日本の入国管理局(入管)における収容問題について意見交換をしようと、難民・移住労働者問題キリスト教連絡会(難キ連)は2月27日、東京都千代田区のカトリック女子修道会・幼きイエス会(ニコラ・バレ)で難キ連セミナー「獄にいる時訪ねてくれたII 入管収容とは? チャーター機大量強制送還はどのように行われたか」を開催した。セミナーでは、入管収容の当事者による入管の医療状況や強制送還についての証言や、チャーター機送還についての報告が行われたほか、この分野に詳しい弁護士が収容に関する日本と英国の比較を行った。
このセミナーの初めに難キ連事務局長の佐藤直子氏があいさつ。佐藤氏は約20人の参加者に対し、このテーマでは2回目となる今回のセミナーについて「2005年に大阪と長崎からの証言者をお招きしてお話しいただいたが、今回は特にちょっとこのごろ目に余るというか、このまま日本がこのような状況で難民の方々や外国人労働者として本当によく働いてくださった方々に何の恩返しもしていないどころか、長期仮放免という非正規滞在に置き、社会保障から疎外している」と語った。
その上で佐藤氏は、このセミナー開催の趣旨について「土井香苗弁護士が『”ようこそ”と言える日本へ 弁護士として外国人とともに歩む』(岩波書店、2005年)という本を著された。でも、今、シリア難民の方々に対しても、長い間非正規(滞在の状況)に置かれている方々に対しても、ようこそというおもてなしが一切できていない。今日このセミナーを企画したのも、ここに立ってお話しする方々だけではなくて、皆さんでできるだけ、質疑応答というよりもディスカッションのような形で、自由に、こうしたら日本はもっと良くなるんじゃないかというようなことを、忌憚(きたん)なくお話しいただきたい。むしろ私どもがこれからどう支援していくかという解答を皆さんと一緒に見つけたいという思いで、今日開かせていただいた」と説明した。
次に、プログラムに沿って、最初の当事者として証言した、仮放免中のBさん(匿名)は、「入管の医療状況とは」と題し、Bさんの妻が日本語でBさんの体験が書かれた原稿を代読した。Bさんに続き「強制送還の恐怖は今もよみがえる」と題し、Aさんが自身の体験を通して、20年余りの仮放免難民申請者の生活と日本に対する思いを語った。A、Bさんの証言については、難キ連からの要望で難民申請者の個人情報守秘と保護のため、割愛させていただく。
チャーター機送還報告
佐藤氏は、入管収容者が手錠をかけられたまま外部診療を受けた件数(2014年に全官署で申し出が2409件、実施が2376件)の資料や、「日本政府、バングラデシュ人22人を強制送還 難民不認定者も」というロイター通信の2015年12月10日付記事に言及しつつ、チャーター機送還の何が問題なのかを考えてもらおうと、「~K君の辿った道~チャーター機により強制送還された青年の軌跡」と題して、バングラデシュ出身で難民認定を申請していた青年について報告した。
被収容者面会から仮放免支援、また仮放免後の食糧支援、2015年7月の難民申請却下以後は、収容の不安を訴える本人に入管同行支援を続け、婚約者Wさんの紹介も受け、結婚を楽しみにしていた矢先、国際会議出席中の11月19日にWさんより突然の収容の連絡を受けた。
週明けの11月24日、本人に面会。K君は開口一番、婚約者Wさんを案じ「Wちゃんをよろしくお願いします。自分は大丈夫ですから」と話した。次週にWさんを伴って面会することを約束して面会を終えた。
11月25日、婚約者Wさんより「あんなに頻繁にかかってきた電話が今朝から一本もない!」との連絡が難キ連にあった。佐藤氏は、「この時点で、チャーター機送還は、まだ想像できなかった」という。「その大きな理由は、2015年当初予算にはチャーター機の予算が計上されていなかった」ことだが、「ただしその後の補正で予算が計上されていたことを難キ連、移住連(移住者と連帯する全国ネットワーク)は認知していない」という。
11月26日深夜、Wさん宛てに、そして翌朝には難キ連宛てにバングラデシュの首都ダッカからこの青年による電話が入った。青年はバングラデシュにチャーター機で強制送還されたという。
