ロシアで昨年7月、教会の建物や敷地外での伝道などを禁じる「伝道規制法」が施行されてから1年がたった。ノルウェーの人権組織「フォーラム18」の報告によると、同法による取り締まりはこれまでに186件に上り、ロシア国内で活動する宗教のうち半数以上が少なくとも1回は起訴されたという。また、2014年にロシアが併合したクリミアでも迫害が報告されている。
同法は昨年7月7日、反テロ関連法の一部として、ウラジミール・プーチン大統領が署名して成立し、約2週間後の同月20日から施行された。フォーラム18が今月8日に発表した報告(英語)によると、施行後の1年間で同法に絡み起訴された事件は186件に上り、そのうち138件が有罪とされ、135件で罰金が科された。また、11件で宗教的配布物が押収され、外国人5人が国外退去を命じられた(うち1人は控訴審で逆転)。
宗教・教派別では、ペンテコステ派を含めたプロテスタント教会に分類されるものが57件と最も多かった。さらにキリスト教関係では、バプテスト派26件、ギデオン協会関係6件、セブンスデー・アドベンチスト教会3件、救世軍1件、長老派教会1件、ウクライナ改革派正教会1件、在外ロシア正教会1件、新使徒運動関係1件などがあった。また他宗教では、エホバの証人41件、ハレ・クリシュナ12件、イスラム教9件、仏教3件、ユダヤ教3件、モルモン教1件などがあった。
クルミアでは27件が報告されており、そのうちこれまでに16件で罰金が命じられている。
フォーラム18によると、家庭で行われる祈祷会や、宗教グループがウェブサイト上に礼拝の時間を告知することさえも、警察や検察当局は「宣教活動」と見なしたという。
伝道を規制する具体的な法律条項は、「行政規制条項5・26条」の第3項から第5項まで。このうち第3項は、宗教団体が、正式な名称を表示せずに活動することを禁じている。これは、宣教活動として行う、配布物や印刷・視聴覚教材の発行・配布も含まれており、配布物などに宗教団体の正式名称が記されていなかったり、表記が不十分であったり、あるいは故意に誤った表記がされていたりした場合、処罰の対象となる。第4項はロシア人による宣教活動について、第5項は外国人による宣教活動について制限を定めている。しかし、フォーラム18によると、「宣教活動」が何を指すのかは明確ではないという。
首都モスクワの南約360キロに位置する都市オリョールで15年余り暮らしているバプテスト派の米人宣教師、ドナルド・オズワルド牧師(55)は、同法により起訴された1人だ。妻との2人暮らしだが、昨年8月に有罪となり、4万ルーブル(約7万4千円)の罰金を支払ったという。自身のウェブサイト(英語)に一連の経緯を詳細に記しており、次のようにつづっている。
「私はアパートの玄関にキリスト教のトラクト2枚を貼ったことで起訴されたのです。個人宅で集会を開いたこともあり、それが新しくできた伝道規制法違反だというのです」
「起訴理由には、私が宗教グループの活動を始める前、政府に通知しなかった責任も含まれていました。私は、法律は組織的な宗教団体の設立を認めているが、そうしなければならないと要求しているわけではないと指摘しました。集会を開いて神を礼拝するのは、公式な団体を組織しようがしまいが、自由なのです」
同法は、住宅地で伝道活動をすることも禁じており、インターネット上で自身の信仰を他者と分かち合う場合も、特定の書類を所持している必要がある。違反した場合、個人に対しては5千〜5万ルーブル(約9千200円〜約9万2千円)、団体に対しては10万〜100万ルーブル(約18万5千〜約185万円)の罰金を定めており、外国人の場合は国外退去させられる可能性もある。