「不義によって真理の働きを妨げる人間のあらゆる不信心と不義に対して、神は天から怒りを現されます」(ローマ1:18)
工事再開――。9月30日、玉城デニー新知事誕生を共に喜び祝い踊ったあの日から、2つの台風襲来が前途の苦難を予告していたとはいえ、こんなにも早く辺野古工事再開の日が来るとは・・・。あまりにもひどい国の仕打ちに言葉を失いました。知事選に政府挙げてかけていた安倍官邸は敗北するや否や、那覇市長選も投げ出して、沖縄の民意を一顧だにせず、法律も無視して沖縄潰(つぶ)しにかかりました。
国は行政不服審査法を悪用して、沖縄県の埋め立て承認「撤回」の効力の「執行停止」の申し立てを、沖縄防衛局から国土交通大臣に出させ、10月30日、石井啓一大臣は「執行停止」の申し立てを認めました。3年前の承認取り消しの時も執行停止だけをやって工事を進めながら審査請求の決定は棚上げしてきました。今回も民意を握りつぶして工事を進め、既成事実を積み上げて諦めさせようとしています。
デニー知事は〝自作自演の茶番〟だと非難、抗議して話し合いをしようとしていますが、双方の目的が真逆なわけですから話し合いは平行線だと思います。故翁長雄志前知事が命懸けで「撤回」し、デニー知事を大差で誕生させたにもかかわらず、一顧だにされず、国に潰されていく沖縄を思うと、悔しくて悔しくて、抗議の声を上げ、叫べば叫ぶほど悲しみが心の底に沈んでいき、涙があふれてきます。みんな泣いています。
それでも私たちは、デニー知事を支えて新たな決意で立ち上り闘いを始めました。11月3日には大雨の中、千人余りがゲート前に結集して力強い抗議集会を持ちました。11月1日、静かだった大浦湾は再び、撤去されていたフロートを張りめぐらす工事から始りました。カヌー隊の仲間たちは、以前にもま増して勇ましくカヌーを漕ぎ出し、抗議船を出して活動を開始しました。
しかし、海は生きもの、波が高く、防衛局が予定していた通りに作業は進みません。また埋め立て用土砂は海路での搬入と決められていますが、積み出し港である本部町の本部港塩川地区は台風の影響で破損しており、復旧には今年中を要するため、土砂搬出はきないとのことで、本部町は防衛局の申請を拒否しています。こんなところにも台風が味方してくれたのでしょうか。少しの時間の猶予がありそうです。
国は辺野古のことを絶対に新基地とは言わず、普天間の危険性除去のための代替基地だと言って偽っていますが、デニー知事も私たちも辺野古新基地以外の言い方はしません。それが真実だからです。キャンプ・シュワブと埋め立てられた新基地は巨大で強力なまったく新しい機能を持った軍事基地となります。造られる弾薬庫には秘密裏に核も持ち込まれるでしょう。
軍港の機能も備えられたこの巨大基地は、辺野古−高江−伊江島と一体化された基地となり、豊かな沖縄の宝であるやんばるの自然体系を破壊し、北部住民の生活をも破壊していきます。青く澄んだ沖縄の海も基地からの有害物質により汚染され、魚、もずくも安心して食べられなくなります。目に見えない環境汚染は知らないうちに少しずつ住民の健康に影響を与えるでしょう。また宮古、石垣など先島への自衛隊配備は着々と進められ、憲法をないがしろにした武力によって立つ国、戦前回帰が日米安保の名の下に着々と進められているのです。
中国との協調融和、北朝鮮との対話が始まろうとする今、平和に逆行した軍事力強化になぜ日本は突き進むのでしょうか。そのためには沖縄を犠牲にしても構わないとする「琉球処分」が、今もなおなされていることを知ってください。私たちは隠されている事実を正しく知ることから始めなくてはなりません。
米国と日本のもくろみとは何でしょうか。沖縄の地方自治を握りつぶし、法律を変えてまで沖縄を支配する日本とは、本当に私たちの国なのでしょうか。故翁長前知事は「日本を取り戻す」という中に沖縄は入っているのですか、と安倍首相に問い掛けています。巨大な軍需産業による化け物のようなエネルギー、人間の造り出したありとあらゆる物と化学兵器、化学物質、機器、産業、経済、さまざまなシステム、限りない人間の欲望と支配欲が止めようもなく拡大してそれらが今、人間を逆襲しているように私には見えるのです。人間は自らが造り出した物により、格差と戦争を生み、自ら滅びに向っているのでしょうか。
「月も、星も、あなた(神)が配置なさったもの。そのあなたが御心に留めてくださるとは、人間は何ものなのでしょう。人の子は何ものなのでしょう。あなたが顧みてくださるとは」(詩編8:4〜5)
私たちは新基地を造ることをやめて、本来の人間にもどりましょう。やめるためには、本土の人々の民意が高まり、本土の半数以上の人々が安倍政権NO! 憲法改正NO! 沖縄辺野古新基地NO!を表明して沖縄と共に戦ってくださる他にはありません。異常な安倍政権の下で、沖縄の人々だけで日米両政府相手にやめさせることは不可能に近いと思います。どうか沖縄を切り捨ててきた歴史を学び、痛みを共有し、この国、そして世界の平和のために共に闘ってまいりましょう。〝もの言わぬ民は滅びる〟と言います。声を上げる人々でこの国がいっぱいになることを切に願っています。
➀ 過去は泣き続けている――。たいていの日本人がきちんと振り返ってくれないので。過去にきちんと向き合うと、未来にかかる夢が見えてくる。いつまでも過去を軽んじていると、やがて未来から軽んじられる。過去は訴えつづけている。(井上ひさし)
➁ 世界に変化をもたらしたければ、自らがその変化になれ。(マハトマ・ガンジー)
➂ 真の文明は山を荒さず、川を荒さず、村を破らず、人を殺さざるべし。(田中正造)
今、先達の真の言葉に耳を傾け、神を畏れて謙虚になることが求められています。隣国の人々を痛めつけながら、すべてをお金で解決済みとするこの国の政治家たちの発言に、人間の心が見えないことを悲しく思います。
「汝(なんじ)殺すなかれ」(出エジプト20:13)
「平和をつくり出す人たちは、さいわいである、彼らは神の子と呼ばれるであろう」(マタイ:5:9)
これがすべてです。平和は人を愛する足元にあります。この世界が人間らしい真の人間の顔でいっぱいになりますように祈ります。
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石原艶子(いしはら・つやこ)
1942年生まれ。16歳で無教会の先生との出会いによりキリスト者となる。全寮制のキリスト信仰を土台とした愛農学園農業高校に奉職する夫を助けて24年間共に励む。1990年沖縄西表島に移住して、人間再生の場、コミュニティー西表友和村をつくり、山村留学生、心の疲れた人たちと共に暮らす。2010年後継の長男夫妻に委ね、夫の故郷、沖縄本島に移住して平和の活動に励む。無教会那覇聖書研究会に所属。