映画「パウロ 愛と赦(ゆる)しの物語」公開初日の3日、東京のヒューマントラストシネマ渋谷で、音楽プロデューサーの松任谷正隆さんによるトークイベントが開催された。「僕はクリスチャンではない」としつつも、妻で歌手の松任谷由実さんと教会で結婚式を挙げたときの話や、家では毎日祈っていることなどを明かした。映画については、一部のシーンは「あり得ないだろう」と悪態をつきながら観てしまったというが、他のシーンでは「不覚にも涙を流してしまった。観終わったときには感動さえしてしまった」という。
由実さんがミッション系の立教女学院高校出身であることや、結婚式を教会で挙げたことなど、キリスト教との接点の多い正隆さん。しかし最初の出会いは、それよりもずいぶん前の小学生の頃だった。英語の家庭教師がクリスチャンで、近くの教会に連れていかれたのだという。教会に行っても「あんまり面白くなかった」と会場の笑いを誘いつつ、「何となく、クリスマスいいな、と思いながら過ごしていた」と振り返った。
教会で結婚式を挙げる前には、4回ほど結婚講座を受けたという。ここでも「授業(結婚講座)はつらかったですけど」と笑わせながらも、それまでの下地があったことから、教会で結婚式を挙げること自体は違和感がなかったと話した。
家でも毎日、祈りをする。「おかしいでしょう。クリスチャンでもないのに。食事の前にもお祈りをします」。トーク相手の波多康牧師(ビサイドチャーチ東京)が「何でですか」と聞くと、「どこかにそういう気持ちがあるのだと思います」としみじみ。ただ、由実さんのキリスト教に対する理解は「大分いい加減」だとも。「大分いい加減だけど、一応(祈りを)するんですよ。『天にまします』って」と付け加えた。
正隆さんは、SFであれ、どのジャンルであれ、映画であれば何らかのリアリティーを求めるという。映画「パウロ」では、キリスト教特有の「奇跡」についてはリアリティーを感じられなかったというが、その一方で非常にリアリティーを感じたシーンがあったと話す。約2千年前のローマで迫害に遭い、死の危機を前にしてクリスチャンたちが祈る場面がある。そこで彼らが祈っていたのが、正隆さん自身も祈るという「主の祈り」だったのだ。映画の舞台当時に祈られていた祈りが、今も祈られている。またその教えが、現代でも語り継がれ、それを信じる多くの人々がいる。「それがあまりに重いリアリティー」だったという。
「自分の中にも、宗教は持っていないと言いながら、どこか神様を信じている自分がいる。そういうものの必要性、何か信じないとやっていけないところがありますよね」
映画は公開前に由実さんと一緒に視聴し、トークイベント前日にも「復習」のためと、2回観たという正隆さん。2回でも足りないとし、何回でも観た方がよい映画だと勧めた。しかし、波多牧師が「いろいろな人に口コミで面白いと言ってくだされば」などとさらに勧めると、「あんまり押しつけない方がいい」とツッコミも。「映画でパウロが『信じろと誰が言った?』と言うじゃないですか」と諭す場面もあった。
最後の一言も映画のPRはそこそこに、「もうじきクリスマス。敬虔な気持ちを持ってクリスマスを迎えたいと思います」と語った。