東京神学大学(東京都三鷹市)が、元本割れリスクのある外国債券運用で9千万円の損失を出しながら会計書類に明記せず、私立学校法に違反していたとして、同大元教授の関川泰寛氏(日本基督教団大森めぐみ教会牧師)らが13日、行政手続法に基づく処分や行政指導を求める申出書を文科相に提出した。さらに、同大に対する調査と改善指導を求める要望書も、関川氏を含めた牧師や信徒ら計32人の連名で提出された。
申出書は、同大が私立学校法により作成が義務付けられている会計書類において、定められた事項を正しく記載せず、「法令に違反している」と指摘。学校法人として「その責めを負うべきだ」としている。その上で、1)私学助成金の減額、2)会計検査の実施、3)違反した同大役員の解職勧告、4)違反停止・運営改善などの命令、5)業務・財産の現状報告要求と立ち入り検査の実施、6)同大理事による忠実義務の履行確認――の6項目について処分・行政指導を求めている。
元本割れリスクのあるデリバティブ(金融派生商品)取引は、法令などにより会計書類に明記することが求められている。しかし、同大の2017年度の会計書類には、基金の処分差額として9千万円の金額のみ記載されているだけで、デリバティブ取引による損失であることは記されていなかったという。
18年3月の同大理事会で配布された経理課作成資料「売買のリスク・注意点」(17年11月6日付)によると、同大はSMBC日興証券のコーラブル債と米ドルハイパーリバースデュアル債の各3億円、計6億円の債券を保有していたが、前者を2億7千万円、後者を2億4千万円で売却し売却損計9千万円が発生した。これらの債券は「仕組債」と呼ばれる外国債券。日本証券業協会のウェブサイトによると、仕組債とは一般的な債券にはない特別な「仕組み」を持つ債券で、スワップやオプションなどのデリバティブを利用するもの。元本割れの可能性があり、国債や地方債に比べリクスが高いとされる。
関川氏は本紙の取材に、20年初頭に税理士に会計書類の確認を依頼し、デリバティブ取引の不記載に気付いたと説明。しかし、同大の別の教授による学生に対するハラスメント問題に絡み、同年3月に退職したため、理事会に直接問題を提起する機会はなかったという。
関川氏によると、デリバティブ取引や9千万円の損失が生じたことはそれまで、教授会や献金者に対して説明されることはなかった。同年12月の調査報道誌「FACTA」による報道を受けて初めて、理事会でこの問題に関する釈明があったが、大学側は依然として問題はないという姿勢だったとされる。そのため、大学内部からの自発的な改善の見込みが期待できないと判断した関川氏は、公認会計士ら専門家にも協力してもらい、今回の申し出を行ったという。
同大財務理事で日本基督教団福音主義教会連合の元議長である長山信夫氏(同教団安藤記念教会牧師)は、17年度の決算報告に関する文書で、「2017年度より始まった新長期財政計画はほぼ目標を達成していただいた」「キャンパス整備計画が発表され、5年間で3億円の募金を諸教会に平行してお願いしている」「伝道者養成のための積極的計画に多くの方々の賛同が寄せられ、さらにいくつかの教会また兄姉から特別のささげものがなされ、寄付金収入は予算を大きく上回ることとなった」などと報告しているが、デリバティブ取引や9千万円の損失については一切言及していない。
今回提出された要望書によると、同大は19年12月、キャンパス整備の資金が諸要因により不足しているとして、同大に献金をしてきた諸教会・個人に対し、基金取り崩しの承認を求める文書を送付した。また20年から21年にかけても、同大の財政困難が伝えられ、さらなる献金依頼が届いているという。だが、これらの文書は9千万円の損失には一切言及していない。そのため要望書は、「東京神学大学理事会の決定によって、しかも元本割れのリスクの説明もないまま仕組債が購入され、すでに多額の損失が出たのであれば、その説明と責任の所在を明らかにすべき」と訴えている。
関川氏は同大の財政について、「通常の予算の約半分を教会からの献金によって賄っている。4億5千万くらいの会計規模で、そのうち1~2億は献金」と説明。「諸教会は苦しい中で献金をささげている。その中で9千万の損失を出したのに諸教会に言わず、キャンパス整備が必要だとし、基金の取り崩しをしたいと言い出した。献金で成り立っているのだから、損失が出たら誠実に教会に言わないといけない」と話している。