カトリック中央協議会(東京都江東区)の難民移住移動者委員会(松浦悟郎委員長)は13日、法務省入国管理局に対し、同局が12月8日に行った被収容タイ人46人の一斉強制送還に対し、抗議する声明を発表した。
同委によると、今回の送還は、7月にフィリピン人75人に対して行われた一斉強制送還に次いで2回目。難民、移住者の人権擁護のために働いている同委員会は、長年日本で働き家族もいる外国人にとっては、非正規滞在であっても「強制送還によって子どもが父母から引き離される場合にはとりわけ深刻な影響がある」と訴えている。
また、7月に強制送還されたフィリピン人75人の追跡調査からも、離散した家族の過酷な状況がわかっているとし、「私たちが望むのは、日本に定着したすべての人びとが等しく人権を尊重される社会」と主張している。
以下、抗議声明全文。
チャーター機によるタイ人の一斉送還に対する抗議声明
12月8日、法務省入国管理局は、入国管理施設に収容されていたタイ人46名をチャーター機により強制送還しました。今年7月6日のフィリピン人75名の送還に続き、2回目のチャーター機による一斉送還です。私たちは、度重なるチャーター機による非正規滞在者の一斉送還に強く抗議します。
日本のカトリック教会は、かねてから日本における難民・移住者の人権状況に深い関心をもち、とりわけ弱い立場にある非正規滞在の外国人の支援にも積極的にかかわり、収容施設の外国人をはじめとする非正規滞在者に対する施策の改善も申し入れてきました。
送還を忌避する外国人の強制送還については、これまでにもさまざまな人権上の問題が指摘されてきました。
私たち日本カトリック難民移住移動者委員会(J-CaRM)は、今年7月のチャーター機によるフィリピン人一斉送還に関して、移住労働者と連帯する全国ネットワークと共同で送還の翌月8月に実態調査団を派遣し、現地調査を行いました。送還を忌避し、長期にわたり入管施設に収容されている非正規滞在の外国人一人ひとりには、日本への定住を望むさまざまな背景や事情があります。7月に一斉送還されたフィリピン人のなかには、日本に一緒に暮らすパートナーや子どもなどの家族がある人が半数近くいました。そのほかにも、20年前後の長期にわたり日本に定着し母国に身寄りや帰る家もない人や、まだ退去強制令書が発付された後6ヶ月の提訴期間内で訴訟準備中の人などが多く含まれていたのです。実態調査からは、長時間にわたる手錠の使用など送還のプロセスにおける問題点のほか、多くの被送還者が、日本の家族とも分離され、長期にわたって生活した国から突然送還されたことで、フィリピンでの生活のめどが立たずに苦しんでいる現状が明らかになりました。
退去強制令書発付処分等取消訴訟の提訴期間内の人を送還するのは、裁判を受ける権利の侵害です。また、家族の結合権は、日本も批准している「自由権規約」や「子どもの権利条約」などで保障された権利で、突然の強制送還による家族の分離はこの権利を侵害するものです。強制送還によって子どもが父母から引き離される場合にはとりわけ深刻な影響がありますが、日本政府はこれにかかわる「子どもの権利条約」第9条・10条について、入管法が優先するとの独自の解釈宣言を行い、強制送還による親と子どもの引き離しを正当化しています。これに対し、国連子どもの権利委員会の総括所見や国連の移住者の人権に関する特別報告者による報告など、国際社会からも繰り返し、日本政府のこのような条約解釈と非正規滞在者への施策が家族の分離という深刻な人権侵害をひきおこしている現実への強い懸念が表明されているのです。
7月のチャーター機による一斉送還については、2013年11月5日の衆議院法務委員会の一般質疑の中で、郡和子議員からさまざまな人権上の問題点の指摘がされましたが、日本政府はその指摘に対し、必ずしも誠実な対応をとっていません。このような中で行われた今回のタイへの一斉送還については、詳細は明らかにされていないものの、人権上のさまざまな懸念が拭えません。
私たちは、当事者が望まない強制送還を繰り返すことにより、非正規滞在者の人権が蔑ろにされている現実を深く憂慮します。私たちが望むのは、日本に定着したすべての人びとが等しく人権を尊重される社会であり、非正規滞在であった人にも、家族との結合や日本での定着性などが配慮され、合法化が検討されることです。
私たちは、チャーター機による一斉送還に強く抗議するとともに、日本政府に対し、非正規滞在外国人に対する施策を根本的に見直すよう求めます。