上智大学(東京都千代田区)は23日、「これからの国際協力と人材育成の在り方を考える」をテーマに、上智大学国際協力人材育成センター開設記念シンポジウムを開催した。国際協力の分野の働きに深い関心を持つ学生や高校生、社会人など約200人が集まり、国連をはじめ国際機関などで実際に働く上で必要となる具体的なスキルや心構えについて学外機関からの話を聞き、国際協力の構造を多面的に考える機会を持った。
1913年に開講して以来、一貫してキリスト教ヒューマニズムの精神を大学の根幹に据え、「Men and Women For Others, with Others(他者のために、他者と共に)」を教育精神に掲げる上智大学。この教育精神をマインドとした上智大学国際協力人材育成センターが昨年7月に開設された。次世代を担う国際協力人材を育てることを目的とする同センターは、英知と実践が結集された「国際協力、国際機関への道」を提供する。
この日の基調講演には、フォーリン・プレスセンター(FPCJ)理事長の赤阪清隆氏と外務省国際機関人事センター長の阿部智氏が登壇した。赤阪氏は、元広報担当国際連合事務次長で、広報局 (Department of Public Information) のヘッドとして、世界中の国連広報センターを統括してきた。
これまでの「ミレニアム開発目標」(MDGs)に代わり、昨年9月に「持続可能な開発目標」(SDGs)が国連で採択されたことを述べ、発展途上国の開発が進む中、日本の国際社会への貢献がこれまで以上に重要になってくることを話した。
その中で、国際機関で働く日本人職員が極端に少なく、今の2~3倍になってもおかしくないと話し、さらに今後は国際機関のトップにもっと日本人が登用されることを期待した。
また、マレーシア、ジュネーブ、ブラジル・サンパウロ、パリ、国連本部で勤務した経験を失敗談も含めて語り、グローバルに働くことの魅力について「仕事の充足感が得られる」「人生の使命感(ミッション)が強く感じられる」「多様な人々と接し、視野が広くなる」といったことに加え、個人的なこととして、社交的になり、世界中に友達ができることや、比較的高い収入が得られるといったことまでざっくばらんに話した。
その一方で、グローバル人材としての資質を身に付けるために、「世界の動きを知る」「コミュニケーション能力を磨く」こととともに、BBCを聞いたり、フォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairas)など海外のメディアなどに触れ「英語力を磨く」ことを勧めた。
赤阪氏は、世界のGDPに占めるアジアのシェアの大きさから、今後アジアの世紀がやって来ると力を込める。「これまでイギリスは議会制、アメリカは経済といったことを世界に広めてきた。ではアジアは世界に何を広めるか?」と述べ、隣人への配慮や、高齢者を敬う心、質素倹約などを取り上げた。
その上で、「世界のために日本は何ができるか?」と問い掛けた。赤阪氏は、原発の問題、国際平和の保持と改善など、日本が他国に先駆けて率先して取り組むべき課題を挙げ、こういった使命感がパワーを生み出すと語った。そして、これらの課題解決のためにも国際的協力を担う人材が必要であることを伝えた。
続いて登壇した阿部氏は、現在関わる外務省国際機関人事センターの立場から、国際機関で働くために必要なスキルや方法などについて具体的に語った。国際機関で働くには、英語ができることは当然であるが、それと同じくらいに専門性も必要だという。
国際機関に入ることは手段であり、目的は国際機関に入って何をするかで、そのために専門家であることは重要な条件となる。また、英語の他にもう一つ公用語を習得しておくと有利であることや、フィールド経験を重視するのが最近の傾向だと話す。
また、国際機関には、専門職員と一般職員がいることや、人事・財務・予算をつかさどる管理部門分野も重要な仕事であることを説明した。給与については、国際公務員の給与体系を具体的に示し、「国連は最高の能力を持った人が働かなくてはならない。そのため、最高の給与が必要」と言われていることを説明した。
続いて、国際機関への応募方法にも触れた。その方法には、「空席公告」「外務省実施JPO派遣制度」「国連実施YPP」があり、「空席公告」では即戦力となる人材(=専門家)が求められる。空席はホームページで公開され、履歴書をメールで送り、面接はスカイプなどで行うのが一般的だという。
JPOは、外務省が国際機関の正規職員となるために必要な知識・経験を積む機会を、若手日本人を対象に提供する制度。派遣される国際機関は決められている。YPPは、国連事務局若手職員を採用するための試験で、年に一度行われている。ただし、試験対象国は毎年異なる。
阿部氏は最後に、JPOに合格し、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に派遣され、ギリシャ・レスボス島で難民支援を行う上智大学出身の石原朋子さんを紹介した。石原さんの活躍は2月にNHKの特集番組でも取り上げられた。
この日行われたパネルディスカッションには、特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)代表理事の大西健丞氏、国際開発ジャーナル社で「国際協力ガイド」を発行する荒木光弥氏、政策研究大学院大学(GRIPS)博士課程在籍の吉川愛子氏、同大総合グローバル学部教授で元国連広報官の植木安弘氏、そして基調講演者の赤阪氏と阿部氏が加わった。
植木氏は、国際機関への採用の厳しさを語り、「競争は厳しいけれど、『どうしても入りたい』という気持ちがあれば成し遂げることはできる」と励ました。そして、「国連ではクリエイティブであればあるほどいろいろな仕事ができる。『誰ができるかではなく、誰が先にやるか』だ」と仕事の面白さについて語った。
ODAの流れをずっと見てきた荒木氏は、「これからはPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)参画の機関が非常に増える。地方自治体の職員になっても、『国際協力』という発想があれば参画できる。ただし、英語は必修。その他にもアジアの言葉を一つ覚えてほしい」と話した。
大西氏と吉川氏は共に上智大学の卒業生。同大で過ごした4年間が現在の活動のバックボーンになっていることを明かした。PWJを設立した大西氏は、「どこかの機関に入るのではなく、何かを作ることも目指してほしい」と語った。吉川氏は、JPO制度で現地事務所と本部で働いた経験を持つ。現地事務所では、問題を見つけたら自分で解決方法を考えて行動できることを話し、国際機関の度量の大きさを伝えた。
赤阪氏も、「若い時にフィールドを経験してほしい。この日本のぬるま湯の中で、若い人が満足できるのか」と述べ、自分自身、特に大きな夢があったわけではなく、仕事をしていくにつれて使命感を見いだしていったことを明かした。学生、高校生には、「漠然としたものでいいので、学生時代に今後の使命感をイメージしてほしい。それが助けてくれる」とアドバイスをした。
阿部氏は、「本人の適正といったこともあるが、若いうちに自分が本当に面白いと思うこと、やりたいと思うことをやったほうがいい」「今は気軽に海外に行ける時代。学生時代に日本を出て外国の人と交流し、小さな交渉や依頼などいろいろな経験をしてほしい」と話す。そして、同センターについて、「制約はあると思うが、グローバルなものの考え方と、グローバルな行動の両方ができる人材が育ってほしい」と期待を込めた。
シンポジウムに参加した高校3年の女子高生は、「市民の目線で国際協力ができたらと思った。今日詳しく話を聞いて、国際機関で働くことについてイメージが湧いた」と感想を話した。