ろうあの写真家として知られる故井上孝治氏(1919〜93年)の写真を展示する企画展「井上孝治の写真―軍艦島と長崎」が、長崎県美術館(長崎市)で開催されている。この展示の中に、原爆で破壊された旧浦上天主堂の写真が、ガラスケースに入れて飾られている。旧浦上天主堂の被爆後の写真については、当時の米軍が撮影した記録写真は残っているが、日本人が撮影したものについては非常に珍しいという。
この写真のネガが発見されたのは先月。孝治氏の長男である井上一(はじめ)さんによると、今回開催中の企画展を準備している過程で発見されたという。昭和30年代(1955〜64年)を中心とした長崎の写真を整理しているときに、「長崎」と書かれたやや大きいセミ判のネガが見つかった。そのネガの1枚から孝治氏がプリントした写真の裏面に、「昭和23年1月」と本人による記載があったという。
発見された写真は5枚で、そのうち2枚が崩れ落ちた外壁を撮影したもの。廃墟となった旧浦上天主堂のそばにたたずむ聖人像が撮影されたものもあった。核兵器の威力と被害を伝える貴重な資料であり、また芸術作品としても価値が高いという。井上一さんは「父の残した写真を、ただの記録写真としてではなく、作品として残したいと思っている」と言い、それらを後世に残すのが自分の役割だと話している。
孝治氏は、福岡市出身の写真家で、戦前から写真を撮り始めた。カメラ店を営む傍ら、生涯にわたって精力的に撮影を続けたという。発見された旧浦上天主堂の写真は、今回、長崎県美術館で開かれている企画展の中で、「父が最初に長崎を訪問した資料」(井上一さん)として公開されている。
孝治氏は、1957年と58年にも長崎市を訪れ、その時の旧浦上天主堂の被爆遺構を撮影している。その他にも、洋館群のある南山手や東山地区の風景、またそこに暮らす人々の日常を撮影した写真も、今回の企画展で展示されている。
企画展「井上孝治の写真―軍艦島と長崎」は、7月26日(日)まで。詳細・問い合わせは、同美術館(電話:095・833・2110、FAX:095・833・2110、メール:[email protected]、ホームページ)まで。