全米最大のキリスト教大学であるリバティー大学(バージニア州)は25日、大学のホームページ(英語)で、理事会がジェリー・ファルウェル・ジュニア学長の辞任を受け入れる決議をしたと発表した。ファルウェル氏をめぐっては、インターネット上に投稿した写真が問題視され「炎上」状態となり、さらに妻の不倫をめぐる報道も重なり、進退が注目されていた。
今月3日、ファルウェル氏が自身のインスタグラムに投稿し、その後削除したとされる写真のスクリーンショットがツイッター上で大量に拡散された。写真は、ファルウェル氏と女性が写ったもので、2人が服をまくりあげて腹部を露出し、ズボンのファスナーを開いて、ファルウェル氏が女性の腰に手を回しているものだった。米政治メディア「ポリティコ」(英語)によると、この写真を最初に発見してツイッターに投稿したのは、米ヒューストン・クロニクル紙の宗教担当記者であるロバート・ドウネン氏。ドウネン氏の投稿(英語)は4700回以上リツイートされ(27日時点)、多数の批判的なコメントが寄せられ、いわゆる「炎上」状態になった。
米保守系メディア「ワシントン・イグザミナー」(英語)は5日、リバティー大学は、カウンターカルチャーに関する服装を禁じ、キリスト者として品のある服装の着用を求めるドレスコード(英語)を学生に定めていることで有名だとし、拡散された写真のファルウェル氏の服装は、ドレスコードに反する可能性があると伝えた。
ファルウェル氏はこの日、地元のラジオ放送(英語)で写真について釈明。女性は妻ベッキーさんのアシスタントで、妊娠のためズボンのファスナーを全部上げることができず、さらにファルウェル氏自身も長い間着ていなかったジーンズのファスナーを全部上げることができなかったため、女性と同じような格好をしてふざけたのだと説明した。
同大関係者の元牧師で連邦下院議員(共和党)のマーク・ウォーカー氏は7日、ツイッター(英語)で、ファルウェル氏の振る舞いは「恐ろしい」と批判し、辞任すべきだという考えを示した。ウォーカー氏のツイートを受け、米大手テレビ局のCNN(英語)も写真が問題視されていることを報じた。
同大は同日、「重要なお知らせ」(英語)を発表。ファルウェル氏に学長職の無期限休職を要請し、ファルウェル氏が同意したことを明らかにした。ジェリー・プレボ理事長はこの日に発表した声明(英語)で、ファルウェル氏の功績をたたえつつも、「このような成功と、規模が大きく成長している機関を導くことで生じる重荷には、相当なプレッシャーが伴います」と指摘。無期限休職がファルウェル氏にとっても良い選択であろうと述べ、ファルウェル氏と同大のために祈るよう求めた。
同大の理事会は10日、プレボ氏を学長代行に任命。プレボ氏は就任に際し、ファルウェル氏の無期限休職に触れ、「学年度の始業に際し、共通の目的とキリストにある信仰の中でわれわれが一つになれるよう、どうか私たちとファルウェル一家のために祈ってください」と述べた。同大はその後、プレボ氏が学長代行を務める期間は副理事長のアレン・マクファーランド氏が臨時理事長となることも発表した。
21日には臨時理事会を開催し、ファルウェル氏の無期限休職の条件とプレボ氏の雇用条件を協議。発表(英語)によると、ファルウェル氏は休職期間中も有給である一方、学長としての行動、学長権限の行使、大学運営に関して職員と意思疎通を図ることが禁止された。ただし相談や引き継ぎのため、プレボ氏がファルウェル氏を呼び出すことは認められ、理事会はプレボ氏に対し、キリスト教指導者としてのこれまでの経験を同大の霊的刷新のために生かしてほしいと求め、支持を表明した。
この時点では、同大はファルウェル氏の学長としてのポジションについて最終的な決定は保留にしており、「理事会が主の御心を求めつつ、判断に必要な追加的な情報を探す中で、祈りと忍耐を要請します」としていた。また大学として、ファルウェル氏に関するさまざまなうわさや主張に関しては、現時点では公開的なコメントをしないことを決定。その代わり、ファルウェル氏に関わる諸問題の調査を行うとし、「注意深く審議するための過程となるように、しかし審議の結果が神を敬うものとなり、この世界最大のキリスト教大学の益となるように熟慮します」と述べていた。
