国際NGOのワールド・ビジョン・ジャパン(東京都新宿区、以下ワールド・ビジョン)は、7月にイタリアで開催される主要国首脳会議(G8サミット)に向け、G8首脳陣がこれまでに約束してきた保健医療分野での支援を実施し、援助資金を拠出することを求める署名活動を始めた。
サミット開催前の署名活動は、ワールド・ビジョンが取り組むアドボカシー(政策提言、権利擁護)活動の一環で、昨年開かれた北海道洞爺湖サミットでは国内で1万2679件の署名が集まった。
これまでのG8サミットを見ると、その決定が途上国の子どもたちに与える影響は大きい。2000年の九州・沖縄サミットでは、議長国である日本が感染症対策を主要な議題として取り上げ、追加的資金調達の必要性について確認したことが、02年の「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」設立の直接の契機となった。同基金によるこれまでの支援承認額は約151億ドルに上り、すでに250万人の命が救われたと推計されている。
洞爺湖サミットでは、ミレニアム開発目標(MDGs)の中でも特に取り組みの遅れている妊産婦と子どもの保健問題が取り上げられ、母子保健や栄養に関する具体的な支援策がサミットの成果文書に盛り込まれた。しかし、支援を実行するための資金計画が示されず、また、子どもに関わるエイズ対策に関しては前年度から後退。すでに決められている子どもたちを救う取り組みが具体的に進められることが求められている。
ワールド・ビジョンによれば、07年の一年間に死亡した5歳未満児920万人のうち、4割は生後1カ月を生き延びることができず、5割は肺炎、下痢、マラリアなど予防・治療可能な病気が原因で死亡。全体の3割については、栄養不良が間接・直接的な要因となっている。地域で適切な予防と基礎的な治療が実施されれば、これらの要因はいずれも防ぐことができるとされている。
だが、ミレニアム開発目標の「2015年までに5歳未満児死亡率を1990年の水準の3分の1まで削減する」とする第4目標(MDG4)も、進捗の遅れが指摘されている。世界銀行の08年度ミレニアム開発目標進捗報告書によると、折り返し地点を過ぎたにもかかわらず、その達成率は32%にとどまる。
国連児童基金(ユニセフ)は、08年の「世界子供白書」で、「このままの傾向が続くならば、MDG4が達成されれば救えるはずの430万人の子どもたちが、2015年に命を落とすことになりかねない」と警告している。
ワールド・ビジョンは、途上国の保健医療課題に関してこれまでに約束してきた支援の実施やエイズ対策への支援増額、援助資金の増額などを求める提言書を作成、賛同を求めている。署名は同団体のホームページで募集中。
【ミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)】 2000年9月、米ニューヨークで開かれた国連ミレニアム・サミットで、21世紀の国際社会の目標として「国連ミレニアム宣言」が採択。90年代に開かれた主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、一つの共通の枠組みとしてまとめられた国際的な目標。2015年までを期限とし、貧困・飢餓の撲滅や初等教育の完全普及、ジェンダー平等推進・女性地位向上など8つの目標を盛り込んでいる。