米国を初心者でも分かるように解説した事典があれば――。そんな願いから生まれたのが『アメリカ文化事典』である。本事典の特徴は、アメリカ学会が発足以来50年の節目を迎えたことを記念して編集されたということである。所属する千人を越える会員の中から執筆者が選ばれ、20章380項目以上に振り分けられた「多岐にわたる米国」の諸断面が生き生きと描かれている。
その中でも特筆すべきは、6章「宗教」の項目である。従来のいわゆる「メインライン教派」の成立や成り立ちに加え、キリスト教以外の諸宗教はもちろんのこと、「ファンダメンタリズム」や「メガチャーチ」という新しい項目が加えられ、「福音派」に関しても80年代以降の流れを踏まえての解説が加えられている。
筆者が担当した「メガチャーチ」では、ペンテコステ諸派(Pentecostals)が初めて公的な事典に加えられたことは、とても喜ばしいことである。特に60年代以降の「カリスマ運動」、90年代以降の「リニューアル」に関してもきちんと定義されたことは、今後、福音派からペンテコステ諸派を歴史的に研究する上での大きな軸を提示できたことになる。
他の項目では、「SNS」や「アメリカンコミックス」などのサブカルチャー、そして11章の「ジェンダー」では、「ヒラリー・クリントン」という項目まである。もちろん「ドナルド・トランプ」という項目も19章「世界とアメリカ」にちゃんと収録されている。
本事典は、大学などで米国に興味を持った学生が、探究の端緒としての基本的な情報と考え方を得られるように製作されている。値段は2万円(税抜き)と少しお高いが、内容は決して劣るものではない。
これから米国を学んでみようとか、今までの疑問に答えが欲しいとか、さまざまなニーズに対する答えが収められているといってもいい。また各章で用いられた参考文献も巻末に掲載されている。これらの本を図書館で探して、そこから本格的な研究に励むというのもいいだろう。
そんな21世紀型の本格的な米国事典である。
『アメリカ文化事典』(アメリカ学会編、丸善出版、2018年1月)
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