佐藤氏によると、この強制送還では、25日朝7時ごろ、入管の居室に複数の職員が入室し、この青年を別室へ連れて行き、青年は他のバングラデシュ人と長時間待たされて、それ以後手錠をかけられ、腰に縄をかけられたという。同日夕方、青年は羽田空港へ移送され、午後8時に搭乗。午後9時に離陸した。機内では手錠や腰縄をかけられ、両脇に職員が座っていたが、トイレに行くときや着陸1時間前に軽食が提供されたときにのみ、手錠が外された。そして、26日午前1時にバングラデシュに到着し、解放されたという。
佐藤氏によると、これまでのチャーター機による強制送還は、2013年7月6日にフィリピン人75人、同年12月8日にタイ人46人。同月18日にスリランカ人26人、ベトナム人6人。2015年11月25日にバングラデシュ人22人で合計175人だという。
佐藤氏は、チャーター機による大量強制送還の問題点として「獲得予算消化のため送還の頭数をそろえる暴挙と裁判を受ける権利(憲法第32条)の侵害。外部との連絡をさせず、監禁状態で送還されること。日本人配偶者、永住者配偶者、また、永住者配偶者であって夫婦間に実子のいる人も送還されたこと。送還による家庭崩壊。難民申請、異議申し立て却下と同時の収容。再申請までの隙間の時間に収容・摘発して送還してしまうこと」を挙げた。
「法務省の発表では『難民認定を申請しているケースは含まれていない』というが、難民認定の申請をするまでの間、実際に難民申請者であって次の手だてをする間、法的な瑕疵(かし)はない」と佐藤氏は述べ、さらにチャーター機による大量強制送還の問題点として「非人道的な送還で、機内でも手錠腰縄をかけること。突然の送還が生活基盤と家庭を奪う。バングラデシュ送還費用は3500万円でそれには国費、皆さんの税金が使われている。家族統合の難しさがあり、2013年以来再統合した家族はない。日本人配偶者が脆弱(ぜいじゃく)な場合、配偶者およびその家族まで養っているケースもあり、一家の大黒柱の強制送還により生活が立ち行かなくなること」を挙げた。
佐藤氏によると、2016年2月1日、バングラデシュに飛び立ったWさんはダッカでこの青年に再会し、同月7日、現地で2人は結婚したという。
佐藤氏はこの発題の最後に、「このような成長の道をたどった青年を日本はなぜ受け入れられないのか。まして(この青年が)結婚するということは入管にも言っていた。(強制送還された人たちは)一つの家族も(後で)統合されていない。配偶者を養ってきた人たちを失って、日本に残された家族のことも私は心配だ。全ての問題が入管収容から派生し、さまざまな日本の問題点にも絡み合っていることを皆さんに考えていただきたい」と結んだ。
難キ連は昨年12月4日、移住者と連帯する全国ネットワーク、全国難民弁護団連絡会議、日本カトリック難民移住移動者委員会とともに「チャーター機によるバングラデシュへの強制送還に対する抗議声明」(全文はこちら)を発表していた。
入管収容制度と施設の日英比較
弁護士の児玉晃一氏は「収容 日英比較」と題して発題し、スライドを見せながら日本と英国の入国管理制度や施設を比較した。
著書に『コンメンタール 出入国管理及び難民認定法 2012』(現代人文社、2012年)、『難民判例集』(現代人文社、2004年)、論文に「英国に学ぶ入管収容のあり方」(『自由と正義』2013年4月号、日本弁護士連合会)や「入管収容施設の在り方―英国の収容施設と比較して」(吉成勝男、水上徹男、野呂芳明・編著『市民が提案するこれからの移民政策』第6章、現代人文社、2015年)がある児玉氏は、まず、日本の入管収容制度の概要について、① 収容の根拠と期間、② 収容施設、③ 入国者収容施設等視察委員会という三つの点から説明した。
児玉氏は日本における収容の根拠と期間について、日本の入管法(入国管理法)では収容令書によって30日間、さらに30日間延長して60日間収容でき、その後、退去強制令書が出ると送還可能な時まで無期限収容が可能になると説明し、長期の収容がされていると述べた。
また、児玉氏は日本の収容施設について、大村入国管理センター(長崎県大村市)の定員が800人、東日本入国管理センター(茨城県牛久市)の定員が700人、東京入国管理局収容場(東京都品川区)の定員が800人だと説明。西日本入国管理センター(大阪府茨木市、定員800人)は廃止になったと述べ、「名古屋の入管にもそれなりに人が入っている」と付け加えた。
