米福音派の神学者ら28人が15日、共同声明「福音と人種差別に関する福音派の声明」(英語)を発表した。声明は、ジョージ・フロイドさんの死など最近の事件には具体的に言及していないが、人種差別は「聖書に反する」「福音的信条に反する」と批判。その一方で、福音派の歴史においても人種差別が存在したことを認め、人種差別に反対する具体的な行動も呼び掛けている。声明の主筆者は、米福音主義神学会のクレイグ・キーナー会長(アズベリー神学校教授)で、キーナー氏ら28人の神学者が最初の署名者となって賛同者を募り、16日時点で150人以上が署名している。
声明は冒頭、「今日の状況においては、声明(の発表)以上のものが必要だが、少なくとも声明(の発表)が必要なのは確か」とし、「福音主義神学界に属する者としてわれわれは、人種差別は聖書に反しており、福音的信条にも反すると非難する」と述べている。一方で「福音派の歴史は、ウィリアム・ウィルバーフォースのような奴隷制廃止の先駆者や正義を支持する多くの声が存在したという肯定的な面があるが、残念ながら周囲の不正な文化的価値に同化した者たちもいた」とし、福音派内においても人種差別が存在したことを認めた。その上で「福音主義的信仰の基礎は、イエス・キリストの良き知らせを頂点とする御言葉にある」とし、さまざまな聖書箇所に基づき、人種差別に関連して以下の5項目を挙げた。
1. 福音において、すべての人は同じ条件の下で神の御前に来て(ローマ1:16、3:22~24、10:12~13、ガラテヤ3:28、黙示録5:9、7:9)、キリストにあって一つとなるべきである(ローマ12:4~5、1コリント12:12~13、エフェソ4:4、コロサイ3:15)。
2. キリストにおいてユダヤ人と異邦人の和解が実現し(エフェソ2:16)、神ご自身がかつて作られた壁が取り払われた中、神はキリストにあってわれわれに、人間の罪深さによって生じたあらゆる壁を乗り越えるよう召しておられる。
3. 聖書は人を肌の色で区別しておらず、使徒言行録8章の最も一般的な理解によれば、最初の異邦人改宗者は黒人であり、アフリカ出身であったと考えられる。
4. イエスはその模範と教えの両方を通して、他の信者に仕え、他の信者を愛し、彼らのために自分たちの命を捨て(ヨハネ13:14~17、34~35、1ヨハネ3:16~18)、すべての隣人を自分自身と同じように愛する(レビ19:18、マルコ12:31、ローマ13:8~10、ガラテヤ5:14)よう、われわれを召しておられる。
5. このことは、自分が何かを語るよりも、まず先に他者の話を聞き(エフェソ4:29、ヤコブ1:19)、苦しむ者たちと共に嘆き(ローマ12:15)、彼らを代表して正義の行動に加わる(イザヤ1:17、ルカ11:42、ヤコブ1:27)ことを、われわれに求めている。
声明の起草者たちは、「われわれの使命は、われわれの生活や学びの場、教会や社会において、福音に従って耳を傾け、悲しみ、語り、行動すること」だとしており、声明を発表した理由について次のように述べている。
「われわれの社会における最近の出来事により悲しみを覚える中、われわれは気付かされた。たとえ十分でないとしても、声明を発表すべきであると。われわれは、福音は人種差別に反対している、それ故、福音を信じる人々もまた人種差別に反対しなければならない、と宣言する必要を迫られている」
声明の主筆者であるキーナー氏は、「最近の出来事は多くの議論を必要とするものだが、この声明は最近の出来事について詳しく言及しているものではない」と述べる一方、「人々の中にある『神のかたち』を大切にする人は誰であれ、アフリカ系米国人に対する米国文化が持つ歴史的、継続的暴力を非難すべき」と明言。最近の出来事は、何世代にもわたって存在してきた米国における根深い人種差別の問題を表面化させたものだとし、声明はそのような根本的な問題に向けられたものだと説明した。
また、少数派は常に多数派よりも脆弱(ぜいじゃく)で、多数派を意識する必要があると指摘。そのため、米国社会において多数派の立場にある福音派、特に白人の福音派は、少数派の声を聞き、学び、適切な変化を熟考し実行しなければならないと語った。
その上で「人種的和解と正義は福音の問題であり、それ故、福音派が取り組むべき中心的な事柄と密接な関係にある」とし、そのことを示すことが声明の目的だと説明。「人種や民族に基づく偏見や虐待、無視は、福音主義的な教えや説教において、取り上げても取り上げなくてもよいテーマではなく、キリストにある一致は道徳的要求を伴った根源的な原則」と述べ、福音が要求することを拒否しながら「福音派」と自称することはできないと強調した。