自称「シネマ牧師」の筆者が今年、クリスチャントゥデイでレビューを掲載した映画は29作品! 鑑賞した映画はこの数倍はあるが、あえてレビューを書いた作品の中からベスト10を選ばせていただいた。前回の10位~6位に続いて、いよいよ5位~1位の発表である。前回同様、以下の4カテゴリでレイティングしているので参考にしていただきたい。
G(General):どなたが鑑賞しても大丈夫。
Y(Youth):若い方にぜひ見てもらいたい。
NFF(Not For Family):家族でご覧になる場合、お気を付けください。
NFEC(Not For Evangelical Christian):保守的なクリスチャンはお気を付けください。
では、上位5作品を見てみよう!
第5位「アルプススタンドのはしの方」(Y)
原作である演劇の戯曲を、雰囲気そのままに映画化。高校野球のアルプススタンドで繰り広げられる「何者にもなれなかった男女たち」の物語。それぞれ自分のキャラを自認し、他者が勝手に決め付けたキャラを必死で生きようとする様からは、わずか75分の映画ながら十分にその息苦しさが伝わってくる。そして初めは表面的な言葉で語り合っていた彼らが、いつしか本音で自らの胸の内を開示していく展開に、50過ぎのおじさんながら涙させられた。日本人が抱えるセルフイメージの低さと自己承認欲求の乖離(かいり)に、福音の必要性を深く感じさせられた一作。観終わった後に、きっと誰かと話したくなるはずだ。
第4位「ソウルフル・ワールド」(G)
ピクサー最新作(当時)とくれば、絶対にハズレはない。しかし、本作は単に「面白い」という域を超えて、深淵な人生哲学を分かりやすく万人に説くという離れ業をやってのけている。しがない中学校の音楽教師が、ある時やっとミュージシャンとして認められる。しかし、次の瞬間に突然他界してしまう。そして魂だけになって天界へ。このあたりの強引な展開になじめない人は多くいるだろう。しかし、これが一つのメタファーであって、決してキリスト教的世界観を批判したり揶揄したりしたものではないと分かると、すんなりと入り込めるだろう。後半は大人の映画となっていく。単に努力目標を達成したり、願いがかなったりするだけが人生ではなく、何気ない落ち葉の重なり合う音や自然の音色を聞き取ることこそ、実は最も「生」を実感できることである、とスマートに語り掛ける。家族でぜひご覧になってもらいたい一作。
第3位「雨とあなたの物語」(Y)
先日レビューしたばかりだからではなく、本当に心にしみた一作。単なる「恋愛すれ違い物語」だと思っていると、最後の最後に見事に足をすくわれる。このどんでん返しの快感が私は大好物であるため、本作は第3位にランクインした。また、SNS時代に手紙というマッチングが、岩井俊二の「Love Letter」や「ラストレター」に連なる「ネオノスタルジー(筆者の造語)もの」としても秀逸。何度でも観返して、いろいろな発見をしたくなる一作。聖書が神からのラブレターだとするなら、まさにこの物語の展開はキリスト教的だともいえるだろう。
第2位「リスペクト」(G)
ここで「リスペクト」が来ました! アレサ・フランクリンの黄金期を描きながらも、彼女の人生の本質を見事に映像化したという意味で、傑作中の傑作といえるだろう。そしてアレサを演じたジェニファー・ハドソンが最高! 彼女のクリスチャニティーとアレサのそれとが見事にシンクロしたラストの「アメイジング・グレイス」は、今年最大級の涙を提供してくれた。やはりゴスペルという音楽が普遍的に持つ「魂と信仰と音楽のシンクロ」は、観る者の心を揺さぶらずにはおれないだろう。これもまた何度でも観返したくなる一作。
第1位「空白」(NFF&NFEC)
2021年のベスト作品がNFF(家族鑑賞注意)でありNFEC(クリスチャン鑑賞注意)であるとは何事か!というお叱りの声が聞こえてきそう。だが、やはりこれに勝る作品はなかった。それくらい人間のどす黒い感情を描きつつ、その一方でまるで汚れを知らぬ無垢な心をも同時に描き出している。「人が本当に分かり合えるのか」という深淵なテーマを扱いつつも、最後は見事な着地で「人間」を活写している。分かり合えた、とも分かり合えなかった、とも言えない、この「どっちつかず」の現実の中にこそ、私たちは希望を見いださなければならない。吉田恵輔監督が描き出す人間模様は、リアリティーあふれる人間ドラマであるが故に、私たちが福音を語るべき対象者についていろいろと考えさせられる格好の資料ともいえよう。2021年ナンバーワン、確定です!
さて、いかがだっただろうか。この中でご覧になった作品は幾つあっただろうか。惜しむらくは、友人たちからの評判が高い「ドライブ・マイ・カー」がまだ観られていないこと。かなり評価が高く、来年のアカデミー賞にも絡んでくるらしいので、観ておきたいのだが・・・。来年はコロナが収まり、今年以上に映画館に足を運べるようになることを祈りたい。
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