韓国で今、信教の自由が阻害される事態がにわかに発生している。
北朝鮮がケソン工業団地内の南北連絡事務所を爆破した理由は、韓国側の脱北者支援団体による北政権批判のビラの散布としているが、実はこの騒動によって、北朝鮮への真摯(しんし)な文書伝道に取り組む「殉教者の声-韓国(VOM-K)」が、韓国政府および地方当局により厳しい圧力にさらされている。
同団体には6月の初旬から警察の圧力があったが、6月25日、年に数回しかこない絶好の気象条件を利用して、VOM-Kは聖書を運ぶ4つの気球を飛ばした。例年は1回の発出で80個程度の気球を飛ばすのだが、今年は厳しい監視があったにもかかわらず4つの気球を飛ばすことができたのは、主の憐れみと言う他ない。
気球で冊子などを撒く団体の中で、彼らは唯一政治には一切関わることなく、純粋に聖書を配布する団体なのだが、韓国の地方当局の首長は、同団体を警察の刑事捜査の対象として、本部とCEOのエリック・フォーリー氏宅を家宅捜索した。
今では彼らの行動は、24時間の警察の監視下に置かれている。今までの15年間の彼らの活動は、完全に合法とされ、政府や当局とも協力関係があったにもかかわらず、ここにきて圧力を受けるのは、韓国政府の北への配慮だろう。
「なぜ今だけやめないのですか?」これはVOM-Kが、いつも尋ねられる質問だ。実はこの働きは、牧師でもあるフォーリー氏が18年前に妻と共に中国に行った際、そこで出会った北朝鮮の地下教会信者と交わした約束により始まった。迫害に耐える彼らの信仰に感動した氏は「我々にできることはありませんか?」と尋ねたが、彼らの答えは「聖書が必要です。それに短波ラジオの福音放送も」と驚くほどシンプルだったという。
2、3年の準備期間を経て、フォーリー氏は約束通り、最適な条件の天候の日(通常は毎年夏ごとに10〜15回ある)には、過去15年間にわたって毎晩聖書を飛ばし続けた。金正日が死去した日も、哨戒艦天安が撃沈された日も、延坪島が砲撃された日にも、南北の緊張が最大限に高まったその日にも決して途絶えることはなかった。その結果、北朝鮮内に60万冊以上の聖書を配布し、それまで聖書を見たことのある北朝鮮人はほぼ皆無だったが、今では8%もの北朝鮮人が聖書を見たことがあるという状況に引き上げられた。
批判は常にあり、2018年と今年は特に多く、「しばらくの間、聖書の発出を止めることができませんか?」と何度も問われたという。彼の答えは「だれも働くことのできない夜が来る」(ヨハネ9:4)だった。
フォーリー氏は言う。「年月が流れるに従って、韓国の信者と北朝鮮の地下教会信者とがパートナーを組むことがますます困難になっています。敵(血肉の敵ではない)の目標は、韓国の信者を北の信者から切り離し、我々が一体ではなく、別々であると信じ込ませることなのです。
人々は、韓国の教会こそが、北朝鮮の地下教会を支えていると思っているでしょう。しかし、実際はそうではありません。福音が韓半島にやってきて以来、今日の地下教会に至るまで、北朝鮮の信者は、南北全韓半島の教会の基盤であり柱であり続けてきたのです。そうであるなら、敵が我々を分断しようとしている今、闘うのは北朝鮮の教会ではなく、我々韓国の教会ではないでしょうか。
今日では、韓国の教会は豊かな富と自由が与えられ、政府が保証する自由の中でかえって危険にさらされています。それがそもそも韓国の教会を、北朝鮮の地下教会から引き離してしまった敵の策略でした。
北朝鮮の地下教会には、ほんの少しの自由も富もありません。彼らの持てるものはキリストだけです。しかし、そのキリストだけで十分であることを彼らはよく知っています。キリストこそは北朝鮮の地下教会の光です。その光は、北朝鮮の地下教会から韓国の教会へと常に輝いているのです。
今日、すべての韓民族キリスト者に対する神の言葉はこれです。
『まだしばらくの間、光はあなたがたの間にあります。やみがあなたがたを襲うことのないように、あなたがたは、光がある間に歩きなさい』(ヨハ12:35)
我々のミニストリーが始まったとき、殉教者は既に36人を数えていました。私と妻だけは免れようなどと思ったこともありません」
彼らの聖書配布活動と短波放送の働きは、抵抗にあいつつも、今日も続く。
彼らの働きのために祈ろう。また、地上最後の分断国家と呼ばれる南北韓民族国家が福音によって一つとなるよう、祈っていただきたい。
■ 韓国の宗教人口
プロテスタント 35・3%
カトリック 9・2%
仏教 23・7%
儒教 2・7%
イスラム 0・3%