韓国の韓国基督教教会協議会(NCCK)と北朝鮮の朝鮮基督教徒連盟(KCF)は8日、旧約聖書のミカ書4章3節「主は多くの民の争いを裁き / はるか遠くまでも、強い国々を戒められる。彼らは剣を打ち直して鋤(すき)とし / 槍(やり)を打ち直して鎌とする。国は国に向かって剣を上げず / もはや戦うことを学ばない」を引用し、4月末に米ニューヨークで開かれた日米の閣僚会合で改定が決まった「日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン)の廃止などを要求する英文の共同声明を発表した(記事下に本紙による全文日本語仮訳あり)。
外務省によると、同指針には、1)防衛協力と指針の目的、2)基本的な前提及び考え方、3)強化された同盟内の調整、4)日本の平和及び安全の切れ目のない確保、5)地域の及びグローバルな平和と安全のための協力、6)宇宙及びサイバー空間に関する協力、7)日米共同の取組、8)見直しのための手順、という8つの骨子が含まれている。
これに対し、NCCKとKCFは声明で、「東アジアと世界および朝鮮半島の平和を熱望する世論を包含しつつ、私たち2つの教会は、自らの立場を次のように表明する」とし、下記の4項目を挙げた。
- アジアと世界の平和を脅かす「日米防衛協力のための指針」の改定を即時廃止すること。
- 米国政府は軍事的な優越性を求める願望を捨て去り、対話と協力の平和的な外交へと変えなければならない。
- 日本政府はその戦争犯罪について世界に謝罪し、その平和憲法を忠実に守り、増大する軍事化への願望を止めなければならない。
- 南北のキリスト教徒は、東アジアと世界および朝鮮半島の平和を維持するために、世界の教会と共に、平和を切望する世界中の良心的な勢力と連帯して、祈り行動するべきである。
この声明を受けて、アジアキリスト教協議会(CCA)は15日、「CCAは、東アジアの平和と安全保障に対する脅威となる『日米防衛協力のための指針』の改定について、北朝鮮と韓国の教会指導者たちが表明した憂慮を共有する」と、声明に対する賛同の意を公式サイトで表明した。
CCA総幹事のマシューズ・ジョージ・チュナカラ博士は、「声明で北朝鮮と韓国の教会指導者たちが表明した憂慮は、アジアで台頭しつつある地政学的な文脈において有効である」とコメント。「日米防衛協力が新たな条項を備えていることから、アジアの平和と安全保障は、自らの防衛態勢を改める日本と、集団的自衛に日本の参加を認める憲法の条項の再解釈をするという日本政府の決定という文脈において、とりわけ脅かされている」と述べた。
チュナカラ総幹事はまた、「教会とアジアのエキュメニカル運動は、対立を超えて行き、正義と和解を伴う平和に向けて働くという教会の使命に関与しつつ、日米同盟と東アジアにおけるその地政学的な意味の展開を綿密に監視しなければならない」と付け加えた。
CCAによると、NCCKとKCFによる声明は、両者が先週、中国で指導者合同会議を開き、自らの立場を述べたものだという。
これらについて、日本キリスト教協議会(NCC)や米国キリスト教会協議会(NCCC−USA)は今のところ公式な見解を発表していない。ただ、NCC議長の小橋孝一牧師(日本基督教団新島教会)は今月、公式サイトに「剣を取るものは皆、剣で滅びる」(マタイ26章52節)と題するメッセージを掲載し、「日本社会の根底に潜む罪を今こそしっかりと見つめ、『剣を取る者は皆、剣で滅びる』との歴史の主の御言葉に身をもって聴き従い、世に訴えなければなりません」と述べている。
一方、NCC平和・核問題委員会委員長の内藤新吾牧師(日本福音ルーテル稔台教会)は、NCCKとKCFの共同声明、またCCAのコメントについて、15日、本紙に対し、「まったくその通り」と述べ、その内容に同意するとメールで回答した。
