フィリピン南部で猛威を振るう過激派グループから逃れたイスラム教徒の避難民たちに、聖書が入った支援物資が届けられていたことについて、現地のカトリック教会の大司教は、キリスト教徒とイスラム教徒間の緊張を助長する可能性があり、配慮が足りないとして非難した。
南部ミンダナオ島にある都市マラウィでは5月末、過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う「マウテ・グループ」など、複数のイスラム過激派グループが町を占拠し、政府軍との間で戦闘が続いている。戦闘による避難民は40万人に上るとされ、カトリック教会の大聖堂やプロテスタントの学校が焼き払われるなどした。また、司祭1人と数人の教会スタッフが人質にされている。
避難民のうち、約1万8千人がミンダナオ島内に設置された避難所におり、キリスト教のグループを含め、さまざまな団体が救援物資を届けている。
しかし今月初め、イスラム教徒の家族に配られた救援物資の中から、現地で使われているマラナオ語で訳された聖書が見つかった。バチカン放送(英語)によると、現地ダバオ教区のフェルナンド・カパラ名誉大司教は、キリスト教徒とイスラム教徒間の緊張を助長する可能性があると述べ、非難した。
「もし故意に行っているのであれば、それはイスラム教徒に対する侮辱か、あるいは彼らの必要に無知なのです」。カパラ名誉大司教は、こうした行動は他の宗教者に対する尊敬の欠如を示すものだとし、聖書入りの救援物資を配る場合は、事前にイスラム教の指導者たちに相談すべきだと語った。「私たちはもっと敏感になるべきです」と言う。
イスラム教の諸団体もまた、このような聖書配布を非難した。世界のキリスト教宣教情報を配信している「ミッション・ネットワーク・ニュース」(MNN、英語)によると、マラウィに近く、多くの人々が避難しているイリガンのイスラム教指導者組織「イリガン・イマム同盟」の元会長は、イスラム教徒に対する支援物資に聖書を入れることは、益を与えるよりも、害となる可能性があるとし、キリスト教諸団体にこうした行為をやめるように呼び掛けた。
しかし、救援物資と共に聖書を配布しているキリスト教団体「米国殉教者の声」の広報担当者であるトッド・ネトルトン氏は、次のように述べている。
「このイマム(イスラム教の指導者)は、『私たちは、イスラム教徒たちに聖書を持ってほしくありません。彼らは聖書を持つべきではありません。彼らは聖書を読むべきではありません。これは騒動を引き起こし、いろいろな問題を引き起こします。あなたがたキリスト教徒は救援物資の中に聖書を混ぜるべきではありません』と言っているのです。彼は、イスラム教徒の避難民がコーランを読み、さらにその後で聖書を読んで、どちらが真理を語っているかを決めることを望んでいないのです」
また、他宗教者に対する配慮と尊敬が足りないとするカペラ名誉大司教の非難に対しては、「改宗させようとする試みは、明らかに慎重な仕方で、そして適切な方法で行われる必要があります。しかしキリスト教徒として、私たちは、現在信じても受け入れてもいない人々を含め、あらゆる人が神の御言葉を読み、御言葉がイエス・キリストとその救いの道について語る内容を知ることを絶対に望むべきなのです」と述べた。
一方、フィリピンのカトリック教会は、マラウィで起きている紛争が本質的に宗教間の対立によるものではないと強調している。過激派グループは、イスラム教徒とキリスト教徒の両者から非難されており、カトリック系のフィデス通信(英語)によると、フィリピン・カトリック司教協議会は声明で次のように述べている。
「私たちは、マラウィの紛争が本質的に宗教戦争ではないと考えています。私たちは、イスラム教徒が私たちをどのように保護し、差し迫った死からキリスト教徒が逃げるのを助けたかについて、本当に素晴らしい話を聞き、また読んでいます。今、キリスト教徒は、マラウィから逃れた数千人のイスラム教徒を助けています。これらは、宗教戦争がないという明白なしるしです」