倍内閣の退陣を実現する必要があると思います」と述べた。
「そのためにも、引き続き2000万人統一署名を推進し、6月5日、国会包囲大闘争と、それに呼応した全国の市民行動の高揚を勝ち取りましょう。沖縄の辺野古の新基地建設を阻止しましょう。川内原発の即時停止と、原発再稼働反対の広範な運動を巻き起こしましょう。貧困と格差の拡大の悪政に反対しましょう。平和を願う東アジアの民衆と連帯し、再び戦争の道を歩むこの企てを阻止しましょう」と、高田さんは続けた。
そして、「ご参集の皆さん、本日の2016年5・3憲法集会を契機にして、戦争に反対する2016年安保闘争の巨大な飛躍を共に勝ち取りましょう。戦争法の発動を絶対に止めましょう。この国を戦争する国にさせてなるものですか!海外の戦争で殺し殺されなかった70年の歴史をこれで終わらせてなるものですか!私たちは自民党改憲草案が目指す全体主義・国家主義の社会の到来を阻みましょう。憲法改悪反対、安倍政権退陣、参院選で野党の勝利を実現しましょう」と強く訴えた。
最後に、昨年の国会前の集会で何度か紹介したという短歌をあらためて紹介。1978年、有事法制の検討が始まった頃、自立的な女性の平和団体の草の実会に属していた石井百代さんが朝日新聞に投稿した「徴兵は 命かけても 阻むべし 母祖母おみな牢に満つるとも」という短歌を読み上げた。
高田さんは、「皆さん、今こそ頑張るときです。私たちは必ず勝利しましょう。本日の5・3憲法集会の個の圧倒的な結集を必ず大きな成功に導きましょう」と結んだ。
その後、4人のゲストがあいさつした。最初に、高校生1万人署名活動委員会東京支部代表で上智大学生の白鳥亜美さん(第17代高校生平和大使)は、核兵器廃絶と平和な世界の実現を目指す署名を国連に届けた活動を紹介。東京の御茶の水駅前・メーデー中央大会・自分の高校・教会などさまざまな場所でこの活動を行ってきたという。
「18歳から選挙権が与えられるようになり、憲法9条を変えようとする動きがある中、この現状をそのままにしておくわけにはいきません。戦争経験者の生の声を聞ける最後の世代といわれる私たちが行動を起こすことが大切だと思っている」などと語った。「これからの時代を生きる高校生が平和の尊さを語り継いでいけるよう、私たち大学生スタッフも一丸となって活動を続けてまいります」と白鳥さんは語り、協力と理解を求めた。
続いて、立憲デモクラシーの会共同代表の山口二郎さん(法政大学教授、政治学)が、「日本は戦争のできる国になりつつある」と警告。「戦争のできる国」にある幾つかの特徴として、「1. 政府は真実・事実を覆い隠し、国民をだますということ、2. 個人の多様性や自由が否定され、そして権力者やそれに結び付く偉そうなオヤジ・じいさん・ばあさんたちが個人の生き方にやかましく干渉し、特に女性に対して早く結婚しろとか子どもを産めとか余計なことを説教する、3. 特に学問に対する抑圧が進み、金もうけあるいは国策につながらない人文社会系の学問はするなと文科省が平気で言うようになった」と指摘した。
「野党協力の土台には、広範な市民の結集があるんです。立憲主義と平和を守るというこの市民の結集こそ最大の大義名分であります」と山口さんは強調し、「ともかくこの7月の参議院選挙で私たちが後世の日本人に対して恥じることのないように、全力を尽くして与党を負かせる、憲法を守る。そのために、さらに闘ってまいりましょう」と呼び掛けた。
続いて、農業生産法人役員で辺野古基金共同代表の菅原文子さんは、地震で崩れた熊本城の石垣について、石垣職人が「崩れた石垣は新しく造った石垣で、石に奥行きがなく、同じ石で積み上げられているから弱かった。それで崩れたのだ。昔の石垣は大小さまざまの石垣で積み上げられ、石にも奥行きがある」と語った話を紹介。「奥行きのない統一な石で積み上げられた弱い石垣は、安倍政権のことではないでしょうか」と批判した。
そして菅原さんは、「奥行きのあるいろんな価値観を持った集団的経営でないと、多様で複雑な世界と向き合えないと思いますので、次の選挙では、ぜひ奥行きのある、幅のある石、多様な石、大小さまざまな石を積み上げる国会にしてほしいと思います」などと語った。
