2017年の宗教改革500周年を前に、日本聖書協会が運営する聖書図書館(東京都中央区)では、マルティン・ルターの宗教改革と聖書翻訳に関する特別展「ルター訳聖書と宗教改革」を開催している。ギリシャ語新約聖書、ヘブライ語旧約聖書をルターがドイツ語に翻訳し、一般民衆にも聖書を読める機会が広がってから現在に至るまでの、聖書翻訳の歴史とその変遷を知らせるものとなっている。
今回の特別展では、ルターがギリシャ語新約聖書をドイツ語に翻訳し1522年9月に発行した「9月聖書」と呼ばれている新約聖書、1534年に翻訳が完成した旧約聖書、ルターが死の前年に目を通して、最後の修正を行ったという1545年版の「BIBLIA GERMANICA」(いずれもファクシミリ版)などが展示されている。ルター訳のドイツ語聖書はルターの死後も改訂が行われ、1912年には全教会で公認された2回目の改訂が行われた。その後、56年、75年、84年に改訂が行われており、同展ではこれらの各改訂版が展示され、その変遷を見ることができる。
さらに、ルターに関する図書や論文、ルーテル学院大学ルター研究所が発行する「ルター新聞」などもスペースを設けてまとめて展示している。ペーター・マンス著の『宗教改革とルターの生涯』は、写真入りの大型本で見るだけでも楽しめ、その他にもルターに関するさまざまなエピソードを紹介する書籍などが置かれている。
一方、同館では、日本語訳聖書の歴史についてもその系図を詳しく紹介している。1548年には、既にマタイによる福音書が翻訳されていたという。新約聖書全体の翻訳作業が始まるのが1874年、旧約聖書が76年。当時の宣教師たちによって作業が進められ、87年に旧新約がそろった「明治訳聖書」が完成した。この翻訳では、日本人は補佐役として協力したという。
「明治訳聖書」は、1917年には新約が改訳されるが(「大正改訳聖書」)、旧約の改訳は間に合わないまま終戦を迎えることなる。そして戦後、時代のニーズにより、口語体による聖書改訳の声が高まり、54年に新約、55年に旧約が完成した(「口語訳聖書」)。この時に初めて、日本人の聖書学者によって翻訳がなされたという。
さらに68年には、聖書協会世界連盟(UBS)とローマ・カトリック教会の間で協議が成立し、プロテスタントとカトリックが同じ聖書を用いるための聖書翻訳の「標準原則」がまとめられ、世界各国で「共同訳」の翻訳が開始された。日本でも、共同訳聖書実行委員会が組織され、聖書学者約100人が選出されて翻訳がスタート。78年に新約が完成し、その後、翻訳方針の変更などを経て、87年に『聖書 新共同訳』が完成した。系図をたどっていくと、「明治訳聖書」の完成からちょうど100年となることが分かる。
聖書図書館主任の高橋祐子さんは、「聖書は最初に書かれたものは残っておらず、写本から研究し、研究を重ねて校訂本となり、そこから新しい発見が生まれます。生きた言葉である聖書は、歴史の中で常に変わっていくことや、その時代の中でふさわしい改訂がこれまで行われてきたことをぜひ知ってほしい」と話している。高橋さんによると、ルター訳聖書は2017年に向けて改訂作業が進んでおり、来年には印刷が始まるという。また、日本聖書協会で行われている新翻訳事業は、2018年発行を目標に現在進行中だ。
会期は11月30日(月)まで。日・水曜日、祝日休館。開館時間は午前10時〜12時、午後1時~5時。入館無料。詳細は同館ホームページで。