この一連の騒動の中、ワシントン・イグザミナーは23日、連載コラム「ワシントンの秘密」(英語)で、同大が詳細に言及しなかったファルウェル氏に関する「さまざまな噂や主張」が、他のメディアで公開されようとしている妻ベッキーさんの不倫事件に関するものであることを伝えた。ファルウェル氏は「ワシントンの秘密」の電話取材に応じ、同大創設者の父・故ジェリー・ファルウェル牧師の死去に伴い、大学を引き継ぐようになった2007年以降、多額の負債を抱えた同大の経営正常化のため長時間働く必要があったと説明。それが原因でベッキーさんが不倫に走ったとし、それを知ったときはストレスにより、体重が36キロも落ちるほどだったと述べた。
ベッキーさんの不倫相手は、ジャンカルロ・グランダ氏。夫妻は2012年、宿泊先のホテルでプール監視員をしていた当時20歳のグランダ氏と出会った。夫妻はグランダ氏のビジネスの夢を知り、経済援助を申し出、それがきっかけとなり公私にわたる付き合いを始めたという。不倫の事実がファルウェル氏に知れた後、ファルウェル氏に対して感謝を示していたグランダ氏は態度を一転させ、多額の金銭を要求するようになり、要求に応じなければ不倫の事実を公表し、夫妻と大学を辱めると脅すようになったという。
不倫についてファルウェル氏は、「ベッキーと私は互いに赦(ゆる)し合いました」と言い、「なぜなら彼女が軽率だったのは明らかですが、それに比べれば小さい点ではありながらも、私にももっとうまくやれた面があったのに気付いたからでした」と述べた。「ワシントンの秘密」の記事最後にはファルウェル氏の声明が掲載されており、不倫という困難に直面しつつも、キリストにある信仰を強くされ、主と人々の助けによってこの状況を乗り越えられるだろうと述べ、祈りと支援を呼び掛けていた。
グランダ氏は、「ワシントンの秘密」のメール取材に対し金銭恐喝を否定し、証拠があると主張。翌24日のロイター通信の記事(英語)で、ベッキーさんとの不貞行為をファルウェル氏が黙認していたとし、ファルウェル氏と真っ向から食い違う主張を展開した。なお、このロイター通信の記事は、2年前から度々同大に関する否定的な報道をツイッターで紹介してきた元バズフィード記者のアラム・ロンストン氏が執筆したものだった。
翌25日、ファルウェル氏は同大に辞表を提出。理事会がそれを受け入れ、辞任が決まった。辞任後、ウォール・ストリート・ジャーナル(英語)による電話取材でファルウェル氏は、自身は間違ったことを何一つしていないと繰り返し強調。生涯を通して同大の発展に尽力し、多大な貢献をしてきたことを述べ、「もし腹を出した写真がインターネットに載ったせいで私を辞めさせるというなら、この学校に私は属したいとは思いません」と語った。
ファルウェル氏は昨年、自身に同大の福音主義的な倫理基準が適用されるかについての議論において、自身が牧師ではなく弁護士であり、商業不動産開発者であることを強調。また学長として、この12年間で学生数を3倍に増やし、多数の新規建築を行ってきたことを挙げ、同大の霊性を担保するのは教員、学生、そして大学の宗教主任であるデイビット・ナーサル氏だとし、自身の仕事は同大を学問的・財政的に発展させ、そして部活動において成功させることだと述べていた。
同大の霊的発展担当副学長でもあるナーサル氏は25日、ツイッター(英語)で、他の同大関係者と共に深い悲しみにあると表明。同大が直面している事態によって傷ついた関係者が祈り、カウンセリングを受けられるよう、大学のチャペルを24時間開放しているとした上で、「善であり、公正であり、誠実である神様に仕えることこそ、希望のいかりです」と伝えた。