学生の募集停止状態が続いている聖トマス大学(兵庫県尼崎市)は3日、同大学同窓会主催のフォーラムで、来年3月末で大学を廃止する方針を示し、土地や図書館については尼崎市と協議を進めていることを明らかにした。
この日、スティーブン・リン理事長兼学長は紙に書かれた説明文を読み上げながら、新学部設置の見込みが立たず資金不足などから大学の存続ができなくなったとして、現在いるただ一人の大学院博士課程の学生が修了する2015年3月をもって大学を廃止すると述べた。
しかし、15分ほどの説明が終ると、所用があるとして質疑応答や詳しい説明には全く応じず、すぐにその場を後にしたため、会場からは「詳しい説明責任を果すべきだ」「無責任だ」などの声が上がった。
リン理事長が去った後は、同大学の同窓会フォーラムが「もう今しかないぞ!聖トマス大学」と題して行われ、同窓会幹部や、10月31日付けで解雇された教員により、大学運営に関するこれまでの経緯についての疑問が出された。
この日配布された資料によると、同大学は理事会の決定により、2011年にグラウンド約1万平方メートルを、さらに13年にも約6千平方メートルの土地を住宅販売会社に売却するなどして、約21億円の資金を得ている。そのためフォーラムでは、資金不足による一方的な大学廃止はおかしいとの指摘が出た。
また11年以降は、同大学の「寄附行為」に記されたカトリック大学の建学の精神と教育方針を無視して、構内に風水施設や「願いをかなえる」という白いゾウの巨大な置物などが大学の資金で建設され、学生や教職員の抗議から撤去に応じる事件があったり、教授会の開催が拒否されてきたという。こうした一方的な学校運営の末に説明が不十分なまま廃止が決まったことに、同窓生からは疑問と怒りの声が上がった。
これらの疑問点を挙げた上で同窓会は、同大学の敷地は太平洋戦争中に当時の政府がなかば強制的に徴用し陸軍施設を設けた土地の跡地であり、地域にとっては公共の目的のためならばこそと、やむを得ず提供したものであったと説明。戦後、政府から土地の払い下げを受けたカトリック教会も、教育という公共利益のために活用するということで理解されてきたとして、教職員や同窓会、地元の理解を得ずに一方的な決定を行なったことに強い怒りを表明した。
また教育基本法第6条1項によって、私立大学は公教育の一翼を担う教育機関として「公の性質」を持ち、「公共性を高めることによって」健全な発達を図るべき(私立学校法第1条)とされていると指摘。その上で、同大学の理事会は、私立学校法第40条2に定められた「理事は、法令及び寄附行為を遵守し、学校法人のため忠実にその職務をおこなわなければならない」とされている「忠実義務」に違反しているとし、文部科学省、衆参両議院、カトリック大阪大司教区、尼崎市、私立大学団体などに、しかるべき処置を求めるとした。
同大学の敷地に関しては、同窓会、元教職員、地域住民と共に協力して地域の学び舎として活用していけるよう道を探っていきたいと、共同声明(案)を配布した。また、学内のチャペルなどの施設についてもカトリック教会と協議をしてきたいとした。
同大学は、1962年にカトリック大阪大司教区によって学校法人英知学院として創立、翌63年に英知大学神学部を設置しカトリック系の4年生大学として開学した。2007年に聖トマス・アクィナス大学国際協議会(ICUSTA)に加盟し、聖トマス大学と改称。しかし定員割れが続き、10年度には唯一の学部だった人間文化共生学部の新入生の募集を停止した。
その後、国際的に私学経営を手がけるローリエイトグループの傘下に入り、新たに国際教養学部と健康科学部の設立設置認可を目指していたが、11年には文部科学省に提出した書類の不備・虚偽記載により2年間の設置申請を禁じる処分を受けた。その後、15年度からの看護学部の新設を目指していたが、14年4月に断念。2月からは教職員の希望退職を募集し、残っていた教員4人には解雇を命じたことから、この教員4人は7月に解雇無効などを求めて神戸地裁に訴えを起こしている。
また、14年3月に最後の学部学生が卒業してからは、大学院の研究生1人のみが在籍している状態となっている。