YMCAアジア青少年センター(東京都千代田区)で3日から3日間にわたって行われた第4回9条世界宗教者会議は5日午後、日本国憲法第9条に基づく平和のための取り組みを呼び掛ける声明文「ソウル・沖縄から再び東京へ」を採択した。
会議終了前に開かれた記者会見で、世界教会協議会(WCC)のオラフ・フィクセ・トゥヴェイト総幹事は、安倍首相と日本の有権者へのメッセージとして、「他者と敵対するナショナリズムは危険」などと語った。
15カ国の45団体から約120人が参加したこの会議は、記者会見後には、参加者が会場付近で約30分間にわたる街頭行進をして閉幕した。記者会見で司会を務めた同会議受け入れ委員会事務局の野口陽一氏(庭野平和財団専務理事)によると、次回の開催地はまだ未定だという。
記者会見では、同委員会の委員長を務めた日本キリスト教協議会(NCC)議長の小橋孝一氏が、声明文のポイントを説明した。
小橋氏は、5年前にソウルで開かれた第2回9条アジア宗教者会議で決議された声明文「我々のミッション」に言及し、「最初に日本国憲法(第9条の引用)があって、2009年に開いた会議の中心となった決議があり、それを受けて今回の会議がある」と述べた。
声明文の第2項には、「私たちは、第2回および第3回九条アジア宗教者会議声明の中で、日本国平和憲法九条は日本のみならずこれまでにないほど地域的また国際的に、先導的なものであることを確認しました」と記されている。
これについて、小橋氏は「日本だけの問題ではなく世界平和に寄与する問題なのだという事柄なのだということであります」と説明した。また、「『九条は、全ての戦争を終結に導く必須のステップ、また武力紛争の予防の手立てであり、正義と平和が実現され、かつ持続可能な未来を志向する全ての共同体と世界の中心的価値です』と私たちは自覚をしました」と付け加えた。
「今までの3回は9条アジア宗教者会議と言っていたが、今回からは世界的な課題であるということで、9条世界宗教者会議というふうに名乗り、世界各国から代表が集まっていった」と、小橋氏はこの会議の経緯と名称について説明した。
声明文第3項には、「日本のこの会議の主催者及びパートナーと共に、安倍自民党政権(以後、安倍政権)が、平和と不戦の誓いであった憲法九条を再解釈し、更に改訂と修正を行おうとしていることに深い憂慮を表明します。日本の平和憲法改変は、アジア地域とより広い地域に大きな不安定をもたらすでしょう。日本自身が、周辺諸国の脅威となったり、不安定要因になってはなりません。安倍政権によるこの憲法再解釈と改正案は、この地域の人々の願いと希望に反し、そして立憲民主主義に対する脅威となっています」と記されている。
小橋氏はこれについて、「現在の安倍政権がなそうとしていることは、日本を危機に追い込むだけではなくて、アジアと世界の平和を乱す方向に進んでいるということであり、それをやはり平和の方に転換しなければならないということである」と説明した。
そして、「そのためには、第4の項目にあるように、かつて日本が行った侵略と植民地(支配)という行為を率直に反省して、そこから日本の国の方針を立てていかなければならない」と語った。第4項には、「日本政府による侵略、残虐行為や植民地支配に対する真摯な自認と謝罪は、アジア地域の平和の基盤を形成します」と記されている。
第7項には、「武力に頼り軍備を増強することは、国や地域に安全保障をもたらすものではなく、逆に安全を脅かすものです。安倍政権の憲法九条再解釈による集団的自衛権の巧妙なごまかしは、地域全体を不安定にする危険な軍拡競争につながると懸念します」などと記されている。
小橋氏は第7項について、「日本がこれ以上軍事に頼り、そして軍備を増強していくという、そういうことは国の安全をかえって弱くするものであり、地域や世界の平和を弱めるものだという理解であります。国を守るために軍備を増強するのだと言っていますけども、それは逆なんだということを私たちは理解をしたわけです」と説明した。
第10項には、「究極的な安全保障は、武器と軍備の放棄によってのみもたらされると確信しています。この確信を基に、会議の参加者がそれぞれのコミュニティーに憲法九条の大切さを伝え、さらに九条への賛同を確認すべく自国政府に働きかけることを誓います」と記されている。
