英国で3人の親を持つ赤ちゃんを出生させようとする世界初の試みが行われようとしており、キリスト教系の慈善団体が厳しく批判している。
キリスト教系慈善団体「CARE」のノラ・リーチ代表は、17日に英国議会に提出された法案が、「倫理的な、そしてアイデンティティに関わる重大な質問」と、「まだ答えの出ていない安全性への甚大な懸念」を呼び起こすと述べた。「総選挙直前に、政府が下院議員に大きな議論を呼ぶであろうこの議案への採決を求めようとしていることは、かなり特異なことです」とリーチ氏は話している。
ジェーン・エリソン公衆衛生担当相によって提出されたこの法案が可決された場合、体外受精(IVF)を行う病院は、卵子の中の欠陥のあるミトコンドリアDNAを、ドナーの正常なDNAに置き換えることが法的に可能になる。「ミトコンドリア置換療法」として知られるこの治療法は、筋ジストロフィーのような深刻な遺伝病を持った子どもの出生数を減らすことを可能にするが、その治療を受けた子どもは技術的には2人の母親、そして全体で3人の親を持つことになる。
エリソン担当相は書面での声明で、「政府はこの議会の会期中、ミトコンドリアの提供に対する民衆の容認性と、この新しい技術に伴い現に積み重ねられている安全性と有効性の証拠を吟味するために、包括的で透明なプロセスを開始しました」「今こそ、議会においてこうした働きを検討し、採決する機会を与えるべき時です」などと述べた。
英国主席医務官のサリー・デイビス氏は、この法案が成立すれば、この治療法によって「英国を科学的発展の最前線にとどまらせる」としているが、反対派は、遺伝学的に変更を加えるものだと非難している。しかし政府は、親から子どもへと遺伝する身体的な、またその他の特徴に関する情報を含む核DNAがドナーから提供されることはないと強く強調している。
しかし、CAREによれば、ドナーが匿名であることが法案に明記されている以上、この治療法はアイデンティティの感覚に破壊的影響を与える可能性がある。
さらにCAREは、ジェレミー・ハント厚生相がヒト受精及び胚研究認可庁(HFEA)に安全性についての報告書を3本提出するよう依頼したにもかかわらず、政府は、臨床実験に移る前段階の実験の結果が公表される前に法案を提出したとも指摘している。
「政府は、自ら諮問した提案に明らかに反対する結果が出たにもかかわらず、それを無視しました」とリーチ氏。「提案された技術の一つ、前核移植についてのヒトでの唯一の実験が中国で行われましたが、自然ないし人工流産、死産という結果になりました」と指摘し、この治療法を支える事柄が「年が経つにつれ、劇的に崩れ落ちました」としている。
「政府は患者の安全を脅かそうとしています。ミトコンドリアDNAは、細胞のエネルギーを生み出すだけでなく、現に生まれる子どもたちの特徴に影響を及ぼします。結果として字義通り3人の親を持つ子どもというべき子どもが生まれることになります」とリーチ氏は結論づけた。
8月、英国国教会は政府に対し、あらゆる計画を可決する前に、より綿密な調査を行うよう勧告し、またこの治療法を通して生まれる子どもがドナーについて知ることができるようにすることが必要だと求めた。
「私たちは、ミトコンドリア置換療法を認可する法案を提出する前に、その安全性と有効性について、さらなる調査研究が必要だと考えています」と、同教会は声明で述べている。
「200人に1人の子どもが何らかのミトコンドリア病を持って生まれてくるにもかかわらず、現在の技術では年に10人程度の子どもにしか有効ではありません。長期的な観点からいえば、安全性と有効性を実証する研究がさらに積み重ねられたほうが、よく分からない技術を拙速に適用するより、有益に思われます。法案の提出は、こうした調査研究の結果を待ってからなされるべきです」
この法案の採決は来年初頭に行われる予定で、成立すれば来年10月には発効する。