日本カトリック司教協議会の常任司教委員会は7日、前日6日に参議院本会議で成立した特定秘密保護法への抗議声明を安倍首相宛に送付した。
同委は、同法により範囲が曖昧な特定秘密が増大することで、政府による情報公開がはばまれ、「憲法の三大原則である主権在民、基本的人権の尊重、平和主義を侵害する恐れ」があると抗議している。
以下、同委による声明文全文。
日本カトリック司教協議会常任司教委員会は、日本国憲法の基本原理を尊重し、人間の尊厳に関わる自由で平和な社会を求める宗教者として、「特定秘密保護法」を、11月26日に衆議院、12月6日に参議院で強行採決したことに対して断固抗議します。
今回採決された「特定秘密保護法」は、日本の根幹を揺るがしかねない極めて重要な法案です。この法案については、以下の指摘する通り、憲法の三大原則である主権在民、基本的人権の尊重、平和主義を侵害する恐れがあり、日弁連をはじめあらゆる層の団体や市民たちが廃案を求めて声をあげました。
このような重大な法案を十分な審議も尽くさず、説得力ある説明もなされないまま強行採決することは絶対にあってはならないことですが、自民党をはじめとする「数の力」で一方的に強行採決されました。これは法案成立反対の民意を無視し、民主主義の根底を脅かすものであり、わたしたちは到底容認できるものではありません。
この「特定秘密保護法」は、以下のような欠陥をもつものであることを危惧します。
「特定秘密」を行政機関が定めるということは、国会が行政機関の下位に置かれることになり、これは日本の民主主義制度に反します。また「特定秘密」の範囲が曖昧なまま、その指定を行政側の恣意的な裁量に委ねるものです。これは情報公開制度が未整備の現状にあって、防衛、外交、特定有害活動の防止、テロリズムの防止にあたるとすれば、何でも秘密にされる危険があります。
民主政治は市民の信託によるものであり、情報の開示は民主的な意思決定の前提です。この法案により国会議員の国政調査権も制限される可能性があります。国会では正確な情報に基づいた議論が保障されるべきなのに、国会への情報提供が限定されてしまうことになり、主権在民が脅かされます。
この法案により、市民の知る権利は大幅に制限され、取材・報道の自由、表現・出版の自由、学問の自由など、基本的人権が侵害される危険があります。さらに秘密情報を取り扱う者に対する適性評価制度の導入は、プライバシー侵害の恐れがあります。
防衛大臣が「特定秘密」と指定すれば、それが自衛隊の海外武力行使や米軍との共同作戦など憲法9条に反することであったとしても秘密裡に実行されることになります。これは憲法前文で「日本国民は、政府の行為として国家として再び戦争の惨禍が起こることのないように、この憲法を確定する」と決意表明した平和主義を根底から揺るがします。
福島第一原発事故の収束のめどが立たない現状なのに、放射能の量、健康への影響、環境汚染の実態など、国民の不安をあおり公共の秩序を害することを理由に「特定秘密」と指定されかねず、それは市民の生命、健康をさらなる危険にさらすことになります。
このような重大な問題をかかえ、多くの反対や疑問が呈されている法案については、多方面からの意見を聴取し慎重な審議を重ねた上で、民主的に定めていくことこそが民主政治です。
今回のような拙速な採決に対してわたしたちは断固抗議するとともに、今後同様な強行採決を決して行わないよう要求します。