キリスト教プロテスタント福音派の世界組織である「世界福音同盟」(WEA)と、世界最大のイスラム教組織であるインドネシアの「ナフダトゥル・ウラマー」(NU)がこのほど、共同で書籍を出版した。両者は、すべての人の信教の自由を守るという共通の目的のため、これまで3年にわたり対話を進めてきた。
出版されたのは、『God Needs No Defense - Reimagining Muslim-Christian Relations in the 21st Century(神は弁護を必要としない―21世紀におけるイスラム教とキリスト教の関係を再考する)』。
WEAは、日本福音同盟(JEA)を含む世界各国の福音同盟やキリスト教団体が加盟する、世界143カ国6億人の福音派キリスト教徒を代表する組織。一方、NUはイスラム教徒が世界で最も多いインドネシア最大の穏健派イスラム教組織で、約9千万人のイスラム教徒を代表する。
宗教的過激派に対抗し、より安全で平和な世界を構築したいという共通の願いに根ざして対話を進めてきた両者はこれまで、信仰においては相反するものがあったとしても、キリスト教徒とイスラム教徒が、誠実かつ敬意を持って関わり合うための新しい方向性を示すことを目指してきた。
WEAのトーマス・シルマッハー総主事は、両者が平和的に共存していく上で最も基礎となるのは、国家においてまた社会において、すべての人の宗教選択の権利が尊重されることだとし、「私たちは互いに改宗する権利のために協力しているのです」と話す。
7月に米首都ワシントンで開催された出版記念会であいさつを述べたシルマッハー氏は、キリスト教もイスラム教も、2つの宗教間、あるいは同じ宗教内の異なるグループ間における神学的な意見の相違が、紛争や戦争にまで発展した経験を持つことに言及。しかしその一方で、キリスト教徒とイスラム教徒が平和的に共存し、時には互いの関心事について協力し合っている社会も数多く存在することを語った。
神学者であるシルマッハー氏は、宗教間の対話と協力は、それぞれの宗教が主張する絶対的真理と矛盾しないことを強調。「他の宗教団体の信仰を共有することなく、宗教の自由、社会的調和、宗教間協力を主張することは可能です」と語った。
「相対主義者、つまり絶対的な真理に対する確固たる深い信念を持たない人々は、自分が何を信じているのか、もはや確信が持てないため、意味のある対話を行うことができません。それに対して、自分が何を信じているかを理解しているグループの間では、明確に一致する部分を見極め、その部分で協力し合うことで、重要なコラボレーションが可能になります」
シルマッハー氏はそう述べ、「逆に言えば、宗教団体や無宗教者が真理に関する主張を放棄したからといって、自由や調和が自動的に生まれるわけではないのです」と付け加えた。
『神は弁護を必要としない』は、WEAの上級神学顧問であり、人道的イスラム教への関与に関する特使を務めるトーマス・K・ジョンソン氏と、リブフォーオール財団会長兼最高責任者(CEO)で、NUの青年団「アンソール青年運動」の国連・米国・欧州担当使節であるC・ホランド・テイラー氏の共編著として出版されている。PDF版は無料で、WEAの公式サイトなどでダウンロードできる。