2017年は、7月に日本外国特派員協会で1カ月間「AGION OROS ATHOS」、9月から始まったキヤノンギャラリー銀座、名古屋、福岡での「記憶〜祈りのとき」と2度にわたり個展を開かせていただいたが、このたびクリスマス期間である12月13日から28日まで、東京神田にある堀内カラー神田にて、今年最後の展示を開催させていただくことになった。過去3度の個展すべてのプリントをお手伝いいただいた堀内カラーでの展示となる。
テーマはもちろん時期を合わせてアトスの降誕祭、クリスマス。会場は神田御茶ノ水のニコライ堂から徒歩5分なので、ニコライ堂の見学も合わせて、ぜひお立ち寄りいただきたい。
「クリスマスの約束〜アトスの降誕祭」
ある年の元旦、私はアトスを目指していた。ちょうど初日の出を見たのは、ウラノーポリというアトスへ行くために必ず立ち寄らなくてはならない港町へ行くバスの中。(ウラノーポリ=天国への入り口という意)
夏とは打って変わって、ブルーグレーに染まる寂しい街並み、人もまばらで商店もほとんど閉まっている。浜辺に出れば、強い海風が体全体を覆う。時折ポツポツと雨粒が寂しく服を濡らす。
冬の気候は日本に似ていたが、湿気が多い分、体に感じる冷たさが増す気がした。また、天候も不順で雨も多く降り、夏の穏やかなエーゲ海とは想像もできないほど白波が立ち、護岸に打ち寄せ、のみ込まれてしまいそうなほどである。この地方は雪が降ることもあり、アトスの冬は厳しいものとなる。
1月2日、アトスに降り立った。今回は降誕祭の取材でこの地を訪れたのだが、この地はユリウス暦を使用し続け、俗世とは13日のズレが生じている。つまり、1月7日にようやくアトスでは12月25日を迎え、1月6日の夜から7日にかけて降誕祭が執り行われることになる。
1月6日(アトス12月24日)、シモノスペトラ修道院を目指し、ここで降誕祭を迎えることにした。
ダフニ港で知り合いの修道士のおかげでバスに乗り込むことができたのだが、そこで見た光景とは、何とも不思議な光景だった。数人の未成年の子どもが父親に連れられていたのである。修道士とは、「お久しぶりです。ようこそ」と言い、抱き合った。
修道院を訪れると、他の巡礼者たちも大きな荷物を抱え、修道士と抱き合っている姿を見ることができた。その大きな荷物はお土産のようで、修道士たちに渡していた。
祈りの時間になり、聖堂の両翼の聖歌隊の立ち位置には、これまで見たことのない光景が広がった。修道士に混じり、子どもたちも祈祷書を囲み、修道士たちとにこやかに聖歌を口ずさみ始めたのである。
いつもは低音の男性のみの音だが、声変わりしていない子たちの甲高い声色は、聖堂内の隅々まで響き渡るほどであった。すべての参列者が1人も1度も欠けることなく、朝7時過ぎまで聖歌は歌われ続けた。
ギリシャ人の90パーセント以上が正教徒である。生まれてすぐに洗礼を受け、神に近づくべく信仰を若い時から宿している。いわば皆家族も同然なのかもしれない。アトスの修道士と正教の巡礼者たちは、共にこの日を祝うべく、約束をしているのである。
そして、神に最も近いとされる場所で、修道士たちに混じり、共に神の降誕を祝福するということが、彼らにとって何よりのプレゼントなのだと気付かされた。
クリスマスとは、神を感じ、自分が最も居たい場所で、居たい人といる日。神を感じるということは、家族を想うこと。年に1度の、すべての人が神を感じ、家族を想い、人を想う日となる。
ある修道士が私に向かって、「Happy Merry Christmas!」と言って抱きしめてくれた。この地で聞くこの言葉に、重みと親しみと無償の愛を感じた。
次回予告(12月9日配信予定)
聖山アトス巡礼紀行最終回、通算50回目、丸2年を数えます。いったんここで最終回とさせていただき、さらにアトスの取材を進め、深め、今後この場で発表させていただくべく、努力をしたいと思っております。
展示詳細
中西裕人写真展
「クリスマスの約束〜アトスの降誕祭」
HCL(堀内カラー)フォトスペース神田
会期 2017年12月13日〜12月28日
日曜、祝日、第2、第4土曜休館
時間 9:00〜18:00(土曜日17:00まで・最終日16:00まで)
展示作品 11点(未定)
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