筋萎縮性側索硬化症(ALS)協会を支援するため、最近広まっている「アイス・バケツ・チャレンジ」だが、人工妊娠中絶反対の人々の中にはこのキャンペーンに参加することを拒否する人々もいる。
ALS協会は研究のため人間の胎児の破壊を支持しているからというのが彼らの主張。難病のため治療法を研究するのは立派なことだが、目的が何であれ手段は正当化されないと言う。
「難病と闘うのは立派なことですし、アイス・バケツ・チャレンジは人道的な取り組みに楽しさを加えているのは確かです。でもだからこそALS協会が、一部の人々を助けようとする努力の一方で、小さな無実の命を殺して実験台にすることで成り立っている研究を支援していることが残念です」と、中絶反対派グループ「ライブアクション」代表のライラ・ローズ氏は声明を発表した。
ALS協会は支援するにふさわしい協会ではあるが、と彼女は続ける。ただし、科学的研究のために人間の胎児の破壊を支援しないならば、という条件付きだ。
「胎児を破壊する胚性幹細胞(ES細胞)の研究は、本質的に非倫理的で、基本的な人権を侵しています。唯物論者であっても、この研究が益を生んでいないことを認めざるを得ないでしょう。この慣習を容認する理由は一つもないのです。実際、ALS協会の不名誉となっているだけです。この点がなければ、私もALS協会を喜んで支援します」とローズ氏は言う。
同じ理由で、米カトリック・シンシナティ大司教区は、教区内のカトリック系学校の校長に、生徒たちがアイス・バケツ・チャレンジに参加する場合、ALS協会に寄付を送らせないようにと指示を出した。
「私たちは、このキャンペーンにこれだけ多くの人々が参加しているのは思いやりのためであることは理解しています」と、大司教区広報担当ダン・アンドリアッコ氏は米シンシナティ・インクワイラー紙に語った。「しかし目的がよいだけでは充分ではないというのは、道徳的原理として当然です。目的のための手段も道徳的に正当なものでなければなりません」
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、別名ルー・ゲーリック病としても知られているが、脳と脊椎の神経細胞が侵され、自由に筋肉を動かすことができなくなる難病である。
アイス・バケツ・チャレンジは、ボストンカレッジの元野球選手でALSと診断されたピート・フレイツ氏の家族と友人から始まった。チャレンジに参加する人は、氷水を頭から被る映像をビデオに撮り、そのビデオをソーシャル・ネットワーク系のウェブサイトに掲載し、次のチャレンジャーを指名する。米ESPNテレビによれば、チャレンジが始まって最初の2週間(7月29日から8月14日)で、ALS協会は14万6千人の新しい寄付者を獲得し、760万ドル(約7億8900万円)の寄付金が集まった。
これに対して、8月14日、人間の胎児を実験台にした研究に疑問を呈して注目を集めたのが、マイケル・ダフィー神父がカトリック系の「Patheos.com」のブログに掲載したコメントである。
ALS協会のウェブサイトには、幹細胞研究に関する質問に答えているページがある。このページでは、人間の胎児に対して実験を行うことに「倫理的懸念」があることは認めながらも、この慣習を非難してはいない。
一方、ダフィー神父のブログでは、胚性幹細胞の研究を促す内容として、ALS協会のウェブサイトから引用している。この引用はALS協会の幹細胞研究に関するページから今は削除されているが、同ウェブサイト上のALS協会研究開発上級副部長ルーシー・ブルーイン博士の記事の中でまだ見つけることができる。
「成体幹細胞の研究が重要で、胚性幹細胞の研究と共に行わなければなりません。どちらも貴重な情報源となります。あらゆる種類の幹細胞の研究を行うことによってのみ、科学者は病気を治療する最も効果的で効率的な方法を見つけることができるのです」と、ブルーイン博士は書いている。
アメリカ生命連盟(ALL)のウェブサイトでは、各チャリティー団体の生命に関する立場を詳しく説明したページを設けている。そのページによれば、ALS協会の2014年7月2日付けのメールで、同協会がある特定の支援者を通して胚性幹細胞を使う研究を支援していることを認めているという。人間の胎児を実験に使う研究に寄付金を使ってほしくないという寄付者もいるかもしれないと指摘した上で、そのメールには「非常に厳密な指針の下、協会では将来、胚性幹細胞の研究を支援する可能性がある」と書かれている。
ALS協会の代りに、ダフィー神父はヨハネ・パウロ2世医療研究所に寄付を送ることを勧めている。