100歳を超えて現在も活動中のジャーナリスト、むのたけじさんは、ジャーナリストとして戦争を国内でも海の外でも経験したと語り、戦争とは、「相手を殺さなければこちらが死んでしまう。死にたくなければ相手を殺せ」というものであり、それによって道徳観が崩れると指摘した。
「だから、どこの場所でも戦争があると、女性に乱暴したり、物を盗んだり、証拠を消すために火をつけたりする。これが戦場で戦う兵士の姿です。その兵士を指導する軍の親方は何を考えるか? どこの軍隊も同じです。『敵の国民をできるだけたくさん、できるだけ早く殺せ』。そのために部下を働かせる。これが戦争の実態です」とむのさんは語った。
「こういう戦争によって社会の正義が実現できるでしょうか? 人間の幸福が実現できるでしょうか? できるわけがありません。だからこそ、戦争は決して許されない。それを、私たち古い世代は許してしまいました」とむのさんは語り、「本当に申し訳ない」と述べた。
「戦争を始めてしまったら、止めようがないと力説したい」とむのさんは語った。日本国憲法にあることは「必ず実現すると断言します。それは、この会場の光景が物語っています。ご覧なさい。若いエネルギーが燃え上がっているじゃありませんか。至るところに女性たちが立ち上がっているじゃありませんか。これこそ、新しい歴史が大地から動き始めたことなんです。とことん頑張りましょう」とむのさんは力を込めた。
そして、「第三次世界大戦を許すならば、地球は動植物の大半を死なせるでしょう。そんなことを許すわけにはいきません。戦争を殺さなければ、現代の人類は死ぬ資格がない。この覚悟を持ってとことん頑張りましょう」と結んだ。
次に、市民連合の浅倉むつ子さん(早稲田大学大学院法務研究科教授)が、「今の政権はあまりにもルール無視を繰り返し、暴挙を重ね、堕落していると思います。今この瞬間にも、災害や貧困や差別・偏見に悩み苦しんでいる人々がいます。今の政権はこのような人々を顧みることなく、いやむしろ踏みつけにして、日本を戦争できる国にしようとして突き進んでいるように思われます」と指摘した。
「しかし一方、悩んで苦しむ人々を支えながら共に闘う学問、それは常に存在しています」と浅倉さんは語り、「私たちは諦めません。若い人々と共に、学問は無力と言われながらも、民主主義を育て、立憲主義を回復するために、この安倍政権を、堕落した自民党政権を批判し続けるつもりです。皆さん、最後までご一緒に頑張りましょう」と結んだ。
その後、四つの野党の各代表があいさつした後、(公社)シャンティ国際ボランティア会の市川斉さん、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックの青木初子さん、NPO法人原子力資料情報室の片岡遼平さん、障がい者の生活と権利を守る全国連絡協議会の家平悟さん、朝鮮高校生徒、日本消費者連盟の纐纈(こうけつ)美千世さん、子ども教科書全国ネット21の糀谷陽子さん、日本労働弁護団の嶋﨑量(ちから)さん、NPO法人しんぐるまざーず・ふぉーらむの竹内三輪さんらがリレートークを行った。
そのリレートークの最後に、自由と民主主義のための学生緊急行動(SEALDs)の奥田愛基(あき)さんは、「憲法守れ!」「戦争反対!」「みんなの暮らしに税金使え!」とコール。「僕は安易な革命でもニヒリズムでもなく、言うべきことをただ言いたい。政府や国家におんぶに抱っこであれば、賢い人たちがその都度それなりの答えを出してくれるかもしれません」などと奥田さんは語った。
「けれど民主主義というものはどうやら長い道のりであり、決して平坦な道ではないようです。ある種、闘いであり、挑戦であるようです」と奥田さんは話した。「私たちは今、日本という民主主義国家に生きています。それを名ばかりだという人もいます。ただ私たちが私たち自身の権利を行使し、それを行使し続けることによって、寸前のところでこの民主主義を殺さずにいるのではないでしょうか」
