現存するキリスト教の教会堂としては首都圏最古の「旧手賀教会堂」(千葉県柏市手賀)の補修工事を行うため、柏市がふるさと納税を活用したクラウドファンディング(CF)型募金を始めた。明治期に、民家を移築・改造して造られた全国でも珍しいかやぶき屋根の教会堂で、必要となる工事費約330万円のうち100万円を目標としている。
旧手賀教会堂は、約600メートル離れたところに新しい聖堂を持つ手賀ハリストス正教会がかつて使用していた。同教会は、ロシア正教会の司祭、聖ニコライが1873(明治6)年に日本で宣教を始めてから6年後に設立され、83(明治16)年に民家を用いて現在の旧手賀教会堂を建てた。
千葉県内では当時、法典教会(船橋市)、大森教会(印西市)、船穂教会(同)、布佐教会(我孫子市)と、教会が次々と建てられた時期で、同教会もその一つだった。しかし、ロシア正教会の伝道によって開拓された教会であっため、その後に勃発した日露戦争により周囲からは「敵国の宗教」として見られるようになる。さらに第1次世界大戦やロシア革命などで、正教会の聖職者が激減。第2次世界大戦前には担当司祭もいなくなってしまった。100人以上に洗礼を授けた教会だったが、冷戦が激化した1970年代には信者は7人に。礼拝も行われなくなり、葬儀などのためだけに使用されるようになったという。
しかしこの時期に教会堂を移築する話が持ち上がったことで、沼南町(後に柏市に編入)の当時の町長が、教会堂を町の文化財として再評価。教会側と所有地を交換することで、町が教会堂ごと取得した。当時の教会堂はかなり老朽化していたが、修復工事を行い、2012年には千葉県の指定文化財に指定された。
外見は、かやぶき屋根の伝統的な民家そのものだが、十字で区切られた半円アーチ状の窓が教会を思わせる。内部は畳張りで、現役時代には、明治期の女流画家で日本人最初のイコン画家として知られる山下りん(1857~1939)が描いたイコンも掲げられていた。現在はレプリカが展示されているが、現物は新聖堂で今も現役で用いられている。
一方、沼南町が補修工事を行ったのは40年以上も前のこと。そのため、木部が腐朽し、かやぶき屋根も劣化、東日本大震災などの影響で柱の傾斜も目立つようになってしまった。今回の補修工事では、建物自体の修理と構造補強に加え、上下水道やトイレ、受け付けの整備なども同時に行う。
基本設計はすでに昨年終えており、工事は来年着工、2021年竣工の予定。現在は、原則土日祝日のみの公開だが、工事が終われば平日も見学者の受け入れを行う計画だ。なお、来年度は工事のため見学ができなくなる。
寄付の受け付けは、ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」で行っている。募集期間は7月24日から10月23日まで。詳しくは同サイトを。