なお、5月にインドネシアの首都ジャカルタで開かれたCCA第14回総会は、発表した声明で、韓国の済州(チェジュ)島や日本の京都における基地建設、北朝鮮の領海付近における「戦争ゲーム」などに言及し、「日本だけでも80を超える米軍の基地と施設を受け入れている」と指摘。その上で、「私たちにとって残念なことに、日本の安倍晋三首相は日本の自衛隊の機能を再定義して、それを同国の国外で配備可能にし、同盟国の戦力を支援して共通の敵と戦おうと、平和憲法の第9条を再解釈している」と述べ、アジア諸国の元首の中で唯一、安倍首相を名指しした。
同総会はさらにその声明の中で、「米国政府とその同盟諸国に対し、韓国の済州島に大きな海軍基地の建設をすることを、同じように沖縄の辺野古でも、やめるよう求める。日本の京都にもう一つの基地を建設する計画を残念に思う」「CCAの全てのメンバーに対し、憲法9条を保つための取り組みを強化している日本のNCCの闘いに加わるよう招く」などと勧告した。
◼︎ NCCKとKCFによる声明(本紙による日本語仮訳)
朝鮮半島と世界平和に対する脅威である「日米防衛協力のための指針」の改定をやめよ
「主は多くの民の争いを裁き
はるか遠くまでも、強い国々を戒められる。彼らは剣を打ち直して鋤とし
槍を打ち直して鎌とする。国は国に向かって剣を上げず
もはや戦うことを学ばない」(ミカ書4章3節)2015年4月29日、米国のオバマ大統領と日本の安倍首相はホワイトハウスで首脳会談を開き、朝鮮半島を含めた世界中における日本の自衛隊の活動範囲に関する「日米防衛協力のための指針」の改定に合意した。この改定は、第二次世界大戦の戦犯である日本の軍備増強を助長するものであり、それが米国の軍事的な優位性の強化を利用していると、私たちはうろたえずにはいられない。
上記のワシントン首脳会談で、米国政府は「日米防衛協力のための指針」の改定について決めただけではなく、国連安全保障理事会の常任理事国入りを日本が求めるのを支持するとも決めた。これはとりわけ慰安婦(性奴隷)の動員や南京大虐殺を含む戦争犯罪の免責を米国が日本に認めることである。この日米合意は日本占領下で苦しんだアジア人、とりわけ韓国・朝鮮人を確実に侮辱するものである。
とりわけ、日本がその軍事侵略についてのいかなる責任をも取ることを拒否しているというこの状況のために、私たちは自らの怒りを抑えることができない。
さらにこの「日米防衛協力のための指針」の改定は、一触即発の分断状態におかれている朝鮮半島にとって巨大な破滅以外の何ものでもない。もし米国が、この改定を通じて、緊急事態において日本の軍隊に朝鮮半島への上陸を認めるならば、朝鮮半島の平和的な再統一が危険にさらされるであろうし、南北間の極めて不安定な情勢が続くことになるだろう。
加えて、この「日米防衛協力のための指針」の強化は、日本の防衛政策が持つ専守防衛という性格を無効にするであろう。これは東アジア全体における深刻な軍拡競争をもたらすであろうし、それは明らかにこの地域全体の平和と安全保障だけではなく、人間的および経済的な相互依存を脅かすであろう。
東アジアと世界および朝鮮半島の平和を熱望する世論を包含しつつ、私たち2つの教会は、自らの立場を次のように表明する。
アジアと世界の平和を脅かす「日米防衛協力のための指針」の改定を即時廃止すること。
米国政府は軍事的な優越性を求める願望を捨て去り、対話と協力の平和的な外交へと変えなければならない。
日本政府はその戦争犯罪について世界に謝罪し、その平和憲法を忠実に守り、増大する軍事化への願望を止めなければならない。
南北のキリスト教徒は、東アジアと世界および朝鮮半島の平和を維持するために、世界の教会と共に、平和を切望する世界中の良心的な勢力と連帯して、祈り行動するべきである。2015年6月8日
韓国基督教教会協議会(NCCK) 朝鮮基督教徒連盟(KCF)