女優として活躍し、三浦綾子の人生を描いた初の演劇「本当によかったわね」では主役を演じた須貝真己子(すがい・まいこ)さんと、夫で映像制作の会社を経営するキム・セジュンさんに話を聞いた。
東日本大震災を通して出会った2人
セジュンさんは韓国でドキュメンタリー制作に携わっていたが、仕事に行き詰りを感じ、新しい道を模索したいと単身来日した。2011年3月8日のことだ。ところが、その3日後、東京で東日本大震災に遭い、帰国予定だった12日は空港が閉鎖され、翌13日の朝の便でようやく帰国することができた。
「飛行機が1日延期されたので、アップグレードされビジネスクラスに座れて、普通はラッキーと思いますが、この時はとてもそんな気持ちになれませんでした。窓の下に広がる日本列島を眺めながら、涙が止まらず、自分に何かできることはないだろうかと、ずっと考えていました」
帰国後、セジュンさんは日本の現状を友人や先輩に伝えながら「何かできないか」と相談し、やはりこれまで培ってきた技術を生かしてドキュメンタリーを撮ろうと決め、すぐに3・11に撮影した東京都町田での賛美集会の動画をユーチューブで配信した。そして、教会で献金を集め、撮影のために日韓を1週間ごとに行き来する生活が始まった。
「今のように格安チケットがなかったので、たいへんな費用が掛かりました。それで、日本で部屋を借りた方が安いと思い、パソコンだけ持って日本での生活をスタートしたのです」
その後、クリスチャンのアーティストたちと合流して被災地をボランティアとして回る活動に参加する。この活動を通してセジュンさんは須貝さんに出会い、東京へ帰ってからも頻繁に会うようになった。
須貝さんはセジュンさんとの出会いをどう考えているのだろうか。
「実はセジュンに会う前から、彼のドキュメンタリーを観ていました。映像を通じて彼の人となりが伝わってきたので大体のイメージは持っていたのですが、被災地でのボランティア活動中に自然と恋心が芽生えたんです」
こうして、震災の翌年の2012年、2人は結婚し、3年後に娘のアリンちゃんが与えられた。
2人の信仰ストーリー
須貝さんは埼玉県所沢市で生まれ育った。3歳の時に両親と共に教会(日本フォースクエア福音教団)へ通い始め、日曜学校で遊びながら聖句を学び、賛美に親しみながら育ったという。
「小学5年生の時に大きな聖会があって、賛美の中で『キリストの血潮によって罪が赦(ゆる)された』という歌詞に涙が止まらなくなりました。頭ではなく心でイエス様を受け入れることができたんですね。両親に話して、受洗しました。複雑な大人の人間関係を知り、高校生になると教会を離れてしまったのですが、20歳でまた戻ることができました」
一方、セジュンさんはクリスチャン家庭の4代目として生まれた。周りが皆クリスチャンで、家族も親戚も教会へ通っていたが、セジュンさん自身の信仰には波があったという。そんなセジュンさんに大きな転機をもたらしたのが軍隊に入ったことだった。徴兵制がある韓国では、男性は19~29歳の間に約2年間の兵役期間が義務化されているのだ。
「あまりにその生活が厳しくて、何度も逃げようと思いました。田舎の基地なので、夜空の星がきれいでした。それを眺めながら、明日は上官に殴られないようにと、毎日祈り続けました」
その後、先輩のクリスチャンとの出会いを通じて、兵役の間、ずっと早天祈祷会に出続けたという。聖書しか読まない生活の中で、神との関係が深まっていく。
「軍隊を出たら神様のために何かをしたい、そう決意したのです。退役後は広告会社に就職しましたが、そこはお酒の付き合いばかりで、このままでは元の生活に戻ってしまうと思いました。そのような中であるドキュメンタリー監督に出会い、2011年までの8年間、映像の仕事を続けました。そこで行き詰まりを感じて日本へ渡ったのです」
家族が一致して礼拝すること
「娘のアリンが生まれて、今年の4月で1歳5カ月です。そろそろ女優業を再開したいと考えて、親しい牧師に相談し、アドバイスを受けたんです。そうする中で、今はやはり神様を中心にして、娘と共に家族で密に過ごすことが一番ではないかなって考えるようになりました」
昨年からの2人の目標は、家族が一致して歩むこと。女優の仕事も継続しているが、バランスを考えながら取り組んでいくそうだ。
セジュンさんは言う。「教会に行く時だけ良い顔をする夫婦では、子どもが混乱してしまいます。すばらしいミニストリーをしている人はなおさらそうではないでしょうか」
これは親しくしている牧師から学んだという。ミニストリー(働き)が先ではなく、家族が一致して神を礼拝することが大切。そうでなければ、次世代に神のことを伝えられないからだ。
感謝して神に従う
「僕たちのビジョンは、何かをすることではなく、まず感謝して神様に従うことですね。この1年間ですごくその大切さを学ばされました」とセジュンさん。
2014年には経済的な危機を迎えた。右往左往しながら新しい映像の道を模索したこともあったが、思うようにいかなかった。セジュンさんは不安や怒りを抱えたまま、自力で自分の可能性にかけていく。2015年に賞金目当てでドキュメンタリーのコンペに出品。出だしは好調で、入賞を繰り返した。「ほら、みろ。神様がいなくても、うまくいくじゃないか」。そう思うほど、その頃のセジュンさんは天狗になっていた。
ところが、16年5月から急に仕事がうまくいかなくなり、制作に投資した分の請求だけが送られてくるようになった。そんな時、不思議とクリスチャンから映像制作の依頼が入り、その内容を通して心の目が開かれていく。あるインタビューで、「神様へのつぶやきはそのまま信仰告白になる」という話を聞いたのだ。
「バリアーが割れました。僕は『祈っても聞かれない神様』を自分の口で告白していたのです」
その頃、礼拝のメッセージや聖書通読から不思議と「唇を清めなさい」という言葉を聞くことが多くなった。それから2人は、「とにかく感謝しよう」「不満はやめよう」と互いをチェックし合い、励まし合うようになった。
「出エジプトを成し遂げたイスラエル人が、目的地カナンを目指しながらも、『エジプトが良かった』と不平不満を口にしたように、人間はどうしても同じループに陥ってしまうのです」
2人がさまざまな困難の中を通りながら、この1年間で次のことを学んだという。
- 感謝の根底は、状況や環境とは関係がない
- ただイエス様が愛してくださること、1番良い道を教えてくださることを信じる
- 「この今の環境を感謝します」と信じ抜くこと
2人の夢は、子ども向けの聖書を題材とした番組を作ることだという。
「神様の御言葉に親しみ、神の声に従える訓練が幼い頃からできていたら、これほど幸せなことはありません」