神様のご意志によって授かった命。聖書は、「胎児であったわたしをあなたの目は見ておられた。わたしの日々はあなたの書にすべて記されている / まだその一日も造られないうちから」(詩篇139:16)と、女性の胎に宿った命について語っている。全ての妊娠・出産が喜びに満ちたものであるならば、これほど素晴らしいことはない。しかし、「学生のうちに妊娠してしまった」「不倫相手の子どもを身ごもってしまった」「レイプされて妊娠してしまった」など、望まない妊娠をする女性がいるのもこの国の現実だ。こうした女性の多くは、誰にも相談することすらできず、一人で悩みを抱えていることが多い。さらには、相手の男性から中絶を勧められ、ひどい場合は強要され、良心の呵責(かしゃく)や、宿った命への愛着と現実の狭間で人知れず苦しむ女性がいる。
そうした女性たち、生まれくる赤ちゃんの命を守り、赤ちゃんが健全に育つことができるようサポートする「ベアホープ」という団体がある。ベアホープが「第2種社会福祉事業」の一般社団法人として活動を始めたのは、昨年4月のこと。民間団体や医療機関、または個人が養子縁組を仲介する場合、事業者は都道府県や政令指定都市に、この「第2種社会福祉事業」の業務開始の届け出をしなければならない。
日本国内で養子縁組ができる民間団体、医療機関は約15団体。「ケースそれぞれに独自の課題があり、そのたびに法制度はどうなっているか、自分たちがしなければならない届け出はどれか、など手探りで調べることから始まりました」と話すのは、ベアホープ代表のロング松岡朋子さん。ロングさんは、クリスチャンの家庭で生まれ育ち、母方の家系をさかのぼると4代目のクリスチャンになる。米国から来日した宣教師の子どもとして日本で生まれ育ち、同じ教会で育ったという幼なじみのネイソンさんと結婚。2人の里子を含む4人の子育ての真っ最中だ。
ベアホープに入るメールや電話、LINE、また来所などによる相談は、1カ月間でゆうに100件を超える。10代、20代からの相談が圧倒的に多いが、中には30代からの相談もある。来所できない相談者のために、新幹線に乗って、遠方まで会いに行くこともしばしば。養子縁組した子どもたちが養親の元で元気にしているかを確認するなど、サポートも欠かさない。
乳児院にいる子どもの約3割、児童養護施設にいる子どもの約6割が、入所前、両親の元で虐待された経験があるという。児童相談所への通報、相談も年々増えているが、虐待によって子どもが死亡するといったニュースは後を絶たない。そうした事件の被害者のおよそ4割が0歳児であることから、「望まない妊娠」が虐待の原因の一つとされている。
相談者の中には自ら中絶を望む女性もいるが、赤ちゃんの命を守り、出産した後に、子どもを愛情をもって育てたいと熱望し、待っている夫婦の元に受け渡す「養子縁組」を勧めている。
「弁護士の先生ですら、『妊娠継続困難』と思われる状況にある女性たちと出会うこともしばしばあります。しかし、私たちは諦めません。スタッフの全員がクリスチャンであり、経験豊富な助産師、社会福祉士など専門分野で働いてきた人もいます。一つ一つのケースを皆で共有しながら、赤ちゃんにとって、またその女性にとって良い方法を探していきます。みんなで祈れるのも心強いですね」とロングさん。
多くの人が「こんなケースは無理だ!」「赤ちゃんは諦めよう」と言う場合でも、粘り強く進めていくうちに、道が開かれることがある。「よくこんな難しいケースを引き受けましたね・・・。あなたがたは『クリスチャンだから』できるのですね」と声を掛けられるのがとても嬉しいと話す。「『クリスチャンだから』神様から授かった命を、無駄にできないのです。その小さな命さえ、神様は愛していてくださる。神様が愛してやまないその命を、どうして人間の意思で諦めることができるでしょう」とロングさんは力を込める。
赤ちゃんが母親のお腹の中にいる間に養子縁組をし、生まれてすぐに養親の元へ届けるのが理想なのだそうだ。「よく『生まれてみないと、性別や障がいの有無が分からない』という方もいらっしゃいます。『女の子がいい。もちろん障がいのない子がいいわ』というのは、大人本位の考え方だと思うのです。どんな子どもでも、ありのままに受け入れられることが必要だと思うのです。近い将来、児童養護施設のようなものもなくなり、全ての子どもたちが、たとえ『生みの母親』の元で育てられなくても、幸せな家族の元で健全に育つ社会ができれば良いと思っています」と話す。
「わたしの名のためにこの子供を受け入れる者は、わたしを受け入れるのである」(ルカ9:48)の御言葉を胸に、必要とされる場所で、必要とされる人々に、神様の愛をもって仕えていきたい、とベアホープの歩みを一歩一歩着実に進めている。