アフリカ南部のジンバブエで37年にわたり政権を握ってきたロバート・ムガベ大統領(93)の退陣を求めて起こったクーデターで、与党のジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU−PF)は、21日にもムガベ氏の弾劾決議案を議会に提出する。可決されれば、1週間以内にも退陣に追い込まれるとみられているが、依然予断を許さない情勢が続いており、同国の教会指導者らは事態の平和的な収拾を求めている。
ジンバブエでは15日未明、国軍が国営放送局などを掌握し、ムガベ氏を自宅軟禁にする事実上のクーデターが起こった。ムガベ氏はこの2週間前、軍が支持していた後継候補のエマーソン・ムナンガグワ第1副大統領(75)を解任。軍は、ムガベ氏が妻のグレース・マルフ氏(52)を後任に据えようとしていると判断し、強く反発していた。
翌16日には、チャプレンとしてムガベ氏と親しくしていたカトリック司祭のフィデリス・ムコノリ神父(イエズス会)らが仲介に入り「気品ある退任」を促すも、ムガベ氏は否定。その後、退任合意の報道もあったが、国営テレビを通じて19日に行った演説では、期待に反して続投を表明した。こうした情勢から、ZANU−PFは20日正午を期限に、弾劾決議案を議会に提出する方針を示し、21日には実際の手続きを始めることを明らかにした。
国の危機的な状況を受け、ジンバブエのキリスト教会は直ちに声明を発表するなどし、事態の解決を求めた。国内の主要なキリスト教派のトップらによる「ジンバブエ・キリスト教派首長委員会」(ZHOCD)は、15日夕に発表した声明で「国民が国の現状と今後の展開について動揺し、不安を募らせている」と伝えた。
ZHOCDは、プロテスタント主流派のジンバブエ教会協議会(ZCC)や同福音派のジンバブエ福音同盟(EFZ)、ジンバブエ・カトリック司教協議会などに所属する諸教会のトップらで組織される団体で、現在はジンバブエ聖公会の中央ジンバブエ主教イシュマエル・ムクワンダが議長を務めている。聖公会系メディア「ACNS」(英語)に掲載された声明では、国民に「落胆と恐怖」に立ち向かうよう促す一方、軍に対しては「人間の尊厳と権利の尊重を保証する責任がある」と警告した。
また、「数日前までこの国に存在していた政治体制に戻ることはできません。私たちは新たな状況に置かれています。共通の未来は、対話によってのみ実現されるのです」と指摘。しかし同時に、対立する派閥間に和解がなければ「われわれ全員の運命は尽きる」と警鐘を鳴らした。
その一方で、政権と軍の間の緊張関係は以前から明らかだったとし、次のように述べた。
「私たちは現在の状況を無力さによる危機と見るのではなく、新しい国家の誕生の機会として受け取っています。私たちの神は、混沌の中から万物を創造されました。私たちは現状から新しいことが起こると信じています。しかし、まず問題を適切に定義しなければなりません。問題が何であるかを適切に言い表すことで、国家の行方に関する明確な意味がもたらされるのです」
南アフリカ・カトリック司教協議会の「正義と平和委員会」議長を務めるキンバリー司教アベル・ガブザは、カトリック系メディア「カトリック・ヘラルド」(英語)に対し、ジンバブエでの軍事行動は「想定外だった」と述べ、「非常に混乱している」と語った。また「これは、民主的なプロセスが長期的に崩れたときに支払うことになる代価だ」とも付け加えた。
前ZHOCD議長で、現アフリカ福音同盟(AEA)会長のグッドウィル・シャナ氏は21日、ジンバブエの教会に対し、連帯と平和を訴える声明(英語)を発表。世界福音同盟(WEA)の信教と自由委員会は20日、「平和で民主的な政権移行が行われるように」「軍事的な対立が起こらないように」など、ジンバブエのための緊急の祈り(英語)を呼び掛けた。