米国務省は15日、「信教の自由に関する国際報告書」(2016年版、英語)を発表し、その中で中国政府によるキリスト教徒や宗教的少数派に対する迫害を強調した。これを受け、中国側は、米バージニア州シャーロッツビルで最近発生した白人至上主義者らによる暴力事件を引き合いに、米国にも問題があるとし、同報告書の指摘を退ける態度を示した。
同報告書は米国務省が毎年発表しているもので、今年は世界199カ国における宗教的自由の状況に関する最新情報を提示している。
中国に関しては、多数の人権侵害が報告されていると批判。事例の1つとして、牧師の妻が生き埋めにされた事件を取り上げている。事件は16年4月に河南省駐馬店(ちゅうばてん)市で、政府非公認の教会の牧師と妻が、政府の命令による解体から教会を守ろうとしている間に生き埋めにされたというもので、牧師は一命を取り留めたものの、妻のディン・クイメイさんは亡くなった。
しかし、中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道官は、同報告書が発表された翌日の16日、中国は信教の自由を擁護しているとの見方を示した。
ロイター通信(英語)によると、華氏は「いわゆる米国の報告書は、事実を無視し、事の真偽を混同し、中国の宗教的自由の状況を理不尽に批判している」と述べ、米国も「完璧」ではないと付け加えた。
中国国営の新華社通信は、シャーロッツビルで12日に発生した白人至上主義者と反対派間の暴力事件について、論評記事(英語)で、米国は自らの問題を最初に取り扱うべきだと主張している。この事件では、男が運転する車が抗議する群衆に突っ込み1人が死亡。事件を監視していた警察ヘリの墜落により、警察官2人が死亡している。
新華社通信は、「先般の白人至上主義者と反対派の衝突への批判に対し、中国がダブルスタンダードを採用していることが明らかだ、と米国は反発している」と伝え、「暴力事件は人種差別の危険性を露呈したが、それはいまだに分裂状況にある米国社会の深刻な問題である」と主張。また、「(米国は)自らの役割が世界の人権擁護者だと宣言しているが、世界唯一の超大国が尊敬されるロールモデルとなるには、この点で程遠いのが実情だ」と揶揄(やゆ)した。
しかし、中国のキリスト教徒に対する迫害を監視している「チャイナエイド」の代表を務めるボブ・フー氏は17日、クリスチャンポストの取材に対し、中国が2つの問題を対比させるのは「正しくない」と述べた。
「中国政府は、虐待に関して直接的な責任がありますが、米国政府は、人種差別に関して必ずしも責任があるわけではありません。シャーロッツビルでは、人種差別事件が起こりました。政府に属さない白人至上主義者の集団が偏見に基づいて行動したためです。しかし、多くの当局者が彼らの行為を非難しており、その行為が政府と無関係であることを実証しています。一方、中国は、特定の団体の人々を対象として地方や国の政策を実施しており、その政策を適切に執行するために公式の会議を開催することさえあります。このことが示すのは、(中国)政府に人権侵害の直接的責任があるということです」
シャーロッツビルの暴力事件の発端は、クー・クラックス・クラン(KKK)のメンバーなど、白人至上主義者を含む集会「ユナイト・ザ・ライト(右派の団結)」が、解放公園にあるロバート・E・リー像の撤去に抗議するために行われたことだった。集会は、ジェイソン・ケスラー(33)という男性によって主催された。ケスラーは、オルタナ右翼の団体に参加する前はバラク・オバマ前大統領の支持者で、「ウォール街を占拠せよ」にも関わっていた左派活動家だったという。
集会参加者は、幾つかの通りで散発的に起きた抗争の中で反対派と衝突した。ネオナチ(旧ナチスのシンパ)のジェームズ・フィールズ容疑者(20)は車で反対派の中に突っ込み、ヘザー・ヘイヤーさん(32)を殺害、19人を負傷させ、殺人罪で起訴された。フィールズ容疑者は、反ユダヤ主義の国家社会主義団体を標榜する「バンガード・アメリカ」と呼ばれる団体の集会に参加していたとみられている。
フー氏は、中国とは異なり、米国はこうした自国の問題を否定しようとしていないと話す。
「もう1つの大きな違いは、米国は国内のひどい出来事であっても隠ぺいしようとしていないことです。米国はシャーロッツビルのような出来事に関する世界的な報道を許容しており、そもそも中国が米国における人種的衝突を知っているのはそのためです。一方、中国の人権侵害のニュースは、多くの場合、個人が大きな危険を冒して情報を外国人記者に渡し、届けられます。その上、人種絡みの暴力が起きた場合、一般に米政府当局者は即座に公然と非難するのに対し、中国当局者は目撃証言が多いにもかかわらず、人権侵害は起きていないと主張しています」
米国に本部を置く国際NGO「フリーダム・ハウス」が3月に発表した報告書(英語)も、中国の宗教的迫害の深刻さを明らかにしている。
同報告書は、カトリックやプロテスタントを含むさまざまな宗教団体に所属する1億人余りの人々が、中国の共産党政権下で「中レベル」または「高レベル」の迫害に直面しているとしている。
迫害の事例として、「道教の門弟は、いつ聖職に就けるか分からないまま修行に参加することになる。多くのキリスト教徒が、クリスマスを一緒に祝うことを禁じられている。チベットの仏教僧は、(中国政府がダライ・ラマは悪だと教える)『愛国的再教育』の中で、仏教の教義を再解釈したものを学ぶよう強要される。ウイグル人イスラム教徒の農民は、畑で祈ったために9年間の禁錮刑を宣告された。中国東北部在住の45歳の父親は、法輪功を実践したために何日間も拘束され、死亡している」などと紹介している。