パキスタンの最高裁が、暴徒によってレンガ窯で焼き殺されたクリスチャン夫婦の事件に対し動き出した。
シャマ・ビビさんと彼女の夫シャーバズ・マシーさんは、イスラム教の聖典であるコーランを燃やしたとして、同国の冒涜(ぼうとく)法に違反すると非難され、地元のイマーム(イスラム教指導者)らによって扇動させられた村人らにより殺害された。しかし後に、殺害の動機が金銭的な理由によるものであり、宗教的な理由からではない恐れがあることが明らかになった。夫婦は、現代における奴隷といわれる「労働奴隷」であり、支払えない額の借金を抱えていたとされている。
現在、最高裁は同国パンジャブ州政府に対し、この事件に関する報告書を提出するよう求めている。また、最高裁は連邦政府に対しても、少数派の権利の保護に関する最高裁の6月19日決定の法案実施に関する報告書を提出するよう指示した。
パキスタンの少数派権利擁護のために働く英団体「CLAAS−UK」のナシル・サイード会長は、この動きを歓迎している。サイード会長は、殺害に関与した人たちを処罰し、前例を作ることが重要だと言う。「政府が厳しい措置を講じ、増し続ける憎しみに歯止めを掛け、このような犯罪に関わってきた人々を罰しない限り、私たちは今後この種の事件が起こることを避けることができません」
また、サイード会長は「残念ながら、政府はすぐに行動を取ることを避け、教会への攻撃や、キリスト教徒の町や村が燃やされたこと、キリスト教徒の殺害、さらに彼らが生きたまま焼死させられたことに対して、責任を持つことを躊躇(ちゅうちょ)しています」とも述べている。
夫婦が窯の中で燃やされる前にすでに死んでいたのか、それとも生きたまま焼かれたのかは、人によって異なった供述がなされている。事件後ただちに村を訪れた英人権擁護団体「リリース・インターナショナル」の職員は、英国福音同盟のウェブサイトで、「私は手に一つの袋を与えられました。そしてその中を見ると、そこには夫婦の骨が入っていることが分かったのです。それらは完全に骨でした。私は、信仰のために生きたまま焼かれた2人のキリスト教徒の手を握っていたのです」と述べた。
事件後、この職員は夫婦の家族と時間を過ごしたが、人生で初めて一体何と祈ったらいいか分からなかったという。夫婦の兄弟は激しく泣き続け、祖母は「もうこれ以上泣くための涙が残っていない」と言ったという。「おばあちゃんは疲れ切ってぼろぼろになり、顔は悲しみでいっぱいになっていました」という。
あるキリスト教徒の男性は、今回の件でイスラム教徒とキリスト教徒の間に憎悪を引き起こすことがないようにと、村人たちに話をした。「私たちは平和を保つ必要があります」
この職員は、夫婦らの棺(ひつぎ)の前で祈祷することを求められた。葬儀には、警察や地元のイスラム教徒の政治家らが参加していたが、「会場は、非常に重苦しい空気が漂っていました。多くの人がショックであったと思います」という。職員はまた、パキスタンのキリスト教共同体の人たちの信仰は「驚くべきものである」と付け加えた。
英国パキスタン・キリスト教協会は、パキスタンへの海外からの援助を停止するよう呼び掛け、22日にはロンドンの首相官邸の外でデモを行った。
英国福音同盟のアドボカシー担当であるデイブ・ランドラム博士は、今回の事件は、キリスト教徒を迫害するための冒涜法の明らかな誤用であると言う。
ランドラム博士は、「今回の野蛮な行為は、事実、パキスタンでこれまで続いてきたキリスト教徒に対する宗教的不寛容さを持ち合わせた、数ある残忍な事件の中の最も新しいものであるということに過ぎない。パキスタンは英国の納税者から4億ポンド(約740億5300万円)以上を援助金として受け取っている」と指摘する。
「英国福音同盟は英国政府に対し、この無実のクリスチャン夫婦への死刑に対し明白に非難すること、またその影響力を利用し、加害者に対して法の施行力を全面的に機能させることをパキスタンに説得させることを求めた。これらの野蛮な襲撃や暴行の残忍さは、イスラムの名により行われるイスラム国(IS)によるものと何ら変わりがないということが認められるべきである」とランドラム博士。「世界は、パキスタン政府がこの種の迫害に対し迅速に行動を起こし、断固として迫害を止めるかを見ており、またそうすることを待っている」と警告した。