シリア内戦が始まってから約5年。同国の人口の半分が殺され、あるいはすみかを追われたが、同国の聖書協会は、聖書を必要としている全ての人々に聖書を提供する事業を続けている。
「不安だらけで、ここのキリスト教徒たちの間で聖書への渇望は増える一方です」と、同国の聖書協会の主事は説明する。同主事は、危険にもかかわらず、他の職員と共に、国内に留まり続けてきた。「過去5年間はシリア人全般にとって、そしてとりわけシリアのキリスト教徒たちにとって、とても心に深い傷を負わせるものでした。どの家族も悲しい体験談を持っています。この希望の喪失を受けて、人々は慰めや励ましを求めて、神の御言葉を頼りにしつつあります」
およそ400万人のシリア人が自らの国を逃れた一方で、さらに760万人が国内ですみかを追いやられており、より安全な地域で避難するために、爆撃を受けたり包囲された自らの町や村を後にしている。多くの人たちが超満員の家々やアパートで友人かまたは家族、あるいは自らの家を開放してくれた他の人たちと暮らしている。
10倍に増えた需要
この計り知れない心の深い傷と動乱のただ中で、同協会は、聖書を求める要望を以前よりもはるかに多く受けている。この紛争が始まる前の年である2010年には、聖書協会が頒布した聖書はわずか1万5千冊未満だった。2014年までには、この需要は10倍も増え、15万9千冊近くがその年にシリア全土で頒布された。
この頒布はアレッポやダマスカスにある二つの聖書書店を通じて、また協力関係にある書店や教会、修道院、そしてボランティアを通じて行われた。信じがたいことに、ダマスカスの聖書書店はこの紛争を通じて開店したままとなっており、アレッポでは、近くでの戦闘がとりわけ激しくなったときも、わずか2日しか閉店しなかった。この書店がある建物の2階にロケット弾が命中したが、それは爆発せず、負傷者もいなければ聖書への被害もなかった。
アレッポでの暮らしは非常に困難になったが、そこを拠点とする聖書協会の職員のほとんどは留まっており、狙撃兵による攻撃の危険性を冒しつつ、通りのすぐそこで聞こえる砲撃の音に対して、彼らは働いて自らの任務をこなそうと進んで行く。毎日彼らは多くの訪問者たちを書店に迎え、中にはひっきりなしに流れてくる若者たちもおり、彼らは聖書協会と地元の教会の共同事業を通じて、無料で聖書の提供を受けている。
危険な旅
この国中で聖書を運搬することは困難な任務であり、とりわけ遠隔な地域にいるキリスト教徒たちへ運搬することはそうである。しかし聖書協会はありとあらゆる手段―バスやトラック、教会のボランティア―を使って、聖書を必要とする人たちが確実にそれらを受け取ることができるようにする。キリスト教徒を励まし、聖書を彼らに届けようと、時には戦闘地帯で捕らわれながらも、職員自身が危険な旅をすることが多い。
聖書協会はまた、教会が聖書に基づいた心的外傷の癒やしを必要としている多くのキリスト教徒の家族たちにそれをもたらす能力を養うことも始めた。昨年の暮れには、教会の代表者たちからなるグループが、レバノンにある遠隔地の修道院で一週間を過ごし、中東の心的外傷の癒やしの専門家から学びつつ、自らの心的外傷の体験を分かち合った。
「参加者たちの一部は、当時包囲されていたアレッポから来ていました」と、ある職員は思い起こしている。「彼らは自分たちの家族がとても心配で、休み時間には家族に電話をし続けていました」
シリアの聖書協会が戦争と心的外傷のただ中で神の御言葉を伝えようと働いている中で、シリアにいるキリスト教徒たちのために、同国の教会のために、そして同国の聖書協会のために、どうか祈ってほしい。
* この記事は、聖書協会世界連盟(UBS)の公式サイトに2月19日付で掲載された英文記事を、UBSの許諾を得て、本紙が日本語に訳したものです。