次に児玉氏は入国者収容施設等視察委員会について説明した。日本の入管では処遇をよくするために国連の勧告などを受けて2010年7月からこの委員会が発足し、その構成は、東日本と西日本に一つずつ委員会があり、委員は10人で、誰が委員なのかは非公開だという。活動は入管の総務課が事務局を担っており、活動結果については年1回ホームページに公表されており、これまでの経過については「入国者収容施設等視察委員会」で検索できるが、入管のホームページには非常に簡単なものしか出ていないと、児玉氏は述べた。
児玉氏は続いて英国の収容施設について説明した。2012年11月と2014年3月に英国の入管収容施設を視察しに行った児玉氏は、ロンドン西部のヒースロー空港に近いハモンズワースにある収容施設(Harmondsworth Immigration Removal Centre)について、収容期間は1週間未満が14パーセント、1~2週間が14パーセント、2~4週間が23パーセント、1~2カ月が21パーセントということで、1~2カ月以内という人が大半を占めていると述べた。
「一番びっくりしたのは、被収容者全員には携帯電話が無償で貸与されること」だと、児玉氏は語り、「時間制限はないが、写真は送れないようだ。日本の収容施設では公衆電話で解放時間にテレホンカードを使って電話することができるが、一方通行だ」と述べた。児玉氏によると、この収容所で被収容者はインターネットやeメールの利用も可能で、一部を除いてウェブページも閲覧自由だという。
児玉氏によると、この収容施設では面会が365日可能で、時間は午後2時から同9時まで。子どもと遊ぶスペースもある。また、共用スペースではビリヤードやサッカーゲーム、卓球もでき、テレビもある。理容室や売店、運動設備、ジム、多言語によるDVDの貸し出しもできる図書室、美術室もあり、そこではハサミ、ナイフも使え、コンペも実施しているという。
さらに、この収容施設の廊下では被収容者が殺風景な壁に絵を描いており、音楽室には楽器が置かれていて被収容者がバンドを組んではコンテストを行い、カラオケセットもあるという。そして、パソコン教室で個別指導が行われ、英語教室で英語を母語としない被収容者向けの初級英会話教室が無料で開かれているという。
また、ハモンズワース収容施設では居室から「窓の外が見える」が、「日本の入管収容施設では外が見えない」と児玉氏は述べた。ハモンズワース収容施設ではキリスト教会やモスク、シーク教と仏教のお寺とヒンズー教の寺の共用スペースがあり、ディワリというヒンズー教のお祭りのチラシがあったという。
同施設の所内では有償の仕事ができ、時給1~1・75ポンド。仕事の内容は新規入所者への指導係や掃除などだという。「日本の入管だと(被収容者は)何もやることがなくて、それが一番きついというような話もよく聞くが、少ないとはいっても仕事ができてそれで対価を得られてみんなに感謝されたりするので、やりがいがある」と児玉氏は話した。
また、同施設の医療については、「ハード面に関しては日本の入管とそんなに変わらないという印象を受けた」と児玉氏は語った。しかし、「24時間以内に医師の派遣要請ができるし、行政当局のスタッフの診察への立ち会いは禁止されている。それと医療通訳の確保のための体制があり、歯科用のチェアーもある。さらには、外部診療のアポイントメントは原則として断れない。メンタル・ヘルスケア専門の看護師が常駐している」と児玉氏は説明。このセミナーでのBさんによる冒頭の報告と違うところとして、「収容所を出る者には診療録のサマリーもしくは完全なコピーが渡されて、その後の治療に役立つ」と語り、それは「当然引き継がなくてはいけないものだが、当たり前のことが当たり前のようになされている」と付け加えた。
児玉氏によると、同施設にはまた、ウェルフェア・オフィスという被収容者の要望窓口があり、火・水・木曜日に弁護士が訪問して無料で法律相談をやっているという。入管への各種申し立て用紙やヨーロッパ人権裁判所への申し立て用紙も用意しているという。
さらに、児玉氏は施設側と被収容者とのミーティングが週1回行われ、処遇上の問題についての意見交換をしていると説明した。施設側は① 12人の被収容者(国籍、マイノリティーグループなど各グループの代表)、② UKBA(United Kingdom Border Agency、英国国境庁)職員、③ GEO(The GEO Group UK Ltd、国際的な規模を持つ民間の警備会社)の全ての部門の担当者だという。
