エルサレムの旧市街近郊にある「シオンの丘」に住むキリスト教徒とイスラム教徒はここ数年、甚大なヘイトクライム(増悪犯罪)の標的となってきた。しかし、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の3つの宗教の信者らが、共にシオンの丘にある墓地を修繕することで、この不寛容に立ち向かおうとしている。
2月末、シオンの丘にあるギリシャ正教の神学校の浴室が放火される事件が起きた。イエス・キリストを批判する内容の落書きがスプレーで書かれていたが、襲撃によるけが人はなかった。墓石が破壊されたり、司祭が人々につばをかけられる事件も起こっているが、警察による介入はほとんどない。
昨年5月の教皇フランシスコの聖地訪問の前には、イスラエル政府がバチカンに最後の晩餐が行われた場所とみられる「ダビデ王の墓」の支配権を与えるのではないかという憶測が流れ、宗教間の緊張が高まった。そのため、当時はシオンの丘に住むキリスト教徒への襲撃を呼び掛けるデモも行われた。
イスラエルの新聞「ハアレツ」によると、「ダビデ王の墓をキリスト教徒に返すこと」に対する行動を呼び掛けるポスターが、ここ数日また見受けられるようになったという。
ポスターには、「ダビデ王の墓は危機にあるが、あなたは寝ているのか? 全世界を揺るがす世界的な戦いに備えよう。選挙運動のただ中で、左翼政党はキリスト教系財団の助けを得て、ダビデ王の墓をキリスト教徒へ渡すことを約束した」などと書かれている。
この偏狭さへの応答として、襲撃や経年劣化により壊れた墓石を保護するために、シオンの丘にある教会と共に働くイスラエル人がいる。
イスラエル遺産保存協会(SPIHS)の資金協力により初めて修繕が行われているのは、シオンの丘にあるプロテスタントの墓地だ。しかし異なる諸宗教によるこの団体は、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の3つの宗教全ての墓地について修繕することを計画している。
2年前、シオンの丘にあるプロテスタントの墓地では、19世紀から20世紀にかけてエルサレムに在住していた多くの著名人のものを含む数多くの墓石が破壊された。
修繕作業を監督する建築家のギル・ゴードン氏は、「私たちは、ヘイトクライムに対し当局が対処しなかったミスによる悪い印象を少しでも正すために、これを行いました」とハアレツに語った。「警察は一人も逮捕せず、告訴もしていません。知事もこれを無視しています。私たちは、これをイスラエルの名誉回復のために行っています。そうすれば、気に掛けてくれる人がいることを彼らも知るでしょう」とゴードン氏は言う。
石工が墓石を修繕し、キリスト教徒とユダヤ教徒のボランティアが墓地の清掃を始めている。プロテスタントの墓地の修繕が終われば、イスラム教徒の墓地でも働きを始め、さらにユダヤ教徒の埋葬地にも活動を広げる予定だ。
また、ダビデ王の墓の管理人の一員で、シオンの丘の墓地について関心を寄せる著名なパレスチナ人一族ダジャニ家の支援を受け、アルメニア教会の墓地の修繕を行うかどうかの議論も起きている。
このプロジェクトの創始者の一人で、歴史家のイスカ・ハラニ博士によると、この働きはプロテスタントの墓地で多数の十字架が破壊されたことを受けて始められたという。
ハラニ氏は、ボランティアは「ただ連帯を示すためだけでなく、人々にエルサレムが私たち皆が共に暮らし、そして隣り合って生活し続ける多文化都市であることを思い起こさせる」ために墓地の修繕をしていると語る。
一方、墓地での働きが終了したあとには、シオンの丘にある各宗教の礼拝所や文化を解説する旅行者用のルートを作る計画も出ているという。