トヨタの全方位戦略
電動化の進む自動車産業において、電気自動車への転換を進める中国、欧米に対し、トヨタ自動車は、ハイブリッド車、燃料電池車、さらにこれまでのガソリン車、ディーゼル車を含む全ての可能性を否定せず、全方位の開発を継続しています。
最近になって、電気自動車の課題が露呈し始め、トヨタの全方位戦略が評価されるようになりましたが、このようなトヨタの姿勢は電動化に限らず、先の見えない全ての分野において長年培われてきた基本姿勢です。
全方位戦略とはマネージ力の不足を示すのではなく、任された分野の責任を洩らすことなく担う宣言であり、リーディングカンパニーとして当然の姿勢のような気がします。
日本宣教においても、全方位戦略を目指したい
そのようなトヨタを定年退職し、国内宣教師になった私は、長年滞る日本宣教を拡大させる宣教手段を見いだすため、ブレス・ユア・ホーム(株)を創設しました。暗中模索の全方位に向けた研究開発になりましたが、私にとって慣れ親しんだ仕事のスタイルでした。
長い日本宣教の歴史の中で、このような法人設立は前例がなく、資金、経験、人材の全てが乏しい中でしたが、他の選択肢はありませんでした。
約8年後、研究フェーズは目標を達成した
トヨタを退職後、まず全寮制の聖書学校に入り、約3年間、神様からの声を聴く時を与えられました。この時に得た指針は、その後の歩みの中でぶれることなく具現化されていきました。
神様から得た指針は、①日本文化の中に福音を伝えること、および②日本人の弱さに寄り添うことの2つでした。今から振り返ると、宣教の基本姿勢として当然のことですが、初期の段階で正しい姿勢に導かれたことは大変ありがたいことでした。
その後、約8年にわたる研究フェーズの取り組みを通し、日本宣教に関わるあらゆる宣教手段を検討し、その中で最も効果的な2つの手段を選定することができました。それらを次に示します。
- 孤独を抱え不安の中におられる方に寄り添い、「継続的な傾聴」を実施すること
- 未信者や教会を離れた信者に対し、日本文化に即した「キリスト教葬儀」を通してエンディングに寄り添うこと
その後も全方位に向けた開発は継続していますが、選定した2つの宣教手段に関しては大きな効果が期待できるため、研究フェーズの開発から拡大展開フェーズの開発に移行することにしました。
拡大展開に向けた開発の危険性
かつてトヨタに在職中、私の職場は開発の最上流部でしたので、あらゆる可能性を否定せず全方位で開発するのが通常のスタイルでした。しかしその中で、大きな成果が見え始めると、下流に当たる開発部隊がいまだ多くの課題を抱えているにもかかわらず、量産化を目指して拡大展開フェーズの開発に着手していきました。
その規模は、私が担当した研究フェーズの開発よりはるかに大きく、大勢の人材が関わり、巨額の資金を投じた動きになりました。当然ながら、さまざまな課題が一気に明るみとなり、その対策に特化した業務に追われるようになりました。また、社外にニュースが伝わると、国内外の多くの企業や研究所から協力や情報交換の要請が入り、対応に追われることにもなりました。
残念ながら急激な拡大展開への移行は、当時の私にとって全方位に向けた開発を続ける時間も心の余裕も失わせ、結果的には、そのことが全体の開発を遅らせる要因になったと感じています。
日本宣教の拡大展開に向けて
国内宣教師として約8年の研究フェーズの開発から得た2つの宣教手段は、拡大展開に注力すればきっと日本宣教が大きく前進するでしょう。しかし、幸か不幸か、私たちにはかつてのトヨタ在籍時のような人材や資金はなく、下流の開発部隊もありません。外部からの情報交換や協力の要請が頻繁に入るわけでもありません。
現在のところ、全方位の研究フェーズの働きを継続しながら、拡大展開の働きを徐々に進めている状況です。日本宣教の拡大を心待ちにしていますが、神様が与えてくださった道筋は、じっくりと時間をかけた歩みになりそうです。
今後どこかの段階で、今より強力な拡大展開フェーズの開発が必要になるのは間違いありません。しかし、将来本格的な開発に至っても、全方位戦略(マルチパスウェイ)の姿勢を失うことなく、バランスの良い開発ができるように神様が導いておられるように思います。
私たちは今後とも、日本文化に寄り添い、孤独を抱える日本人に寄り添う姿勢を、責任を持って具現化する働きに心を込めてまい進したいと願っています。
日本をこよなく愛してくださる神様は、全ての計画を、ご自身が主体となって実現に至らせてくださると信じています。
あなたの道を主にゆだねよ。主に信頼せよ。主が成し遂げてくださる。(詩篇37篇5節)
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