「イギリスの入管というのは、日本と同じように入国管理局みたいな国境庁というのがあり、そこが直接運営しているのは11カ所のうち2カ所ぐらいしかなくて、残り9カ所は民間委託している。私が見に行った所も民間委託の施設で、GEOが管理・運営をしている」と、児玉氏は説明した。
施設側と被収容者とのミーティングは幾つかのユニットに分かれており、1カ月に1回、ユニット横断型全体ミーティングで、各ユニットの被収容者の代表とスタッフが協議をし、議事録はネット上に公表されているという。
さらに、それだけでなく、被収容者とのパーソナル・ミーティングというものがあり、全ての被収容者に対して処遇上の担当者がついて、少なくとも週1回はその人と面談をして何か不満がないか、改善点はないかということを聞いているという。「日本みたいに(被収容者が)ハンストをやったり、自殺未遂をしたりということにはつながりにくい」と、児玉氏は述べた。
これだけのことにかかる予算は1人1日68ポンド(=9384円、児玉氏の訪問当時)で、被収容者が1日600人なので年間約20億5500万円となるという。「ちなみに日本の場合は、2005年に大村入管で一日の直接経費が1200円。2011年の延べ被収容者数である39万0133人を掛けると4億6315万9600円」だと児玉氏は述べた。
「1人当たり約1万円も出していて、1カ月30万円で納税者から文句が出ないのかと聞いてみたら、出ないとは言われなかったが、『人として接するので、それにお金がかかるのは当たり前だ』というような話だった」と児玉氏は語った。
児玉氏は、被収容者が英会話やパソコン教室・ジムをやったりしていることについてどう考えているのか、ハモンズワース収容施設の所長から次のように言われて「非常にいいな」と思ったという。
「私たちは被収容者と職員との間で信頼関係を築くことをすごく大事に思っている。信頼関係さえあれば、それはたとえその人がピストルを持っていたって怖くない。だけども人を殺そうと思ったら鉛筆1本だって殺せる。要は人を信頼しているかどうかという問題であって、だから私たちはきちっと信頼関係を築けるようなことを大事にしているから、ダンベルを放り出したり彫刻刀を置いてあったりしても、それは普通の学校やジムでダンベルが置いてあるのと全く同じことであって、被収容者がそもそもそれを持って攻撃するみたいに思うこと自体、意味が分からない」
児玉氏は続いて、HMIP(Her Majesty Inspectorate of Prisons、王立収容施設視察委員会)について「およそ人が拘禁されるような所について視察をする組織」と説明。HMIPはハモンズワース収容施設には161項目にわたる勧告を出しているという。「日本の入管視察委員の勧告や意見はぜひネットで調べてみてください。全国でたぶん30個ぐらいで、きちんと見てみると、重複している意見ばっかりです」と児玉氏は語った。
児玉氏によると、この161項目の勧告には、面会スペースのルールについて、子どもと被収容者だけにすることを禁止しているのは比例原則(達成されるべき目的とそのために取られる手段としての権利・利益の制約との間に均衡を要求する原則)違反に当たるため改善すべきこと、携帯電話に関して十分なストックを用意すること、さらには医療に関して健康促進を含めた健康発展プログラムを策定するようにといった勧告も含まれているという。
児玉氏は、日弁連と入管との協議会という公式の場で入管側から「入管の収容施設の中での医療というのは、完全に治すことは別に目的としていない。何を目的としているかというと、収容と相談に耐えられる程度にすればいい。だから痛み止めを与えたりする。それで何が文句あるのか」というような言い方をされ、びっくりしたという。「イギリスはそうではない。治療するのは当然のことで、病気でない人についても健康発展プログラムを用意せよということで、(日本の入管視察委員の勧告と)レベルが何段階ぐらい違うのか」と、児玉氏はその落差を指摘した。
児玉氏によると、視察の種類について、基本的に総合的な視察が行われ、それについて何年か後に必ず総合型フォローアップ視察がされるという。それには事前告知型と非事前告知型があり、総合視察の頻度は成人の施設では3年に1度。事前調査を2週間前に行い、期間は5日間。視察団は平均8人ぐらいで、午後9時半から翌日午前6時半まで夜間視察を必ずやるという。これに対し、日本の視察は、年に大体1回。4人以上の常勤視察官に専門家やパートナーが付くという。
