神奈川県藤沢市在住の彫刻家・親松英治さんが、長崎県南島原市に寄贈する予定になっていた高さ9・5メートルの巨大な木彫りのマリア像を、「政教分離に反する」という市民らの声があるという理由で、南島原市が拒否したことが23日、分かった。西日本新聞などが報じた。
西日本新聞によると、2月の市議会では、松本政博市長はマリア像について、「世界が注目する魅力を持つ芸術品。世界遺産の機運醸成や交流人口の拡大などに大きく貢献する」として、2015年度当初予算案に像の設置や特別展開催の費用などを計上し、市議会も可決していた。寄贈先も市内にある有馬キリシタン遺産記念館(同市南有馬町)とし、同館を改修して展示することにしていた。だが、5月に予定していたマリア像の市への輸送は見送られていた。
カトリック信者の親松さんは、2011年に日展彫刻の部で内閣総理大臣賞を受賞し、日展評議員も務めている。同じカトリックの父の信仰を見て、キリシタン殉教者のために祈念像として聖母子像を制作したいと考えるようになった。聖母子像の制作を思い立ったのは、1981年。ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世(当時)が来日したのをきっかけに、国内の殉教者を慰め、彫刻家として「永遠性のある作品を残したい」と、聖母子像の制作を決意したという。
そして、キリシタン弾圧の象徴「島原の乱」(1637~38年)の舞台となった原城跡を訪れた際、「幕府方を含む全ての犠牲者の鎮魂をしたい」と考え、30年以上かけて制作してきた。一人で制作しているため時間はかかるが、「キリストの愛をこの世に広め、身を捨てた人々のことを思うとき、根底から力が湧いてくる」と、生徒らからの取材を受けた地元藤沢市にある聖園女学院のホームページで述べている。
幼いイエス・キリストを抱くマリア像は、高さ約9・5メートル、幅約2・5メートルあり、樹齢200〜300年ほどのクスノキを、輪切りにし積み重ねていく独自の方法で作られている。ライフワークとして制作に取り組んできた親松さんだが、3月11日付の朝日新聞では、脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)症を患っているが、「マリア像が完成するまで手術を控えている」と語っている。
親松さんは、「(有島キリシタン遺産)記念館にはロザリオなどキリスト教関連の物がたくさんある。寄贈しても像を宗教行事に使うわけではなく、(政教分離の)原則には反しない。ナンセンスだ」(西日本新聞)と話している。同市企画振興部企画振興課は、「市民団体がマリア像の寄贈を受けて管理する方向で検討し、親松さんにも理解してもらう」としているが、親松さんは「現時点では、どのような民間組織が運営していくのか、プランを見てみないと、何とも言えない」と答えているという。