クリスチャンの若手弁護士である伊藤朝日太郎氏(明日の自由を守る若手弁護士の会)が、自民党の改憲草案について、個人よりも国家を、基本的人権よりも「公益及び公の秩序」を優先させ、緊急事態の際に内閣が「法律と同一の効力を有する政令を制定する」権限を行使できるようにするものだと指摘。それは憲法9条ばかりではなく、国家権力を制限することにより国民の自由と権利を擁護する原理である、立憲主義の危機だと警告している。
日本カトリック正義と平和協議会が開いた「地上の平和」学校(5月15日、イエズス会岐部ホール)で、伊藤氏は、「自民党『壊憲』案は私たちをどこにつれていくのか?」と題して講演。▼憲法とは何か、▼戦争の放棄を放棄する、▼緊急事態条項は何をもたらすか、▼政教分離の空洞化、という4つの点について話し、「自民党の改憲草案は、憲法自体を吹っ飛ばすインパクトを持っている」と警告。自民党改憲草案99条の緊急事態条項は「9条の改憲よりも危険だ」と指摘し、自民党は、緊急事態についての憲法改正を議論の俎上(そじょう)に載せようとしていると語った。
伊藤氏は、同協議会のニュースレター「JP通信」(Vol.192、2015年6月号)で、「立憲主義の危機」と題し、「立憲主義とは」「平和憲法の空洞化」「緊急事態には人権も民主政治も吹き飛ぶ」などについて述べ、この講演に関する詳細な報告記事を記している。この記事で伊藤氏は、自民党改憲草案では緊急事態の際、「人権よりも、国その他の公の機関の『指示』の方が優先してしまう」とし、「緊急事態の際に、政府に独裁権限を与えることにほかならない」と警告している。
伊藤氏を講師に迎えた「地上の平和」学校は、「立憲主義の危機と教会生活との関わりについて考えよう」と、同協議会が開催した。会場からは、日本基督教団の信徒である伊藤氏に、「クリスチャンがどのように対処していったらよいか」と尋ねる質問も出た。これに対し伊藤氏は、「日本人の悪い癖で、長い物に巻かれたり、時勢に流されたりするというのがある」と言い、「キリスト者が信じるのは神様だけであり、人のやることには当然過ちがある。人はそれこそ過ちにまみれた人生を送っているわけだから、そこで政府のやることを信じなさいということに抵抗し得るのは、宗教者なんだと思う」と答えた。
伊藤氏はまた、人間には神から与えられた良心があり、一人一人が自分の良心に基づいて決断する自由が与えられているとし、「時勢に流されるということに抵抗して、まさに自らの良心を拠り所として抵抗するしかない」と強調。「特にキリスト者としての大きなメリットは、もともとこの社会の中で少数者であるということ。社会の多数派の暴走を一番感知できる立場にいるはず」と言い、「宗教者、そして教会が抵抗の拠点になるということは、今後やれることであると思うし、必要なことであると思っている」と語った。
なお、明日の自由を守る若手弁護士の会では、漫画や紙芝居、リーフレット、出前の憲法学習会などで、憲法について分かりやすい情報提供を行っている。詳しくは同会のホームページで。