前回の月桃通信は強い危機感を持って書きました。それは名護方式という、あの名護市長選挙での敗北が悪夢のように付きまとっていたからです。もし名護方式で知事選に敗北したらもう後はないと思いつめ、最悪な事態までも考える中でただ神の助けを祈っていました。そしてすごい奇跡が起きました。安倍政権の沖縄潰(つぶ)しにウチナー(沖縄)は勝ったのです。その喜びは例えようもなく大きく、私たちは抱き合い涙を流して、カチャーシー(沖縄の手踊り)を踊って喜びました。
みんな時間も体力もいとわず、全力投入で草の根の市民による選挙運動を頑張りました。本土からの仲間たちも大勢駆け付けて応援してくださいました。ひとつ思いで戦った私たちみんなの顔は輝いていました。私もナイチャー(内地の人)でありながら、ウチナーンチュ(沖縄の人)の夫よりもウチナーンチュになってしまった自分が、皆さんと共にいることを喜び、ウチナーンチュの一人として生かされている幸いをかみしめ、今日まで導いてくださった神に感謝しました。
安倍政権のこの選挙にかける介入はすさまじいものでした。菅義偉さん3回、小泉進次郎さん3回、竹下亘さんは1カ月、他に小池百合子さん、石破茂さん、岸田文雄さんなど政府の要人、また公明党員などが沖縄に潜入、へばりついて佐喜真(さきま)淳さんの当選のために政府挙げて沖縄潰しにかかり、まるで安倍政権と玉城デニーさんとの対決の様相となりました。
佐喜真さんは政府の言いなり、辺野古のへの字も口にしてはならないという方針に従い、辺野古にはまったく触れず、対立ではなく対話をキャッチフレーズにして県民の暮しが最優先だとし、自分が知事になれば何でもできるとうそぶき、携帯電話の料金の40パーセントカットを実現するとの甘い言葉を並べ立て自信満々でした。しかし、佐喜真さんの親分は安倍さんであって、安倍さんのうそをそのままに甘い水を飲ませようとしたのでした。だんだんと県民にも背後にある安倍政権のひどいやり口が見えてきたのだと思います。ネット上ではデニーさんへの誹謗中傷はひどく、人権侵害で訴えたい内容でしたが、それにも屈せず、デニー陣営からの相手への誹謗中傷はありませんでした。
佐喜真さん優勢の世論調査の情報が駆け巡る中、危機感を持った幹部たちは、故翁長雄志前知事の夫人、樹子さんに何度もお願いして、とうとう9月22日の決起大会に樹子さんが一大決心をなさって壇上に立ってくださったのです。樹子さんは、強権的に辺野古新基地建設を進める政府を痛烈に批判し「県民の心に1ミリも寄り添おうとしない相手に譲れない」「ウチナーンチュの心の中をすべてさらけ出してでも必ず勝利を勝ち取ろう」「残り1週間です。簡単には勝てない。それでも簡単には負けない」と、雨の中、涙を流し訴えました。「翁長は雨男だったから今日のこの雨は翁長がここにいてくれることだ」と語られ、集った8千人の私たちは樹子さんと共に涙を流し、翁長さんの遺志を受け継ぎ、辺野古に新基地は造らせないという強い意志を再確認し、デニーさんと一体となって新たな選挙戦へと勇気百倍再出発できたのでした。
「ヌチカジリ(命の限り)ですよ」。天から翁長さんが、樹子さんと一体となって叫んでいる声が本当に聞こえたように思いました。この大会で潮目が変り、デニーさんへの風が吹き始めたように思います。
デニーさんは多様性を重んじ「誰一人として切り捨てない社会を」「新時代沖縄はみんなで創りましょう」と呼び掛け、翁長さんの遺志を受け継ぎ、辺野古に新基地は絶対に造らせないと、ぶれない固く強い決意を表明されました。父親が米兵という出自もあって、戦後の沖縄の歴史を背負った方、苦しみ悲しみを体験され豊かな人間性を持った方、何よりも私たち庶民の代表としての親近感があります。市民目線で一人一人の話を聴き、向き合い、大切にしてくださる方です。今までにないタイプの知事だと思います。選挙戦でのデニーさんを見ていると、どんどん強くなり成長されていく姿が見て取れます。まさに私たちがデニーさんを支え成長させる存在なのです。これからは決して分断されないよう苦労なさるデニーさんを真剣に支えていかなくてはなりません。
投票日の前日9月29日には台風24号が直撃し、また就任日(10月4日)は台風25号襲来と、2つの台風に見舞われました。農作物をはじめ大変な被害が出ています。緑美しい沖縄は茶色に変ってしまいました。「なぜ2つの台風なの? 穏やかな中にあってほしかったのに!」 私にはこの2つの台風がデニーさんの前途の厳しさ、その苦難を象徴しているように思えてなりません。私たち一人一人にデニー新知事を支えていく決意が求められています。
