劣悪な労働環境などが社会問題化している外国人技能実習生を扱った映画「コンプリシティ/優しい共犯」が、第45回日本カトリック映画賞の受賞作品に決まった。主催するSIGNIS JAPAN(カトリックメディア協議会)が3月27日、公式サイトで発表した。
「コンプリシティ/優しい共犯」は、外国人技能実習生として来日した中国人青年チェン・リャン(ルー・ユーライ)と、チェンが住み込みで働くことになった蕎麦屋の主人・井上弘(藤竜也)との心のつながりを描いた感動作。病気の母と年老いた祖母を祖国に残し、借金を背負って来日したチェン。しかし、理不尽な労働現場に耐えきれず失踪し不法滞在者となってしまう。他人になりすまし、井上の蕎麦屋で働き始めることになる。不法滞在者としての不安と言葉の壁を抱えるチェン。一方、息子との関係がうまくいかず、心に孤独を抱える井上。2人はまるで親子のような関係を築いていくが――。
2013年に短編映画「Empty House」で監督デビューを果たした近浦啓監督にとって、本作は初の長編映画。18年に完成し、第43回トロント国際映画祭でプレミア上映されたのを皮切りに、第23回釜山国際映画祭、第69回ベルリン国際映画祭など、国際的な映画祭に次々と正式出品した。日本では第19回東京フィルメックスで上映され観客賞を受賞。昨年1月に日本の劇場で公開され、今年6月2日からは動画配信サイトなどで配信が始まる予定だ。
近浦監督は受賞の知らせを聞いたとき、アウシュビッツ強制収容所で身代わりの死を遂げたマキシミリアノ・コルベ神父のことが頭に思い浮かんだと話す。約20年前に遠藤周作の著作でその存在を知ったとき、「ただのきれいな話」として消化することはできず、自分には到底できない生き方を貫いたコルベ神父に対し、ある種の「憧れ」を抱いたという。そのような「憧れ」が色濃く投影されているのが本作だとし、本紙に対し次のコメントを寄せた。
「藤竜也演じる蕎麦職人の行為によって、社会の縁(へり)に立つどうしようもなく『弱い』主人公に強烈な一筋の光が射(さ)したのではないか、あるいは、そうあってほしいと願いながら脚本を書いたことを思い出す。こうして日本カトリック映画賞というありがたい賞を頂くことになり、僕のある種の『憧れ』という感情を、もしかしたら共有できたのかもと思うと、これほどうれしいことはない」
日本カトリック映画賞は、前々年の12月から前年の11月までに公開された日本映画の中で、カトリックの精神に合致する普遍的なテーマを描いた優秀な作品に贈られる。1976年に創設され、これまでにアニメ版「火垂(ほた)るの墓」(88年)や、「博士の愛した数式」(2005年)、「おくりびと」(08年)などが受賞している。昨年は、子どもの貧困対策の一つとして注目が集まる「子ども食堂」をテーマにした映画「こどもしょくどう」が選ばれた。