英最大のカトリック聖堂であるウェストミンスター大聖堂で結婚式を挙げ、その数週間後に行われたインタビューでは、旧約聖書の詩編を引用したボリス・ジョンソン首相。英国の政治界トップはどのような信仰を持っているのだろうか。最近公開された記事では、キリスト教を「素晴らしい倫理体系」と称賛する一方で、自分自身は「非常にダメなクリスチャン」だと語っている。
ジョンソン氏の半生を追った英タイムズ紙の長文の記事(英語)で、記事を執筆したトム・マクタグ記者は、信仰に関する点も取り上げている。ジョンソン氏のある友人は、彼が「多くの神々が存在し、明確なルールがない、キリスト教以前の道徳体系」を信じているのではないかと疑っていたが、マクタグ氏が尋ねるとジョンソン氏はこう答えたという。
「キリスト教は優れた倫理体系ですが、私は自分自身を非常にダメなクリスチャンだと思っています。他の宗教を侮辱するわけではありませんが、キリスト教は私にとって大いに合点がいくものです」
マクタグ氏はまた、ジョンソン氏の「過小評価を誘う能力が、政治で通常見られるルールから彼を守っているように見える」と指摘した。マクタグ氏は、オックスフォード大学でジョンソン氏と親交のあった米国の世論調査専門家、フランク・ランツ氏の言葉を引用して次のように述べている。
「ボリスには魔法のようなものがあり、それが、彼が首相になってから直面してきた政治的難題の幾つかから彼を逃げ延びさせてきました。彼は典型的な政治家ではないので、人々は彼に対してより忍耐強く、より寛容になるのです」
英国で6月に開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、英テレビ局ITVのロバート・ペストン記者が、ジョンソン氏に現在はカトリックの教えを実践しているのかを尋ねた。ジョンソン氏は5月、保守党の元広報担当であったキャリー・シモンズさんとカトリックの形式の結婚式を挙げており注目が集まっていた。しかしジョンソン氏は当初、「このような深い問題については議論しません。特にあなたとは」と強く拒否していた。だが、労働党のキア・スターマー党首が「私は神を信じない」と発言したことをペストン氏が引き合いに出すと、ジョンソン氏はすぐに詩編14編1節を引用。「神を知らぬ者は心に言う。『神などない』と」と語った。
英タイムズ紙の別の記事(英語)によると、ジョンソン氏は、母親が信仰していたカトリックの洗礼を受けており、ウェストミンスター大聖堂の正式な教区民だという。たが、イートン校時代には英国国教会で堅信礼を受け、その後、英国国教会の信徒として2度の結婚と離婚を経験している。
コロナ禍の5月、シモンズさんとの自身3度目となる結婚式は、ウェストミンスター大聖堂で極秘裏に少人数で行われた。シモンズさんとは2019年に婚約しており、昨年4月には男児も誕生していた。この男児はすでに、2人の結婚式を執り行った神父から幼児洗礼を受けているという。
こうしたことから、ジョンソン氏は「英国初のカトリック首相」として認知されることになったが、新たな問題も起こった。英国では、1829年に制定されたローマ・カトリック信徒救済法により、カトリックの首相が主教の任命を含め英国国教会の人事について、エリザベス女王に助言することが禁止されているという。そのため6月には、ジョンソン氏が英国国教会の新しい主教の名前をエリザベス女王に告げることができなくなり、深刻な問題となった。
英テレグラフ紙によると、ジョンソン氏が行えば首相を追放される可能性もあると警告されたことから、ロバート・バックランド大法官が代わりにエリザベス女王に告げることになったという。このルールは、ユダヤ教やイスラム教には適応されずカトリックのみで、首相周辺の関係者は「信じられないほど時代錯誤だ」と話している。
一方、ジョンソン氏のキリスト教信仰とカトリックへの改宗について、ある保守党幹部が、ジョンソン氏は「確固たる宗教観を持っていない」と語っていたこともあった。
ジョンソン氏の曽祖父であるアリ・ケマル氏は、トルコ人イスラム教徒のジャーナリスト・政治家で、トルコのケマル・アタチュルク初代大統領を支持する暴徒に惨殺された人物。ケマル氏は英国をよく知る人物で、第一次世界大戦末期に英国がコンスタンティノープルを4年間占領した際には、英国に協力した。ジョンソン氏は英BBC(英語)の取材に、ケマル氏が少年時代にコーランをすべて暗記し、学生時代には聖典知識賞を受賞したことなどを語っている。
ジョンソン氏はこのほか、英国内の欽定訳聖書刊行400年記念行事を推進する「キング・ジェームズ・バイブル・トラスト」の聖書朗読プロジェクトに参加した際には、イザヤ書11章を朗読。欽定訳聖書は「英文学の中で最も美しく、最も影響力のある作品」などと語っていた。