LGBT(性的少数者)のイデオロギーに必ずしも同意する必要はないと語ったことで、勤務先の学校から解雇されたチャプレンのバーナード・ランダル氏(51)がこのほど、校長を相手取って訴訟を起こした。
英国国教会の牧師であるランダル氏は2019年、チャプレンとして取り次いだ説教の中で、アイデンティティー政治に関する議論を奨励し、生徒たちにLGBTのイデオロギーに必ずしも同意する必要はないと発言したことで、「重大な不正行為」を犯したとして、英国国教会の伝統を持つパブリックスクール(寄宿制私立中学校)であるトレント・カレッジを解雇された。さらに、学校の礼拝堂で行ったこの説教により、ランダル氏は政府のテロ対策事業「プリベント」にも通報された。
プリベントはその後、ランダル氏の説教には「テロのリスクも過激化のリスクもない」とし、懸念は払拭された。しかし、英国国教会のダービー教区は後に独自に調査を行い、ランダル氏が生徒らに「中程度」の保護措置を取るべきリスクをもたらしたと結論付けた。ランダル氏はそれ以来、4年にわたり説教することを許されていない。
今回の訴訟は今年2月、ランダル氏が不当解雇だとして雇用審判所に起こした訴えが棄却されたことを受けたもの。解雇を巡る訴えについては、ランダル氏は現在、控訴している。
ランダル氏の代理人を務める英国の「キリスト教法律センター」(CLC、英語)は、ランダル氏が、トレント・カレッジのビル・ペンティ校長によって、問題とされた発言の翌月には「イングランド教職規制機構」(TRA)に「密告された」と主張している。
CLCによると、ペンティ氏はTRAに対し、ランダル氏の言動について調査を開始し、不正行為についてヒアリングを行うよう求めたという。さらに、英内務省管轄の「前歴開示・前歴者就業制限機構」(DBS)にも調査を依頼したという。
TRAはランダル氏のケースをこれ以上扱わないとする決定をしたが、DBSの決定はまだ出ていない。もしもDBSがランダル氏に不利な判断をすれば、彼は今後、子どもに接する職業に就けなくなり、牧師として働くことも禁止される可能性がある。
ランダル氏は、ペンティ氏が自身のキリスト教信仰を理由に迫害し、嫌がらせし、差別をしたと主張しており、「執念深く、悪意があると感じた」と言い、次のように述べている。
「TRAが私のケースを問題にしないと決めたことにほっとしていますが、ここまで来たということに恐怖を感じています。プリベントとTRAへの照会は、人間のセクシュアリティーとアイデンティティーに関する世俗的通説にあえて反対する人を威嚇し、黙らせるための武器になっているかのようです。また、自分に起こったことをメディアに伝える私の自由を、学校側が調査を正当化するために悪用したことに関しても深く憂慮しています」
「今回の出来事は、キリスト教の教師や、学校で(LGBTの)性自認を祝福したり推進したりしない全ての専門家に対し、従わなければ解雇されるだけでなく、その職業から永久に締め出される可能性があるというメッセージを送っています。LGBTのイデオロギーを全面的に受け入れる以外の視点があることを、子どもや大人の間で教えたり、議論を促したりすることはもはやできません。これは真に自由で民主的な国では支持できないことであり、全ての教師、生徒、親は、しばしば親がそれについて何の知識も持たないまま学校により強制されているイデオロギーについて、懸念すべきです」
「私は自分の人生を歩みたいと思っていますが、今は正義のために戦い続けるしかありません」
CLCのアンドレア・ウィリアムズ最高責任者(CEO)は、次のように述べた。
「温厚な姿勢の牧師が、結婚は男女間のものだと信じてもいいと言ったことで、最終的に保護措置を取るべきリスクとして通報されることは、誰にとっても懸念すべきことです。ランダル氏が英国国教会や学校当局によって子どもたちと一緒に働くのに適していないとみなされるとするなら、私たちは誰も安全ではありません」
「彼をその愛する職業から追い出し、地元当局に通報して保護措置を取らせ、彼が子どもと一緒に働くのをやめさせることは、彼の人生を台無しにすることです。彼は4年以上説教を許されていません。これは、全く良いことでも親切なことでもありません。ランダル氏のケースは、寛容の欠如を如実に示しています。われわれは、ランダル氏のように、子どもたちと一緒に働くより多くの教師や牧師を必要としています。より少なくではありません」