名古屋出入国在留管理局で収容中のウィシュマ・サンダマリさんが死亡した問題で、出入国在留管理庁が最終報告書を公表したことを受け、日本キリスト教協議会(NCC)は19日、「ウィシュマさんを死に至らしめた重大な問題が見落とされている」とし、抗議する声明を発表。日本キリスト教婦人矯風会も24日、菅義偉首相と上川陽子法相、佐々木聖子・出入国在留管理庁長官、佐野豪俊・名古屋入管局長に、監視映像の全データを開示し、再発防止の徹底を図るよう求める要望書を提出した。
NCCは第1に、入管法52条に基づく被収容者の無期限収容が、自由権規約9条1項で保障されている「身体の自由」を奪う恣意的拘禁に相当するという本質的な問題について、最終報告書でまったく問い直されていないことを指摘した。
第2に、ウィシュマさんが死亡した背景には、仮放免の司法審査を受ける権利が名古屋入管による専断的な対応によって剥奪されていた事実があると指摘。自由権規約9条4項に違反すると主張した。
第3に、医療による救済を求めたウィシュマさんに対し、「一度、仮放免を不許可にして立場を理解させ、強く帰国を説得する必要あり」(最終報告書58ページ)とした入管職員の判断に言及。「収容という措置を、彼女をして帰国を選択させるための、まるで拷問的手段のように選択していることを意味していると言うほかなく、人間としての感性を著しく喪失した事態」と厳しく批判した。
第4に、ウィシュマさんが警察に出頭した背景にはDV被害があったにもかかわらず、報告書においてさえ、入管のDV措置要領に基づく取り扱いを怠っていると断じた。
その上で、ウィシュマさんの死は「彼女本人のいのちの尊厳を甚だしく傷つけ、人権を踏みにじった事態であり、それは日本社会ばかりでなく、世界に日本の入管体制がいかに人権感覚を喪失し、国際人権条約の基準を逸脱しているかを白日の下にさらすことになりました」と指摘。国際法規を「誠実に遵守する」ことをうたった憲法98条2項に出入国在留管理庁が立ち返り、被収容者に対し、人道的な取り扱いと司法審査を受ける機会を明確に保障するよう強く求めた。
監視映像の全データ開示し、再発防止の徹底を 矯風会
日本キリスト教婦人矯風会は、最終報告書に記載された入管職員の対応について「命の危険のある人に対し虐待ともいうべき対応」と強く非難。「ウィシュマさんに対する人命軽視および人間としての尊厳を軽視する姿勢が随所に記載されています」と抗議した。
さらに、2018年に着の身着のままで交番に助けを求め、元交際相手からのDV被害を告発していたウィシュマさんへの対応について、「入管は初動において元交際相手からDV被害を受けていたことを重視し、女性相談所での保護を優先としたDV被害者としての支援を優先すべきでした」と指摘。「ところが入管施設の担当職員はDV防止法および基本方針、法務省入国管理局が発出しているDV事案に対する措置要領の存在や内容さえ認識しておらず、ウィシュマさんはDV被害者であることの認知もされていませんでした」と批判した。
その上で、「問題の所在は最終報告書が指摘する入管施設の職員の意識や情報の共有、医療体制の在り方にとどまらず、日本における在留資格を持たない人々への不透明な裁量による処遇や長期の収容等、これまで国連の人権機関から再三にわたり改善を求める勧告を受けてきた入管行政の在り方にあります」と指摘。「真相究明に向けウィシュマさんのご遺族および代理人、国会議員にビデオの全データを開示し、再発防止の徹底を図るよう強く求めるとともに、基本的人権である『身体の自由』を奪う日本の長期収容と送還の方針を改め、在留資格を持たない人々の命と尊厳が守られるよう現行法の抜本的な見直しを求めます」とした。