中国政府が、将来のために人工知能(AI)などを用いた「迫害システム」を構築しており、キリスト教徒に対する迫害が横行する他国にもそれが売られる可能性がある――。キリスト教迫害監視団体の代表が最近、そうした懸念を明らかにした。
迫害監視団体「米国オープン・ドアーズ」のデイビッド・カリー会長兼最高責任者(CEO)は15日、米首都ワシントンで中国出身の牧師らと共に記者会見を開いた。カリー氏はそこで、宗教的少数派に対する国際的な弾圧に、中国政府がキリスト教徒やその他の宗教者を監視するのに用いている技術がどのような影響を与え得るのかについて語り、切迫した危機感をあらわにした。
国際的なキリスト教団体であるオープン・ドアーズは現在、米国を含む60カ国で活動しており、この日の会見では、毎年公表しているキリスト教徒に対する迫害のひどい上位50カ国をまとめた「ワールド・ウォッチ・リスト」の最新版を発表した(関連記事:世界の迫害国リスト発表、攻撃受けた教会・施設は9千以上 北朝鮮が19年連続ワースト1位)。会見には、米国の政権代表者や国会議員、人権活動家らが参加した。
カリー氏は会見で、人権に対する世界で「最も大きな脅威」は中国政府だと警告した。
今年のワールド・ウォッチ・リストにおける中国の順位は、昨年の27位から4つ順位を上げて23位。他の迫害国ほどに順位は高くないものの、カリー氏は中国を警戒する理由として、中国政府が国民を支配するために監視システムを構築していることを挙げた。
「これは単に中国国内のキリスト教徒への迫害にとどまらないことを示唆しています。これはすべての国に起こり得ることであり、信教の自由一般に関わってくることなのです。ピースをつなぎ合わせて見ましょう。これはパズルのようなものです。断片的な事実は見えているのですが、つないで見るまでははっきりと分からないのです。これがはっきり見えるとゾっとします」
カリー氏によると、パズルのピースとは、中国政府の「国民を行動に基づいて採点する社会評価システム」と「街頭と教会内部に設置された監視カメラのネットワーク」だという。
「このようなシステムを想像してみてください。国民は予め2千点を持っていて、政府が同意しない行動をするたびに減点されていくのです。(その評価により)最終的には移動の自由が制限され、自分の子どもは良い学校に入れなくなる。自分の子どもを教会学校に連れて行ったせいで減点される。中国の多くのキリスト教徒がこのような経験をしているのです」
この会見の数週間前に中国を訪問したというカリー氏はさらに続けた。
「私は街頭に設置された監視カメラを自分の目で見ました。街頭だけではありません。教会にも監視カメラがあるのです。会衆は見られているのです。教会に入ってきたら顔をスキャンし、自分を追跡します。そして人工知能によって推測した点数を算出するのです。このようなシステムでキリスト教徒の行動を追跡しているのです」
カリー氏によると、中国では教会に頻繁に通えば通うほど「過激である」と認識されるという。
「中国政府は、家の教会(政府非公認の教会)を大規模に閉鎖しています。(昨年は)5596の教会が閉鎖されました。ほとんどの場合、監視カメラを設置することを拒否し、会衆が監視されることを拒否したことが閉鎖の理由です」
中国で育ち、現在はリンカーン・キリスト教大学(米イリノイ州)の中国研究所長を務めるジャン・ズー牧師は会見で、中国政府による家の教会への迫害が1979年以降最悪の状況にあると語った。
「中国政府は現在、家の教会に対して厳しい制限と政策を敷いています。隣人に相互監視するようにさせ、学校教師と大学教授に対して裏切るように圧力をかけ、背教を宣言する文書に署名させようとしています。これを学生に対しても行っています」
ズー氏によると、多くの教会が、教会の建物の外部と内部に設置していた十字架を撤去させられ、礼拝堂内部には十字架の代わりに習近平国家主席の写真を飾るよう命令されたという。また家の教会の中には、会衆からの献金を違法な資金集めとして追求されるケースもある。さらに複数の都市では、市内にあるすべての家の教会が閉鎖された例もあるという。
「現在、中国政府はキリスト教を公共生活から消し去ろうとしています。至る所にカメラがあり、教会に通い主日礼拝に参加するキリスト教徒たちを監視しています。クリスチャンホームの場合は教会に行かないように脅され、行けば罰せられるか、親戚に不都合なことが起きます」
会見に出席した中国出身のあるキリスト教徒は、家族が通っていた家の教会が閉鎖されたため、米国に逃れてきたと語った。
カリー氏は、「(データが)指し示す先には、中国政府が自らを神とする政府を復活させつつあるという事実が見えてきます」と強調。「この脅威にさらされているのは、無神論者も、ユダヤ教徒も、イスラム教徒も全員です」と語った。
「中国政府は人工知能を用いて監視をしています。これはまったく異なる次元の監視です。これらすべてから推測されることとして、2020年には――これが強調する理由なのですが――中国政府はこの2つのシステムを統合するでしょう。彼らは、社会評価システム、監視(カメラによるネットワーク)、そして人工知能を統合し、人民を虐げる道具を手に入れるのです」
カリー氏は、これらの兆候は「単なる恐れ」や「根拠のないもの」ではないと述べた。
「これは非常に重大な形ですでに起きていることなのです。キリスト教徒にではなく、ウイグル人イスラム教徒にです」。カリー氏はそう述べ、大量のウイグル人イスラム教徒が中国西部の「再教育センター」に収容されていることに触れた。
「イスラム教徒たちは強制的に棄教させられ、彼らの文化を諦めさせられています。世界がこのシステムに飛びつくのは時間の問題です。なぜなら、中国政府はこれの販売をイランに持ち掛けており、エジプトや他の国にも売ろうとしているからです」
ワールド・ウォッチ・リストにおける中国の順位が低すぎるのではないかとの質問に対し、カリー氏は、同リストは各国における私生活、社会生活、暴力、その他の指標によって評価されていることを説明し、次のように語った。
「中国は23位ですが、私たちは中国の事例を強調します。なぜなら、この計画の故に強調すべきだと私は考えるからです。中国政府は、将来のために迫害のシステムを構築しています。そして私たちはそれについて今、警鐘を鳴らさなければならないのです。そうしなければ、手遅れになります。そうしなければ、中国政府はイランや他国にこれを売り、宗教的少数派の弾圧に利用されるでしょう。だから、本当にこの問題は強調されなければならないのです。もう彼らを止めるにはほとんど遅すぎるのかもしれません」
カリー氏によると、オープン・ドアーズは米政府などに対し、人工知能と顔認識技術の使用を世界的に管理するための法律を提案し、これを支援するよう要請しているという。