いち早くCOVID−19の押さえ込みに成功した中国であるが、他の先進諸国がウイルスの封じ込めに手を焼いているのに乗じて、自国の覇権的野心の伸長を謀っている。その矛先となったのが香港だ。
香港では昨年来、中国本土への逃亡犯引き渡し条例を巡って、学生らを中心に100万人規模のデモが相次ぎ、事実上、民衆の力で条例撤廃を勝ち取った。
しかしコロナウイルスのために延長されていた中国全国人民代表大会(全人代)が、5月の下旬に開催されると、香港民主主義がより直接的に脅かされる「国家安全維持法」の導入方針が決定され、6月30日遅くに全人代常務委員会でこれが可決され、時を移さず日付をまたいで7月1日0時をもって施行となった。
驚いたことに、法案の条文は施行の1時間前にようやくその内容が公開されたにすぎない。これは、香港民主派らの逃亡を防ぎ、電撃的に一網打尽で逮捕するための狡猾な策略に他ならない。法案が施行されて直ちに370人以上が逮捕された。一部の民主派リーダーたちは、かろうじて難を逃れ身を隠したようだ。
皮肉なことに、法案が施行された7月1日は、23年前に香港が英国より返還された日だった。
強硬な法案の施行を受けて、米ポンペイオ国務長官は「香港は、もはや中国本土と変わらない」と述べた。米国は対抗措置として、香港の交易上の優遇措置を撤回するとし、香港への軍事装備品の輸出を停止した。かつての宗主国英国は、香港市民に英国市民権を付与すると表明し、オーストラリアは香港市民の受け入れを検討し始めた。
中国の強硬なやり方に対して、自由や人権を尊重する国際世論の激しい非難が一斉に上がったが、それらのリスクを天秤にかけたとしても、習近平は、香港の実効支配を確固たるものにすることに分があると見たのだろう。
中国を唯一抑止し得る超大国の米国であるが、同国は今、ウイルスの混乱に加えて、人種差別問題の国内事情に手を焼いている。それに加え、現在4隻の米空母内ではコロナウイルスの感染が認められ、ミリタリーパワーの即応性は損なわれている。11月には大統領選を控えるトランプ氏にとって、ウイルスによって疲弊した米国経済の立て直しは、選挙戦を左右する最優先事項だ。トランプ氏が経済回復に主眼を置くなら、中国との貿易摩擦は1日も早く解決したいだろう。
状況が明らかに米国に不利なこのタイミングを、習近平は決して見逃さなかったのだ。事実を既成化さえしてしまえば、あとは国際世論に何を言われようと、右から左に受け流すだけだ。これは南沙諸島を実効支配したのと同じ中国共産党のやり口だ。
香港の自由が脅かされる兆候は、既に4月下旬からあった。世界がウイルスの対応に追われ、他に手が回らない隙に、香港警察は15人もの有力な香港民主派リーダーを逮捕した。法が施行される前は、香港市民はデモによって抗議の声を上げていたが、状況は悪化の一途をたどっており、先行きは不透明だ。
彼ら香港市民の頼りは、我々自由と民主主義を愛する諸国および国際社会の良心だ。国際情勢の岐路に立つ我々が、キリスト者として何ができるか主に求め、香港の自由と福音化のために祈ろう。
■ 香港の宗教人口
儒教 59・6%
プロテスタント 7・0%
カトリック 4・5%
イスラム 1・2%
仏教 0・4%
ヒンズー 0・5%