今回の選挙で最も気に掛かることは若者たちの動向です。佐喜真陣営で熱心に活動する若者たちのグループがありました。彼らは何を思い、何を考えて、佐喜真さんを支持しているのでしょうか。背後にある安倍政権の実体が見えているのでしょうか。若者たちの話を聞いてみたいと強く思いました。次の時代の沖縄をつくるのは彼らです。彼らの考えを知り、理解し、絆を結び、本当のことを、真実を彼らに語り伝えていくのが私たちの役割ではないでしょうか。平和は人から始るのですから。今回の選挙に勝利しても、ウチナーの内奥に平和とは逆の思想、考えが若者たちを捉えてしまっていたとしたら、ウチナーのチムグクル(心)は失われ、危機を迎えることでしょう。大切なのは今できることを、若者と共に語り学び合うことを、具体的に積み重ねていかなくてはいけないということです。
翁長さんは言葉の力をとても大切にされ、いつも言葉を考えておられたそうです。訴えたのは沖縄の歴史、苦悩、誇りでした。翁長さんの発する言葉には命があり、血が通っていました。そして安倍さんのうその言葉の空しさが一層際立って分かりました。言葉と品格において、いつも勝っていました。言葉は生きて人の心にとどまり、次世代を教育し支える力を持っています。
聖書の言葉
初めに言(ことば)があった。・・・言の内に命があった。命は人間を照らす光であった。(ヨハネ1:1、4)
故翁長雄志前知事の言葉
●ウチナーンチュ、ウシェーティナイビランドー
(沖縄の人の心をないがしろにしてはいけませんよ)●沖縄以外の都道府県で日米両政府という権力と戦ってきたところはありますか。ないでしょう。こんなにも長く戦ってきた沖縄県に対してお前ら勝てるのか?という視点で見るから政治は何も変わらない。堕落の政治だ。
●県民の気持ちには魂の飢餓感があり、それに理解がなければ個別の問題は難しいと話した。(菅官房長官と)
●政府は沖縄県民を日本国民とは見ていない。
●あぜんとした。裁判所は政府の追認機関であることが明らかになった。(辺野古違法確認訴訟)
●将来は沖縄にアジアの国連みたいなものがあり、中国、北朝鮮、フィリピン、ベトナム、みんな来ていただき経済活動の拠点化を目指す。
●われわれがどう話しても大きな力が押しつぶして、通り過ぎていく。国家の品格を信じられなくなるくらい寂しいことはない。
●ヌチカジリ、チバラナーヤーサイ
(命の限り頑張りましょう)故翁長前知事の次男・雄治さん(那覇市議)の言葉
父は生前、沖縄は試練の連続だと。しかし一度も、ウチナーンチュとしての誇りを捨てることなく闘い続けてきた。ウチナーンチュが心を一つにして闘うときには、お前が想像するよりもはるかに大きな力になると、何度も何度も言われてきました。
今回の選挙では、かなりの公明党の人たちがデニーさん支持に回りました。このことは、組織力で人の自由意志を縛ってはならないことを勇気ある沖縄の公明党の方々が教えてくださいました。良心に従おうとする勇気ある一人の行動が他の党員を勇気付けて組織を打ち破ってくれたのです。このような一人の存在があるかないかが重要です。決して私たちは弱い一人ではないのです。
沖縄のことをわがこととして考え、祈り、支援してくださるお一人お一人に心より感謝申し上げます。
8万票余りの大差での勝利は安倍政権に大打撃となり、長期独裁政治にも陰りが見え始めています。憲法改正を成しとげようとするこの政権をしっかり見張り、絶対に憲法改正を許さず、将来に禍根を残さないよう共に闘ってまいりましょう。ご支援本当にありがとうございました。
星野富弘さんの詩
ちいさいから、踏まれるのさ。
弱いから、折れないのさ。
たおれても、その時もしひまだったら、
しばらく空をながめ、
また起きあがるのさ。
◇
石原艶子(いしはら・つやこ)
1942年生まれ。16歳で無教会の先生との出会いによりキリスト者となる。全寮制のキリスト信仰を土台とした愛農学園農業高校に奉職する夫を助けて24年間共に励む。1990年沖縄西表島に移住して、人間再生の場、コミュニティー西表友和村をつくり、山村留学生、心の疲れた人たちと共に暮らす。2010年後継の長男夫妻に委ね、夫の故郷、沖縄本島に移住して平和の活動に励む。無教会那覇聖書研究会に所属。