これについて、小橋氏は「世界各国から来てくださった代表者がその国や周辺に憲法9条の基本理念を広めて、それに基づいてそれぞれの政府が方向を見いだしてくださるように働き掛けるということであります」と語った。声明文には、そのための行動の提案が記されている。
また、2007年の第1回会議から2011年の第3回会議まで参加した、元アジアキリスト教協議会(CCA)「正義と国際問題・開発と奉仕」担当共同幹事のチャーリー・オカンポ牧師は、記者団に対し、今回の会議について「東京で行われた第1回の会議から9条に対する意識や支援、そしてエネルギーの高まりを実感できました」と述べた。
しかし、「ただ、この会議で私は、青年、若い人たちの参加が非常に少なかったことに気づきました」とオカンポ牧師。「この会議は、私たちが連帯のうちにもっと幅広く活力のある9条運動をするように、もっと若い人たちに参加してもらうよう決議をしました」と述べた。声明文にある「行動への提案」には、「憲法九条運動に若者にも関わってもらえるようにすることを宗教界に呼びかけます」と記されている。
「私の個人的な体験ですが、私はフィリピンで生まれたのですが、アジア地域で日本軍によって引き起こされた暴力や不安定について語るときはいつも、フィリピンは1942年から1945年まで残虐行為や暴力による被害を受けた(という話になります)」とオカンポ牧師は語った。「そこで、皆さんには(声明文の)第4項の最後の行である『日本政府による侵略、残虐行為や植民地支配に対する真摯な自認と謝罪は、アジア地域の平和の基盤を形成します』という部分に着目してほしいです」と求めた。
「地域社会が被害を受けた暴力についての自認がなければ、そこに赦しはないでしょう。宗教界の一員として、私たちは赦す必要があると思いますが、でもまずアジアにおけるあの戦争の間に脆弱な地域社会が被害を受けた暴力についての自認(の声)を聞く必要があります」と、オカンポ牧師は付け加えた。
その後、WCCのトゥヴェイト総幹事は記者団に対し、「日本は極めて重大な時にあると私たちは考えています。つまり、日本にとってだけでなくこの地域や世界における平和のための努力にとっても。ここに集まった市民や宗教者たちと共に、私たちはこの9条を再解釈して他のものにしようというこの試みについて非常に憂慮しています。私たちは再軍備が日本だけでなくこの地域にとってより多くの安全保障ではなく、より多くの脆弱性を意味すると考えます」と語った。
「従って私たちは、政治的対立の軍事的解決を控えるよう、全ての国々に呼び掛けるとともに、日本政府に対し、第9条の文言と精神に忠実な、勇気ある、そして力強いリーダーシップを示すよう促します」と、トゥヴェイト総幹事は述べた。
ノルウェー教会(ルーテル派)の牧師でもあるトゥヴェイト総幹事は、「私が学校に通っていたころ、それはもうずいぶん前のことですが、私たちはノルウェーで、日本には戦争に行くことを禁止する憲法があるということを習いました。それは第二次世界大戦から何を学べるのかということを極めて力強く示すものでした」などと付け加えた。
この会議の副題にあるナショナリズムに関する本紙記者の質問に対し、トゥヴェイト総幹事は安倍首相と衆議院選挙の有権者に言及し、「彼(安倍首相)と日本で投票する全ての人たちに対する私のメッセージは、共に国民であることは財産ですが、他者に敵対するナショナリズムは危険だということです。それは他者にとって危険であるし、それはまたあなた方自身にとっても危険なのです」と答えた。
「ですから、この9条は日本の国民が共に過去に起きたことだけでなく、未来に対する責任をどのように負うのかについてのしるしだったのです。このようなたぐいの国民の責任は、私たちが皆さんの首相だけでなく日本で投票する誰もに対して促すものなのです。この宣言(憲法9条)に共にとどまり続けてそれを堕落させないために」と、トゥヴェイト総幹事は続けた。
そして、「この地域と世界の他の地域の両方で、ナショナリズムが常にそして再び紛争をあおりかねないこと、国民国家が適切なバランスと人々の適切な関係をもたらすための形となり得るということを、私たちは分かっていると思います」と述べた。