事前調査をやる場合は、専従職員が2週間前ぐらい前に行って被収容者にアンケートを配り、どういうところに不満があるかをあらかじめチェックし、施設の問題点についてポイントを絞った上で視察ができるようにするという。
一方、日本の視察委員は全て非常勤で、弁護士や学者や医者、国際機関の職員や自治会の会長などが2人ずつで計10人だという。
フォローアップ視察は、本視察の後、1~3年以内に行われ、前の視察で問題が多そうだったところを対象として、勧告を反映した改善を評価することを目的としている。事前調査が1週間前に行われ、期間は5日間だという。前の視察で健康面の評価についてのリスクが低い場合、少人数チームで事前調査なしで視察を実施する簡易型フォローアップ視察が行われることもある。
視察に備えた事前調査は、23カ国語によるアンケートと面接による。その後、分析を経て視察官へ報告がなされる。アンケートでは、ハモンズワース収容施設の場合、全76問で、例えば言語について「収容される際、あなたは理解できる言語でその理由について説明されましたか(Q8)」、法的助言について「あなたには弁護士が付いていますか(Q26)、弁護士に容易にアクセスできますか(Q28)」、仕事について「あなたが望めば、ここで仕事をすることができますか(Q68)」、電話について「電話を利用するに当たって困難を感じたことはありますか(Q74)」といった質問項目があるという。
また、視察を行う場合も、場当たり的にやるのではなく、エクスペクテーションズ(期待されるべき状態)という基準が作られている。英語で114ページぐらいあり、児玉氏が日本語に訳したものが法務研究財団の2012年のレポートの末尾付録にあるという。「被収容者は彼らのケースが効果的に進められるように、容易に彼らの代理人の訪問を受け、コミュニケーションができること」という比較的抽象的なことが書かれており、これが達成されているかどうかの指標が細かく書かれていると、児玉氏は述べた。
この基準には、例えば、被収容者は彼らの法的代理人や英国国境庁に対し、無料でファックスを送れること。法律家による訪問は、毎日最低5時間は許されること。法的代理人の被収容者に対する手紙は秘密で、センタースタッフによって開封されないことなどがあるという。
児玉氏によると、これは国連の被拘禁者保護原則18条、弁護士の役割に関する基本原則2条、8条、居住国における無国籍者の人権宣言5(1)(c)から来ているという。
児玉氏は、視察の指標について、「安全・目的ある活動・尊厳・再定住への準備」という観点から見て、「良好・概ね良好・貧弱・十分に良好ではない」という4段階評価をしていると説明した。
一方、児玉氏は、「日本の視察委員には基準はない。視察をするときに、視察委員になると入管から『視察の手引き』というものを渡される。そこに視察される側の入管の総務課が作った文章で、例えば『視察中に被収容者としゃべらないでください』などと書いてあったりする。視察委員が視察をするといっても、視察のやり方を視察される人に教えてもらって、その通りやって、全然役に立っていない」と語った。
児玉氏によると、イギリスでは、視察後、18週間以内に報告書を提出して、ネットで公開している。報告書発行後2カ月以内に、報告書において言及された勧告に基づいて、施設側はアクションプラン(行動計画)を策定しなくてはならない。その12カ月後 施設側の当該行動計画に基づく進捗報告が求められる。「徹底的に、言われたことをちゃんとやっているかと検証していくわけだ」と、児玉氏は述べた。
児玉氏によると、その報告書をメディアがしっかりと取り上げ、それによって世間の注目が集まり、しかもしつこく言われ続けるので、施設側としては改善せざるを得ない状況に追い込まれている。さらに、勧告を守らなかったために閉鎖された施設もあるという。
視察委員の権限は、収容施設内の処遇に加えて、収容継続の妥当性に関しても及ぶという。その組織の予算と人員(2011~2012年)は、人件費が85パーセントで、年間約436万ポンド(6億1000万円)、スタッフがフルタイムで46人、パートタイムで12人だという。
