東京神学大学は15日、より安全かつ慎重な資産運用を行うため、資産運用規程を見直すとともに、これまで資産運用に当たっていた基金部会に代わり、専門識者を加えた資産運用管理委員会を新設すると発表した。
同大の資産運用に関しては、昨年3月に退職した元教授の関川泰寛氏(日本基督教団大森めぐみ教会牧師)らが、債券に関する損失を会計書類に明記していなかったことが法令違反に当たるとし、文科相に申し出を行ったほか、日本基督教団の約550教会に宛て説明資料を送付していた。
資料には、関川氏によるA4判8ページの文書のほか、同大に関する朝日新聞(5月14日付)や週刊朝日(同18日付)の報道、調査報道誌「FACTA」の昨年12月号の記事に関する専門家の解説文、文科相への申出書の要旨が含まれていた。
関川氏は文書で、同大がホームページに掲載した「事実に反する誤った報道への抗議」と「偏向記事掲載への抗議」について言及。「これらの大学の弁明文・抗議文は問題を含むものであり、残念ながらその通りに受け止めることはできない」としている。
また、退職後も同大の再生と刷新のために同じ志を持つ全国の牧師や教会員、大学内部で改革の志を持つ人々と祈りつつ歩んでいるとし、理解と賛同を得ることを願って資料を送付したと経緯を説明。一連の混乱をめぐって関川氏に関するさまざまな憶測が飛び交っているとし、それらを事実無根の中傷だと否定した。
公認会計士から意見を聞いたという関川氏は、同大が新たに購入したドイツ銀行の仕組債について、「元本保証はなく、ハイリスク、ハイリターンの金融商品であり、30年後の償還満期の際に、一定の条件が満たされれば、はじめて6億円が償還される」「1ドル=85円のラインを超えると、元本の5億1千万円も保証されない」とし、「実態としては、『デリバティブ商品』に該当するものであることは明らか」と主張している。
また、同大の債権買い換えはいわゆる損切りだとし、「9千万円の損失が、東神大の会計に生じたことは間違いのないことであり、差額であって損失ではないという説明は、どう見ても諸教会の会計担当者を納得させられるものとは言えない」と訴えている。
一方、同大の芳賀力学長は15日に発表した「東京神学大学資産管理についてのご説明」で、「2017年11月28日に売却したSMBC日興証券発行の債券は、円ドル相場で元本毀損リスクが生じる債券ではなく、100%円償還のもの」と説明。同大は、SMBC日興証券発行の額面計6億円(取得価額計6億円)の債券を、当時の時価5億1千万円で売却。同時にドイツ銀行発行の額面計6億円の債券を、売却額と同額の5億1千万円で購入した。償還時には額面通りの額が戻ることを見込んでおり、その際には9千万円の売却益が発生するという。また、この買い換えは損切りではなく、より金利の良い債権だったため実施したと説明した。
その上で、所有債券を取得価額より安く売却したため、9千万円の売却損が生じ、この売却損が2017年度「事業活動収支計算書」では第3号基本金引当特定資産処分差額として記載されていると説明した。一方、同大が20年度に行った第3号基本金の取り崩しは、寄付者の同意と理事会の決議に基づいたものであり、処分差額の9千万円を補填するものではなく、キャンパス整備計画に用いることを目的としたものだったとした。
SMBC日興証券発行の債券に関しては、「一部デリバティブ要素を内包した債券(仕組債)」だとしつつも、今回の買い換えは、デリバティブ取引そのものではないと指摘。日本公認会計士協会による学校法人委員会研究報告(第16号)の「計算書類の注記事項の記載に関するQ&A」の「デリバティブ取引の会計処理」に従って、債券の売買差額を「資産処分差額」として計上したという。
同項目には、「『デリバティブ取引の解約に伴う損失(又は利益)』は、事業活動収支計算書の特別収支に該当するとされているため、大科目『その他の特別支出』に区分し、小科目『デリバティブ解約損』等とする」とある。しかし、これに続いて例外として「貸借対照表に計上されている現物の金融商品と組み合わされたデリバティブ取引に係る損失で、当該金融商品に係る売却又は処分差額と区分することが困難な場合を除く」と記されている。
芳賀氏は、SMBC日興証券発行の債券の売却は、デリバティブ取引そのものに係る損失と明確に区分することができないものであり、「当該金融商品に係る売却又は処分差額と区分することが困難」な事例に属するとし、「資産処分差額」として計上した根拠とした。また、同大が現在保有しているドイツ銀行債権も仕組債だが、貸借対照表の注記に有価証券として記載しており、同大の公認会計士は、すべての記載内容の正しさを保証する「無限定適正意見」の監査報告書を出しているとした。