コプト正教会の司祭が12日、エジプトの首都カイロで何者かに刺されて殺される事件があった。事件を受け、英国コプト正教会のトップであるアンバ・アンジェロス主教は、事件の背景に犯罪の温床となっている社会の不公平の問題があると非難した。
殺害されたのは、カイロの南約130キロにある都市ベニスエフ出身のサマーン・シェハタ神父。カイロ市内を歩いていたところを突然、襲われた。シェハタ神父は、自身の教区の社会的弱者に対する人道支援を行うため、募金を集めにカイロを訪れていた。この日はカイロに住む家庭を訪問する予定だったが、教会に携帯電話を置き忘れたことに気付き取りに戻ろうとしたところ、その途中で襲われた。犯人の男はナイフを振りかざして追い掛け、複数回にわたって神父を刺したという。
「この事件は、多くの疑問を抱かせます。なぜ(コプト正教会の)司祭は、町を安全に歩けないのでしょうか」。アンジェロス主教は声明(英語)で、エジプト国内で多くのコプト教徒が殺害されていることを指摘。今回の事件では、救急車が到着するまでに1時間余りかかったことや、警察が到着した後も犯行現場が確保されず、現場検証もされなかったとし、コプト教徒に対する不公平な取り扱いを問題視した。
エジプトでは昨年12月以降、教会に対する爆弾テロや銃撃、刺殺事件などが相次ぎ、コプト教徒100人余りが殺された。過激派組織「イスラム国」(IS)がこれらの事件の大部分について犯行声明を出しており、コプト教徒に対する暴力を公然と扇動している。
アンジェロス主教は、声明で次のように訴える。
「この事件とそれ以前のすべての事件による大きな痛みの故に、私たちは出エジプト記3章7節に書かれている主なる神の御言葉に固く立たなければなりません。『わたしは、エジプトにいるわたしの民の苦しみをつぶさに見、追い使う者のゆえに叫ぶ彼らの叫び声を聞き、その痛みを知った』。コプト教徒は、不正や迫害、人命の喪失に何世紀も耐え忍んでおり、仕返しすることなく無条件に繰り返し赦(ゆる)してきました。ですからコプト教徒は、自国の土地で敬意を受け、尊厳を持ちながら生きる資格があります。
このような怒りの中にいるのは、私1人ではないと確信しています。また、宗教の違いや信仰の有無にかかわらず、法を守っているすべての人、この悪質で非人道的な事件を目の当たりにしたすべての人においても、この怒りは共通していると確信しています。しかし、この怒りと悲しみの中にあっても私は祈り続けます。私はシェハタ神父が安らかに眠られることを祈り、ご遺族や神父の教区の人々のために祈ります。また、自らの弱さを痛感し、(政府の)怠慢や不公平のために、日々標的にされているエジプトのキリスト教徒のために祈ります。そして、エジプト社会がより広く開かれるよう祈ります。なぜなら、このような事件が起こり続けることで、この社会はますます信用されなくなり、妥協することになるからです。
この怒りは(犯罪者たちを)赦さないという意味ではなく、説明責任と正義を求める心の叫びです」
英BBC(英語)によると、犯人の男は事件後逃走したが、事件の様子が近くの監視カメラに映っており、すでに逮捕されている。