児玉氏は、収容施設と同じようにこれだけお金をかけていることに関してイギリスの納税者から文句は出ないのかと質問したところ、それに対しても出ないとは言われなかったが、「私たちは拷問禁止条約という国連の条約に加盟している。条約にサインをした以上は、そこで国会の審議を通っている。いわばそこで国民が承認をしてそれを実行しろと言っているわけだから、それを実行するのにお金がかかるというのは当たり前じゃないですか。この段階でお金がかかるからやめろというんだったら、サインをした意味がない。サインをした以上はそれを実行しなくてはいけない。そのために予算を付けるのは当たり前のことだ」と言われ、「素晴らしい」と思ったという。
被収容者になぜあれだけの処遇をするのかと聞いてみたところ、「入管の収容というのはあくまで強制送還をするための手段にすぎないので、彼らにこの塀から出る自由はありません。それは致し方ない。だけれども、それ以上の自由を制限する根拠というのはない。だからできるだけ外にいるのと同じような状況を保障する義務がある。だから、これは管理上問題があるということが三つ以上の証拠に基づいて認められる場合は、制限することが正当化されるけれども、それ以外のものに関しては外と同じ自由を保障しなければならないのだ」と言われたという。英国の入管では、そういう「ものすごくシンプルな考え方」で視察をし、エクスペクテーションズもそれに合わせて作られているという。
児玉弁護士が所属する東京弁護士会は、法務省に対して日本語版エクスペクテーションズを作った。また、イギリスの収容施設を視察した児玉氏ら弁護士たちは、30日から60日の収容に対してもどんどん怒っていかなければとロンドン西部のハマースミスという街のホテル近くのパブで誓い合い、(退去強制事由に該当する者について全件収容をし、退去強制手続きを行う)全件収容主義を打破する「ハマースミスの誓い」という会を立ち上げたという。
児玉弁護士は発題の最後に、「イギリスでは少なくとも、皆さんがおかしいと思っていることは本当におかしいと言って変えている現実があるから、諦めないで何とかしたい」と結んだ。
発題後、参加者からは、難民認定を受けた人たちの認定理由についての質問や、強制退去をさせないための市民のネットワーク作りや強制退去を受けた男性の妻子に対する支援の必要性についての提言、難民保護法の制定に関する進展状況についての質問が出た。
また、Aさんは強制送還に関する日本と他の先進国の違いについて、「イギリスでもフランスでもオーストラリアでも強制送還はあるが、日本の場合は結局拉致して、いつの間にか例えば朝4時半とか20人職員がばーっと来て、その人を抱えてずっとバスの中で誰も弁護士さんも何も法的なことをできないままでやるのが日本のやり方だ」と指摘。「でもBBCテレビで見て驚いたのは、イギリスでは、例えば『21日の2時半にこの人を強制送還します。その時までに法的なものがあれば手を打ってください』と言う。民主国家はみんなそうだ。時間も日付も決めてこの日までに『この人は受け入れられないから強制送還します。ただ人権団体や弁護士から法的な手を打ってください』と言う」と語った。
その上でAさんは、「僕は強制送還の日付と時間を書いてくれるよう入管に何回もお願いしている。それを書いてくれれば、(Aさんの姉がいる)ニュージーランドに送ることができるから。しかし、日本は一切明らかにしない。朝方4時半とか誰もいない所で拉致をしてしまう。あれは強制“送還”ではない。もしやましいことをやらなかったら、法に則ってやっていることなら、日付も時間も全て決めればいい」と話し、「しょうがない、そこで俺は無力で証拠を集めることもなく、結局負けたら私に付いている弁護士も何もできなかったら、運命を受け入れるか何を受け入れるか分からない」と付け加えた。
さらにAさんは、「でも日本がやっていることはルール違反だ。朝4時半に来て15人とかで引っ張って毛布にずっと縛るなど、これは“送還”ではない。送還なら送還らしい送還がたぶん先進国では行われている」と批判した。
それから佐藤氏は、「獄にいる時訪ねてくれた」というセミナーのテーマについて、聖書のマタイによる福音書25章36節から取っていることを紹介し「収容を回避する一つとして、私たちは聖書の言葉を基に被収容者の皆さんをお訪ねする」と語り、「仮放免延長出頭や諸申請同行支援はけっこう根気がいる仕事だ」と付け加えた。
佐藤氏は、「航空会社にチャーター機を出させないというのも一つの手かと考えている。風通しの良い意見交換の場やネットワークができればいいと思う」と語った。
*なお、証言をした当事者は安全に配慮して撮影を行わず、仮名を掲載した。