新型コロナウイルスの感染者が国内で最も多発し、「緊急事態宣言」が出されている北海道。道の発表によると、4日時点で確認されている感染者は累計82人で、このうち3人が死亡。退院者も出ていることから、現在の患者数は57人だが、厚生労働省の対策班メンバーの一人である北海道大学の西浦博教授は、潜在的な感染者が道内全域で940人に上るとする試算を発表している。
こうした状況の中、北海道の教会は、緊急事態宣言発令後の日曜日(3月1日)をどのように対応したのか。道央・道南・道北・道東の各地域の牧師や司祭ら4人に、それぞれの対応や現地の状況を聞いた。
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札幌市(道央)
札幌市の日本福音キリスト教会連合(JECA)屯田キリスト教会では、全員がマスクを着用した上で間隔を取って座り、さらに時間を短縮して礼拝を行った。また礼拝後も30分をめどに速やかに解散するようにし、本人だけでなく家族にせきや発熱がある場合も礼拝を欠席してもらう対応を取った。
こうした対応は、JECA北海道地区運営委員会の新型コロナウイルスに関する文書に沿ったもの。同委は、対応はあくまで各教会が主体的に決めるものとしつつも、判断の参考になるポイントを文書で説明している。同教会の込堂一博協力牧師によると、委員の一人は、牧師になる前に道内の幾つかの市町の保健所で所長を務めた経験のある公衆衛生に詳しい医師でもある。
文書は、教会の昼食会や飲食を伴う集会は、厚生労働省が避けるように勧告している項目に該当するとして、当面の中止を提案。一方、礼拝は「対面で会話するような環境」には該当しないとし、当面中止の必要はないと思われる、としている。ただし、本人や家族にせきや発熱などの症状がある場合は礼拝を欠席してもらうようにし、不安を持ちながら礼拝に出席することや、後ろめたさを感じながら礼拝を欠席するようなことがないよう、牧会的な配慮が必要としている。
また、会堂の空気がよどむことがないよう、換気扇や空気清浄機を利用したり、礼拝中に1、2回窓を開けたりするなどして、換気をすることを奨励。その他、手洗いや手指消毒を徹底し、手洗い後はペーパータオルで手を拭けるようにすることが望ましいとしている。こうした対応が求められる期間は、今後の状況次第だというが、当面3月中は継続することを勧めている。
込堂牧師によると、道内のJECA加盟教会の多くは、この文書に沿った対応を取ったという。一方、超教派の会議や教会の諸集会はほとんどが中止となり、今後2、3週間は礼拝を中止することを決めた教会もあるという。
込堂牧師は北海道福音放送協議会の理事も務めており、「今だからこそラジオ、テレビ、ネット、テレホンメッセージを用いての信仰の分かち合い、福音宣教が必要との声を聞いています」と言う。ウイルスの速やかな感染収束を祈りつつも、「主が今回の危機を福音宣教と信仰の純化の機会に変えてくださることを期待します」と語った。
函館市・七飯町(道南)
函館市の日本基督教団函館千歳教会は、食事の提供や礼拝以外の集会を中止するなどしたが、日曜日の礼拝はほぼ通常通り行った。隣接する七飯(ななえ)町に住む同教会の藤崎裕之副牧師は、「人の移動があまりなく、町そのものがひっそりしています」と話す。藤崎牧師によると、日本基督教団北海道教区としては議長名で各教会に文書「新型コロナウイルス感染症の対応について」を配布し注意を喚起。3月末に予定していた青少年春の集いは中止するなどの対応をしている。
道南地域ではマスクの購入も難しく、ドラッグストアでマスクをめぐったトラブルも聞くという。また、小児科医である藤崎牧師の妻の話によると、地元の保健所は検査態勢が整っていないため、よほど重症でないかぎりウイルスの検査を引き受けてくれず、検査を行う場合も、検体を札幌まで送る必要があり、初診から検査結果が出るまで3日ほどかかる状況だという。
旭川市・深川市(道北・道央)
旭川市の日本ルーテル教団旭川聖パウロ・ルーテル教会では、1日と8日の日曜礼拝、また14日までのすべての集会、夕礼拝などを休止することを決めた。同教会の西川真人牧師がこれを決めたのは2月29日朝。前日28日までは、身体的接触のある平和のあいさつや聖餐式、昼食会などは行わないものの、日曜礼拝は継続する方針だった。しかし、28日夜に緊急事態宣言が発令され、外出を控えるよう要請があったことから、一晩祈って決めたという。
「教会が礼拝を休止してもよいのかという『信仰的』ためらいはありました。また信徒の中からも、霊的な励ましを礼拝や説教を通して受けたいという声もありました」。しかし、無症状の感染者が無自覚に感染を広げてしまう危険性や、教会員に基礎疾患のある高齢者が多いことなどを考慮し、休止を決めた。
決めた後は、すぐにすべての信徒に連絡し、各家庭で礼拝をするための共通の祈りや説教原稿などをメールやFAXで送った。西川牧師が会堂で一人で礼拝を行い、インターネットで動画配信することも考えたが、視聴できない高齢の教会員も多いことから見送ったという。教会の玄関には礼拝休止の張り紙をし、休止を知らずに来てしまった来訪者が持ち帰れるよう、玄関前にも説教原稿を用意した。
隣町の深川市にある深川エマヌエル・ルーテル教会でも、同様の対応を取った。西川牧師がチャプレンを務める深川めぐみ幼稚園は、北海道知事からの要請を受けて臨時休園。しかしその後、首相の要請により学校などが休校になったことで、共働き家庭への保育提供の必要性が出てきたことから、9日からは通常に準じた形で保育を再開するという。「こうした判断は、完全に各幼稚園に委ねられており、行政からの指示は一切ないのが現状です。近隣の他の幼稚園などは判断に苦慮しています」と西川牧師は話す。
この他3月は、世界祈祷日の合同礼拝や東日本大震災関連の集会・映画会などが予定されていたが、いずれも中止となった。
「町を見ても、人通り・車通りは明らかに通常より少なく、臨時休業している店舗なども散見されます。北海道ではここ1~2週間の対応次第では爆発的感染拡大(アウトブレイク)する恐れがあるとも一部報道があるので、社会全体がかなり慎重になってきている状況です」
釧路市・根室市(道東)
釧路市の釧路ハリストス正教会は、昼食会や当番が必要になる行事はすべて中止した上で、1日の聖体礼儀は執行する対応を取った。しかし予め「少しでも不安がある場合は参祷しなくてよい」と全信徒に連絡し、信徒の半数以上が70歳を超える高齢者であったこともあり、この日の出席者はなかったという。同教会の内田圭一司祭は「事実上はカトリックと同様に『公開の祈祷は中止』」という対応だと説明する。内田司祭によると、釧路市や根室市の牧師や司祭らによる「釧根牧師会」も、6日に予定していた世界祈祷日の集会を7月に延期することを決めている。