「今日は憲法記念日です。憲法の主権者・主体者は私たち一人一人です。私たちは、私たち自身の頭で考える権利を持っています。これを聞いている人たちも、またこれまで話した人たちも、等しく主権者です。70年の不断の努力がこれを支えてきました。こんなところで終わるわけがないんですよ」と奥田さんは述べた。
その上で、「憲法に書かれている言葉は大昔の人たちの言葉でもないし、もう終わった言葉でもありません。これはまぎれもなく“私”“私たち”の言葉なのです」と奥田さんはスピーチを結び、「よろしくお願いします。今年は頑張りましょう!」と呼び掛けた。
閉会宣言の前に、「戦争をさせない1000人委員会」の福山真劫(しんごう)さんが、1200万を超えた統一署名者数を発表した上で、1. 6月末まで続ける予定の戦争法の廃止を求める統一署名運動の署名者数を2000万目指して頑張ること、2. 第3火曜日の街頭宣伝行動と毎月19日の国会正門前行動に結集すること、3. 6月5日に国会前で計画されている「明日を決めるのは私たち 政治を変えよう 6・5全国総がかり行動」で、昨年9月に行われた10万人超・全国1500カ所での集会を上回る人たちで安倍政権を揺さぶり、そして追いつめて退陣に追い込むこと、4. 7月中旬の参議院選挙で野党が共闘し、次の参議院選挙・衆議院選挙で平和を守り、民主主義を守り、憲法を守るという勢力が多数派になることを現実にするために、全国各地で自分の地域や職場で頑張ること、という四つの行動を提起した。
この集会に参加した日本カトリック正義と平和協議会事務局長の大倉一美神父は、集会の終了後、本紙に対し、「たくさん集まってよかった。これを機会に参議院選挙に向けて皆さん一緒に頑張ります。若い人たちもたくさんいた」と語った。
また、同じくこの集会に参加した「平和を実現するキリスト者ネット」(キリスト者平和ネット)事務局代表の平良愛香牧師は、本紙とのインタビューに答え、「今日の集会は5万人という発表があって、やっている人たち、意識を持っている人たちがいっぱいいるんだなと思いました。何となく、自分たちの近くの親しい人だと、けっこう大事だよねっていう話はできるけれど、ちょっと離れた人だと、そういうことを考えていないのかなと錯覚に陥る。こういうところへ来ると、自分が想像しているより多いということを確信できたし、戦争法反対署名が1200万ということで、たくさんの人が思いを持って行動しているんだなと思いました」と話した。
集会の終了後、平良牧師は、参加者たちによるデモ行進のパレードが出発する前に、ときわひろみ作『おじいさんのできること』という核廃絶のための紙芝居を朗読し、他の宗教者と共にパレードに参加するキリスト者らの関心を引いていた。
平良牧師は、この紙芝居について、「おじいさんが自分にできることといって歩き始めて、『私も歩くわ』っておばあさんが歩き出して、乳母車をしたお母さんが歩き出して、ジョギング中のお父さんが歩き出して、だんだん列が長くなっていく。戦争反対という気持ちを思うだけじゃなくてそれを表明して歩き出した人たちが、地球上を覆っていくという話です」と説明した。
この集会には他に、日本バプテスト連盟、カトリック東京教区正義と平和委員会、イエズス会社会司牧センター、カトリック労働運動、「平和といのち イグナチオ9条の会」、YWCAなども旗を掲げて参加していた。
パレードが始まると、その脇で音楽を演奏していたバンドの前にキリスト者の団体が差し掛かったところで、そのバンドが賛美歌でもあるジョーン・バエズの歌「We Shall Overcome(勝利を我らに/勝利をのぞみ)」(『讃美歌21』471番)を英語で歌う場面もあった。
また、集会の開会前に正午から行われたプレコンサートでは、シンガー・ソング・ライターのきたがわてつさんが、アコースティック・ギターなどの伴奏で自由と平和を守る生き方を歌い、続いて日本国憲法前文の歌を歌った。
続いて沖縄の代表的な音楽家である古謝(こじゃ)美佐子さんが、権力に抵抗する沖縄民謡などを三線(さんしん)やキーボードの伴奏で歌い、賛美歌・聖歌「アメイジング・グレイス」の沖縄版を沖縄の言葉で披露した。