冒とく罪により死刑判決を受け収監中の5人の子どもを持つキリスト教徒のパキスタン人女性、アーシア・ビビさん(50)の死刑執行が22日、パキスタン最高裁判所により延期された。
ロイター通信によると、ビビさんの弁護士であるサイフ・ウル・マルック氏は、「アーシア・ビビさんの死刑執行は、新しい判決が出るまで延期となります」と語った。
既に刑務所で6年余りも過ごしているビビさんには、イスラム教信仰を侮辱したとして、2010年に死刑判決が出されている。これは、ビビさんがイスラム教徒と同じ飲み水を飲んだことが冒とく行為だとして、イスラム教徒の女性グループに告発されたことによる。
この女性グループは裁判で、ビビさんが「私の信じるキリストは、私のために死にました。では、ムハンマドはあなたのために何をしましたか?」と質問したと訴えている。これは、南アジアのイスラム教国においては、冒とくだと十分受け取られる発言だ。
ビビさんの上訴は今月初めに認められ、各種報道では、これが死刑を逃れる最後のチャンスと報じられている。
論議を呼んでいるパキスタンの冒とく法は、キリスト教徒などの宗教的少数者を罰するために使用されていると、いくつかの人権擁護団体は指摘している。冒とく法の改正は提案されはいるものの、具体的な改正には一つも至っていないのが現状である。
「提案されている法案は、表向きでは、冒とく罪を負わせることがより困難になっているように見えます。それは、いかなる冒とくも『犯罪意思』という法的概念において、(犯行が)意図的だとされるということに焦点を当てています」。英国パキスタン・キリスト教協会(BPCA)の代表を務めるウィルソン・チョードリー氏は6月、米クリスチャンポストにこう語った。
「しかしながら、地元警察による冒とく法に関わる多くの殺傷事件が起きています。また、地元のイマーム(イスラム教の指導者)率いる暴徒からの圧力に、地元警察当局が委縮する場合もありますから、今回の法改正は、少しは効果があるのではないかと見ています」
ビビさんは長期の収監のため、刑務所内で腸の出血と、歩行の困難を含めた多数の健康上の問題を抱えていると、家族は述べている。
チョードリー氏は、ビビさんが経験している悲劇は「正義とは呼べないもの」だとし、欧米諸国はパキスタンが変わることを望むなら、同国への財政支援の仕方を見直すべきだと述べている。例えば米国は、対外援助として、数百万ドル(数億円)という額を毎年パキスタン側に提供している。
BPCAの役員メーウィッシュ・バッティ氏は、ビビさんの上告尋問が行われることになったのは、パキスタン政府への国際社会からの厳しい目が幾分起因していると語った。
「パキスタンの法的な手続きは、多くの場合非常に遅いですが、それにもかかわらず、今回のこの早い動きをうれしく思っています」とバッティ氏は語った。
「恐らく、パキスタン政府が感じている国際的圧力が、彼女の裁判への対応の早さという結果に表れています。私は今回、裁判所が正しい判断をし、アーシア姉妹を釈放することを願っています。6年間に及ぶ薄汚い、暗い独房の中の完全な孤独は、国の不当に対する憎しみと相まった場合、特に非常に大きなトラウマをもたらすことは間違いないでしょうが」